59 アンコールと完全燃焼
「いよいよだな。」
「いよいよですね。」
「いよ一っ!張り切って参りましょうか!」
「オーッ!」
今日は、文化祭。
園芸部の部員達は、体育館の壇上で
幕が開くのを待っている。
それぞれの楽器を手に気合いを入れた。
ササササッ。幕が開いた。
体育館は、生徒や父兄、外来者で満員だ。
ダン♪ダダダンダン♪
七草のドラムでスタートを切った。
ドゥンドゥドゥドゥン♪
そこに短亀ちゃんのベースが重なって行く。
部長のキーボードで音に厚みを増すと
七海とチョン君のツインギターが唸りを挙げた。
ウィ~ン!
キィーン!
体育館は、一気に歓声と興奮に溢れた。
そこにヨッシーが登場した。
女生徒の悲鳴の様な歓声が沸き起こった。
彼女は女子人気が凄いのだ。
今回のコスチュームは、まるで…
と言うより怪獣のガメラを模した様だ。
胴体の甲羅は、もちろん頭部や肘、膝、手足。
全身にトゲのようなウロコが付いている。
不気味なはずの見た目を
その美顔や長い脚がエロティクにみせている。
「カメカメかめかめカメカーメ♪」
ボーカルはサビから始まった。
声色を次々と変え力強い歌声で観客を圧倒した。
間奏では、それぞれの楽器のソロ演奏。
それに合わせてヨッシーが
セクシーダンスを披露した。
生徒は、みんなスマホカメラで撮影をしたり
一緒にダンスを踊る者までいた。
「夏は、クールに冷やしうどん♪
冬は、ホットに鍋焼きーっ♪
並盛り大盛り特盛一っ♪
期間限定短かめー♪
通常うどん一年中♪」
短亀うどんの宣伝を余すところなくやり終え
一曲目が終了した。
短亀ちゃんは、既に完全燃焼した様な
満足顔な笑みを浮かべた。
拍手が鳴り止まない中で
ヨッシーのMCが始まった。
「皆さん、こんにちは!ナクサバンドです。
我々は、園芸部と言う枠に囚われず
社会活動やボランティアなどにも
積極的に参加してきました。
このバンド活動もその一環です。
そこに設置してある募金箱に
皆さんの支援の心を寄付という形で
お願いできたら幸いです。
この募金は、青少年育生の為の基金に
募金する予定です。
皆さんの温かいご支援をお待ちしております。
では、2曲目は
至極のラブバラードをお届けします。」
壇上の照明が少し暗くなった。
ポロロンロ~ン♪
部長のピアノ音から演奏は、始まった。
静かに、みんなの音が重なっていく。
ヨッシーは、ゆっくり腰を振りながら
その音に身を任せている。
そこへ七海のギターが
むせび泣くようなメロディーを奏でた。
ヨッシーが静かに歌い始めた。
客席は、静まりかえっている。
その演奏、その歌を…
一秒たりとも聴き逃すまいとしている様だ。
ヨッシーは、感情がこもったのか
啜り泣きながら歌い
間奏に入ると会場に背中を向けた。
ピアノとギターが切ないメロディーを奏でている。
ヨッシーは、膝をつきうなだれている。
女生徒達の悲鳴や歓声が上がった。
すると、突然、
ヨッシ一が背負った甲羅が左右に割れた。
「きゃあっ!」
悲鳴が、あちこちで沸き起こった。
ヨッシーは、客席に背を向けたまま
ゆっくりと立ち上がった。
自然に甲羅は、左右の肩から頭部
肘、膝のトゲも外れて
"バサッ!"真っ白な羽毛が現れた。
頭部は、紅い羽根の冠。
首元や手足は、黒いエナメル。
後は全身真っ白な羽毛。
それは、まるで鶴の様な姿だ。
亀から鶴に変身したのだ。
ヨッシーが、ゆっくり振り向くと
更に大きな歓声が上がった。
その姿は、美空ひばりか、紅白の小林幸子を
彷彿させる。不死鳥伝説の再来だ。
両手を広げると
真っ白な羽毛が羽根の様に揺れている。
お爺ちゃんやお婆ちゃんは
ジュディオングの「魅せられて」を思いだした。
曲がラストに向かうと雪が舞う様に
ミラーボールの灯りが壇上を照らした。
ヨッシーがキーボードの上に持ち込んでいた。
小型のミラーボールを
部長がスイッチ ONしたのだ。
ヨッシーは渾身の思いでラブバラード歌い上げた。
感動の余り、あちこちで泣いている者さえいた。
「ありがとうございました。
次が最後の曲になってしまいました。
聴いて下さい。ブレー・キング・ワールド」
ドンドン♪ダダダ♪ダンダン♪ジャーン♪
ハードロックサウンドが鳴り響いた。
ヨッシーが髪を振り乱してシャウトしながら
真っ白な羽毛のコスチュームを脱ぎ捨てた。
その下には、真っ黒なエナメルのボディスーツが
ヨッシーの肢体をギュッと詰め込んでいた。
豊満な胸と尻、細い腰と長い脚を
セクシーに強調している。
「ぶっ壊せ!ぶっ潰せ!腐れた社会を踏み漬せ!
地ならしだ!更地化だ!正義の巨人よ現れろ!
ブレーキングワールド♪ブレーキングワールド♪
一からやり直せ!腐敗政治のハゲおやじ!」
「ハゲ校長ー♪」
「痴漢にセクハラ!やめてくれー♪」
「出歯教頭♪」
(うん?何だ⁉︎ )
ヨッシーは、七草の方を振り向いた。
一心不乱にドラムを叩きながら
コーラスとは、程遠い、がなり声をあげている。
「ハゲハゲハゲハゲ校長♪
出歯でばデバでばデバ教頭♪」
「まずい!七海、ギターの音量上げろ!」
ヨッシーは、七海に近づき耳打ちしたが
七草も負けじと、声量を上げた。
ハードギターと七草のバカデカい声の
一騎打ちになった。
観客は、興奮して、みんな立ち上がり
手足と歓声で、リズムを割んだ。
ヨッシーも髪を振り乱しシャウトしている。
いつのまにか自身も無意識に
「ハゲ校長♪出齒教頭♪ 」
と歌っていた。
そして終わった。自分も終わった。
この学校生活も終わったとヨッシーは、思った。
涙が自然と流れた。
拍手と歓声とスタンディングオーベーション。
それを浴びながら部員は
逃げるように脇へ消えて行った。
その背中にアンコールの声が響いた。
ヨッシーが、ポツンと呟いた。
「やっちまったな。退学だな。
でも思いっ切りやれたからな。
まっ、いっか。なぁ、ナクサ…
あれ?どこ行った?
ナクサは⁉︎ 」
「あっ!向こうだ!反対側だ!
なっ、何だ!あの格好は⁉︎ 」
拍手と歓声の中
手を振りながら満面の笑顔で七草は
増上のセンターに立った。
鼻に縦笛。口元にハーモニーカ。
腰に四つのタンバリン。
足には、無数のカスタネット。
異様な風貌に観客は、一瞬で静まりかえった。
「なっ、何をやるつもりだ⁉︎
もう時間も無いぞ!」
ドンドンダン!ドンドンダン!
七草が足踏みをして激しく床を鳴らすと
カスタネットとタンバリンがガチャガチャと
けたたましい音をたてた。
さらに両手を、高く掲げて手拍子をすると
観客も一緒にリズムを刻み始めた。
鼻で縦笛、口でハーモニーカ。
聞き覚えのあるメロディーが流れ始めた。
「オイ!これって
クイーンのwe will rockyouだろ!」
「そうだよ!みんなっ!行くぞ!」
「お一っ!」
「はいーっ!」
みんな壇上に戻り
それぞれの楽器をセットし終わると
大きく腕を掲げて手拍子に参加した。
更に大きな歓声が上がった。
ドンドンダン!ドンドンダン!
ヨッシーが七草と向かい合い
リズムに乗せて歌い始めた。
「we will we will rock your ♪ 」
練習などした事ない曲だ。
ノリだけで演奏が始まった。
ヨッシーは、後は、いい加減英語で歌った。
サビのあたりで
七海のファズギターが唸りをあげると
それに合わせて一つづつ楽器が重なっていく。
七草は、床が抜けそうな程に足を踏み鳴らし
タンバリンとカスタネットを打ち叩き
陶酔した様にハーモニーカと笛を吹き鳴らした。
終焉が近づいた。
最後に七草は、全ての楽器を剥ぎ取り
床に叩きつけ、サッサと脇に消えて行った。
後には、縦笛、ハーモニカ、タンバリンに
無数のカスタネットが散乱していた。
取り残された部員達は、呆気に取られたが
部長と短亀ちゃんが
七草が置き去りにした楽器をかき集め
それをみんな持てる限り持って
増上から脇に向かった。
最後に部長がカーテンの横で深々と頭を下げてから
脇に消えて行った。
鳴り止まない拍手と歓声がそれを見送った。
部室に戻ると七草が角席に座っていた。
「今は何の席なんだ?そこは?」
「完全燃焼席だ!」
「そうだろうな!」
みんな顔を見合わせて大笑いした。
「ハハハハッ!」
「ウフフフッ!」
「ひゃはははっ!」
続く




