55 壇上のマドンナ
「あちぃ〜〜い。暑ぢぃ〜い。アッチ〜〜イ!」
「ナクサ!何度、言っても涼しくならんぞ!
それが限界なんだから少し黙ってろ!
余計、暑苦しくなる。」
夏休みも終わり始業式の日の放課後の部室。
「そうだぞ!みんな暑いのは、同じだ。
それなのにいつも、そこで職員室の冷気を
独り占めして...
扇風機で全体に行き渡らせろ!
その方が結果、涼しくなるはずだぞ!」
七海が嗜めると七草が応えた。
「…って言うかさあ!設定温度の問題だろ。
もっと下げんと涼しくならんよ。
七海、今から職員室に直談判して来いよ!
副部長としての責務だ!」
「それは、オマエの仕事だろうが!
生活委員のなっ!
また委員会で提案すればいいだろ!
おっと、悪りぃ!これは、禁句だった。」
「七海!わかってて言っただろうがっ!
このイヤミ男!」
「ハハハッ!だって傑作じゃないか!
あれ程、生活委員だ。風紀委員だ。
それで学校を牛耳るんだとか言ってたのに
クラス委員選考の時に居眠りして
その間にその座を他の者に奪われるなんて
おかし過ぎるだろ。
風紀委員になった鈴木なんか
嫌々やらされたんだぞ。
代わってやれば良かったのに…
プライドが、どうとかこうとか言って…
今からでも代わってやったらどうだ。
ヨッシーに取り持って貰えばいいだろ。」
「ああ、ナクサにその気があるなら
話しを付けてやるよ。」
「嫌なこった!
こんな不正をして委員長になった奴に
口添え何かして欲しくねぇーよ!」
七草の捨て台詞にヨッシーが切れた!
「何っ!聞き捨てなんねぇー!
私がいつ不正をはたらいたよ!」
「アンタ、委員選の前の日に
ロッカーの隅で男子の胸ぐら掴んで
何か凄んでたよね。
アイツ、ヨッシー委員長反対派のリーダーだよな。
いきなり頭を脅して
自分の立場を有利にしょうってのは
どんなもんかね?」
「ほっ、本当にそんな事やったのか?ヨッシー!」
七海が驚いてヨッシーに問うた。
「そっ、それは、アイツが風紀を乱すような事を
しようとしたから注意したまでだ。」
「アイツは、何をしたんだ?」
「だ、か、らっ!私を落選させようとしただろ。
私が委員長じゃなくなったら
このクラスの風紀を誰が守って行くんだい!」
ヨッシーの必死の訴えに七海が冷静に応えた。
「極論だな!」
「アンタが、実行支配したいだけだろ。」
「ナクサ!アンタが居眠りなんかして
生活委員の座を逃すから
私は、一人で背負い込んでしまったんだよ!
アンタと二人で、やるはずだったじゃないか!」
「ガーン!それを言われると弱いよ!
ヨッシー!!すまん。
さっきのは、失言だ!
来たる生徒会選には
風紀委員長として立候補し
絶対当選してみせるよ!
その時はアンタのその力
大いに利用させて貰うよ!」
「だから、脅しや暴力は、絶対駄目だぞ!」
「そうですよ。
くれぐれも問題を起こさない様にお願いしますよ。」
七海と部長が七草とヨッシーを制した。
「七草!大丈夫か?選挙演説。
オマエの緊張がこっちまで伝わって来て
こっちが落ち着かんのだけど。」
廊下を歩きながら七海が心配した。
「まっ、任せろ。
毎度毎度やらかしたりせんよ。」
「それにしちゃあ、手足が一緒に出てるぞ。
歩きにくくないのか!」
「ああ、そうか!
何だかフワフワ浮いてるような気分だ。
雲の上を歩いたら、こんな感じかな。」
「ヤバイな。こりゃ!」
今日は生徒会役員の選挙演説の日だ。
それぞれの立候補者が、体育館の壇上に立ち
豊富などを語る。
当選には、欠かせない最後の大舞台だ。
全校生徒達が一斉に体育館に向かっている。
現生徒会長からの注意事項の後に
まず生徒会長候補者の演説が始まった。
脇から第一番目の立候補者が現れると
大きな歓声が上がった。
その殆どは、男子生徒からのものだったが
園芸部員の反応は他の生徒は全く違っていた。
「聞いてないよ〜〜っ!」
壇上に立ちマイクを手にしているのは、誰あろう。
演劇部部長。冬本千晴だ!
「皆さん。こんにちは!
二年A組。冬本千晴です。
ギリギリの立候補となり選挙活動もないまま
この壇上に立たせて頂いております。」
部長の選挙演説が始まった。
男子連中は、演説よりも
部長の声と容姿の華麗さに見惚れていた。
「ギリギリ立候補なんてよく言うよ。
とっくに申し込みは、過ぎていたはずだ。
生徒会と生徒指導部長を垂らしこんで
無理矢理ねじ込んだんだろ。
それにしても私達にさえ一言も、無いなんて
どう言う了見だい?
七海!アンタは、知ってたのか?」
「あっ、ああ。まぁな。口止めされてたんだよ。
壇場に立つまで黙っててくれってさ。」
「まさかサプライズなんて言わないよな?」
「そのまさかだよ!」
「また、「面白そう」と、でも思ったかね?
しかし、生徒会長の立候補者は
この学校内でも強者揃いだ。
あの中にあって、部長でも
さすがに出遅れ感は脱ぐえんぞ。
選挙活動無しに当選は、難しかろう。」
「……と言う事で私の生徒会長立候補の
演説を終わります。」
部長が深々とお辞儀をすると
男子連中の拍手と歓声が沸き起こった。
顔を上げ、こぼれる様な笑顔を見せると
さらに歓声が沸き起こった。
まるで人気アイドルか女優が
壇上に立っている様な盛り上がりだ。
部長は、手を振りながら脇に消えて行った。
その姿をスマホで撮影する者さえいた。
「こりゃ来るかもしれんな。
去年の文化祭も
クラスの催しのカフェで注目されて
ミススクールに飛び入り参加させられたんだよ。
それでNo.1の座をかっさらったんだからな。
やりかねんな、これは!」
「そんなんで、なれるんだったら
アンタも出てみりゃ良かったのに。」
「えっ?何で。
生徒会長なんてなる気もないのに
しゃしゃり出ること事は、ないだろ!」
「腕試しだよ。
ここらで部長との
美神対決の決着をつけた方が
いいんじゃないのか?」
「今やってるのは
ミススクール選考会じゃないぞ!」
「似たようなもんだ。
結局、人気で決まるんだからな。
頭の良さそうな真面目君が立候補しても
票は集まらんよ。」
「それで、よくアンタ立候補したね。
人気があるとは思えんけど…
勝算があってやってる事だろうな!」
「あたり前だろ!愛は勝つ!」
「いやいや、愛を語るより
当選してからの方針や抱負を述べた方が
良いのじゃないか!」
「そんなものは、みんなやっている。
ありきたりで面白くない。
私は、自分を貫くよ。」
「ウケ狙いでピントが、ずれた話をするなよ。
見苦しい事、この上ないからな!」
「任せとけ!ああ、そろそろ出番だ。
行って来るよ。健闘を祈ってくれ!」
「そだな!頑張れよ。」
続く




