42 果し状無き決闘
七草が、草の上に腰を下ろすと
みんなも、つられて、そこに座った。
「去年を思い出すな!
あの、天星山に行った夜。」
七海がそう言うと、みんな夜空を見上げた。
満月と無数の星が煌めいている。
蛍の光との饗宴が繰り広げられていた。
すると七草が膝を抱えて泣きだした。
ヨッシーが優しく肩を抱いてあげた。
「七星の事、思い出したのか?」
「七星の事、忘れる日は、ないよ。
あの夜の事を思い出したんだ。
ダーリンが、おんぶしてくれたんだ。
あの温もりが、今は遠くに行ってしまった....」
そう言いながらまた、大粒の涙が瞳から溢れた。
「あっ!流星だ!」
七海が突然、星空を指差した。
ヨッシーがそれに反応した。
「えっ!どこ⁉︎ 」
「ハハッ!もう消えたよ。一瞬だからな。」
「あっ!アソコも!ホラッ!」
今度はチョン君が夜空を指差した。
今度はヨッシーも間に合って見る事が出来た。
「本当だ!蛍に見惚れて気づかなかったな。」
「そう言えば
そろそろ流星群が見られるんだったな。
去年は、ピークを狙って行ったから凄かったけど…
それでも、ここは良く見える場所に違いない。」
七海の言葉に部長も同調した。
「そうですね。
森にぐるりと囲まれて
天星山の頂上とよく似ていますしね!」
「部長!良いところに招待してくれたよ。
ありがとう!」
七海が改めて部長にお礼を言うと
短亀ちゃんも少し瞳の潤んだ笑顔でお礼を言った。
「本当にそうです。
ありがとうございます。
感動しました。」
「私は、何もしていませんわ!
お礼なら蛍さん達と星空にして下さい。」
「部長!アンタやっぱり粋だね!
江戸っ子かい?」
「そんな訳ないでしょ!」
「ナクサ!場違いなボケすんなって
折角、部長がいい感じで締めたのに…」
「ハハッ!そだな!」
しばらく蛍と星空と流星の
スペシャルナイトショーを楽しんだ。
「そろそろ別荘にもどろうか…」
ヨッシーが声を掛けた。
部長は、この神秘的な光景に
うっとりと見惚れて
七海の肩にもたれかかり
ロマンチックな気分にひたっていた。
「千晴!そろそろ戻ろうか?」
みんな立ち上がって玄関に向かっている。
「あっ!そうですね。
なごり惜しいですけど…」
そう言いながら立ち上がった瞬間。
部長が七海の首に腕を回していた。
濃厚なキスを部長が仕掛けた。
七海は驚ろいたが直ぐにそれに応えた。
それは、一瞬の事だったが
七海にとっては、長い時間の様に感じられた。
気がつくと部長は
もう走ってみんなの後を追っていた。
その時、七海は、確言した。
今夜何かが起こる。
これは、千晴からの合図だ。
七海は、そう思いながら彼女の姿を追った。
その背後では、満月が池の水面に映されて
ユラユラと妖しく揺れていた。
「みんな、もうお風呂には、入りましたか?」
「ああ、後は、部長と短亀ちゃんだけだ。
食事の用意や、なんやらで
遅くなって申し訳なかったな。」
「いいえ!皆さんに楽しんで頂くのが
私にとっての喜びですから…
全然、気にしないで下さいね。
後は、もう、お休みになっても良いですし
このまま、くつろいで頂いていても、結構ですよ。
ただ、あまり夜更かしはしないように
よろしくお願いします。
では、短亀ちゃんお風呂の方、お先にどうぞ!」
「いえ!そんな部長さんからお先に!」
「どっちでも、いいだろ!
一緒に行けよ!」
「そう。そうですわね。短亀ちゃん!
よろしいかしら?」
「ハイ!是非!喜んでっ!」
二人は、ニコニコしながら浴室に向かった。
「オイ!七海っ!」
「えっ!」
「何、ボケーッとしてるんだよ!
どうせ部長の入浴姿でも想像してたんだろ!」
「ちっ、違っ、違うぞ!
そんなもの一ミリも
1グラムも想像してないからなっ!」
「七海…必死過ぎて痛々しいよ。
オマエの苦悩は、痛い程わかるよ。」
「ヨッシー……いや!駄目だ!
俺が、しっかりしないと…
でも、もし向こうから来られたら…
ああ....俺は、どうしたらいいんだ?」
七海は、ブツブツと一人呟いた。
「七海!アンタ、今っ!
あの有名な彫刻みたいな格好してるよ!」
七草の言葉にヨッシーが付け加えた。
「ああ、ロダンの考える人な。」
「しかしアンタの場合は
そんな生優しいもんじゃないね。
欲望に悶えて苦しむ人だね。」
七草が同情すると七海がいよいよ頭を抱え込んだ。
「ああ、俺、このまま悶え苦しんで
死んでしまいそうだよ...」
「七海!
何、ウジウジ悩んでるんだよ。
今夜、部長に仕掛けてやりなよ!
バーン!と決めてやりな!
ズドーンと!」
ヨッシーが慌てて七草に近寄り耳打ちした。
「ナクサ!何けしかけてるんだよ!
阻止するんじゃなかったのか!」
二人は、七海に聞こえないように
ボソボソと会話をした。
「作戦変更だ。
部長が挑戦してくるなら
こちらも受けて立とうってもんじゃないか!
七海は、囮だ!
その場面になり易いように仕向けて
その直前でお縄にするんだ。」
「ええっ!直前なのか?
七海、可哀想過ぎないか!
そこまでなってたらヤラせてあげれば
いいんじゃないのか?」
「ヨッシー!甘ーい!
直前を逃したら
この作戦の、おもしろいさが半減…
いや!ぶち壊しになってしまう。
それだけは、絶対に避けねばならぬぞ!」
「ナクサ!アンタのお楽しみだけでやってるのか?
この作戦は....」
「そんな訳ないだろ。
お楽しみは、この作戦の本の一部だ。
真の目的は、私達の正義を貫く事
彼らの淫らな性技を阻止する事
それに尽きる!」
「大層な事言ってるけど、本当に大丈夫かい?
こんな少人数の部活で、仲間割れは、御免だよ。」
「別にけんかしてる訳じゃないよ。
正々堂々と戦うんだ。」
「でも部長からは
何も言って来てないじゃないか?
こっちの勘違いだったら恥ずかしすぎるだろ!」
「これは、頭脳戦だ。
だから水面下の戦いになると初めに言った筈だぞ。
気を抜いたら事が治まってた。
…と言う事にも、なりかねん。
神経を研ぎ澄ませて油断せぬよう
望まねばならない。」
「一人相撲じゃなかったらいいけどな。」
「これは、果し状なき決闘だ」
「そんな事していいのか!」
「どうかな〜」
「そこは、いいかげんなんだな!」
「そだね~。」
続く




