41 ヒトダマ!人魂が出たーーっ!
食事が、終わり銘々くつろいでいた。
「ハイ!チョン君は、ホットですね。」
「ありがとうございます。
ずっと部長のコーヒーが飲めなくて
禁断症状が出そうでしたよ。」
「あらあらそれは、ごひいきに…
こちらこそ
そんなに喜んで貰えると嬉しいですよ。」
「しかし、渋いね君は
この暑い夏にホットコーヒーとは!」
七草の問いにチョン君が答えた。
「まぁ、この部屋は、涼しいですし
ホットの方がやはり香りを
より感じられるかなと思って…」
「甘いなチョン君!
ところが、ところがっ!だよ。
部長の淹れたアイスコーヒーは
そんじょそこらのアイスコーヒーとは
訳が違うんだ!
アイスでも完璧に芳醇な香りが立つように
念入りにな手法が施されているのだよ!
そう、ヨッシーが言ってたぞ!」
「なっ、何で⁉︎ ナクサ!
アンタ全然コーヒー飲めないくせに
エラく熱く語ったね!
でもまあ、確かにその通りだ!」
「そうなんですか?じゃあ、部長。
次は、アイスをお願いします!」
「おい!ここは、カフェじゃないぞ!
それだけは、心得ておけよ。
自分で使ったカップは、自分で洗う。
それくらいの事は、しないとだめだぞ!
なあマスター!」
七草は七海の方を向いて言った。
「えっ!俺⁉︎ 俺の事か?
マスターって!」
「女将さんの連れなら
オヌシは、マスターだろ。」
「部長が女将でも無いし
俺もマスターじゃねーわ!
それにカップもお椀も放ったらかしで
くつろぎまくってるのは、オマエだろーが!
後輩に注意喚起などする立場か!」
「まぁまぁ、七海そんなに興奮するな!
ヨッシーも反省しとるから。」
「オマエだろっ!」
「アンタだろっ!」
七海とヨッシーが同時にツッコんだ。
パチパチパチッ!
「ハハハッ!ブラボー!最高です。
久しぶりですね!園芸部劇場!」
「だから短亀ちゃん!
これは、芸じゃないし、笑うところじゃないから…」
ヨッシーの苦言にも短亀ちゃんは笑顔で答えた。
「ハハハッ!そうですか?傑作でしたよ!」
「短亀ちゃんのスイッチが入っちまったな!」
「そだな!」
「本来ならなここで肝試し大会でも
やりたいところだがな。また、七草がやりたくない。
怖いだの騒ぎまくるからそれは、できんな!」
「アンタ達だけでやればいいだろ!
私は、ここでまどろんでるよ。」
「そんな事言わないで
みんなで散歩くらいならいいんじゃないですか?
ここは、町と違って夜は、結構涼しいですよ。」
「でもなぁ、蚊に刺されたらなぁ...」
「そう言うだろうと思いました。
ハイ!虫除けスプレー!
たっぷりかけてあげますよ。」
シュツ、シュツ、シュッ!
「わっ!まだ行くって言ってないだろ!」
「アンター人で、ここにいる方が怖くないかい?
私だったら嫌だよ。
こんな、だだっ広い屋敷に
夜の最中に一人でいるなんて、ゾッとするよ!」
「えっ!ヨッシーなんて事言ってくれるんだい。
しかし確かにそうだよ。
それは、ヤバいよ!
行く、行く!みんなと行くよ!
私とした事がうかつだった。」
そう言うと真っ先にリビングのドアを開けると
長い廊下を駆け出した!
「廊下を走らない!
もう、変わり身が早いんだから!」
「七草!懐中電灯!外は、真っ暗だぞ!」
みんな、声を掛けながら七草を追いかけた。
ガチャッ!玄関のドアの開く音がした。
少し間を置いて叫び声が聞こえた。
「ぎゃ〜〜あ!」
バタンッ!今度はドアの閉まる音がした。
「わー一っ!」
七草が凄い勢いで戻って来て
ヨッシーの胸に飛び込んだ。
「わっ!どうしたんだ!ナクサ!
部長が廊下は、走るなって言ってるだろ!」
「ヨッシー!それは、今いい!
七草!どうしたんだ!?」
七海が心配して聞いた。
七草はヨッシーの胸に顔を埋めたまま
真っ直ぐに玄関のドアの方を指差した。
「でっ、出た...」
「何が?」
「ひっ、人魂。ヒトダマ。
人魂が..出たんだよ〜っ!」
「ハハハツ。またぁ...お盆には、早いぞ!
またおふざけか?」
すると七草が七海を睨みつけた。
その瞳から涙が溢れていた。
「七草!泣いてるのか!本当なのか!」
「だから、初めから、そう言ってるだろ!
信じられないなら、その眼で確かめて来いよっ!」
「そっ、そうかわかった。
みんな行ってみよう!」
「七海!男だろっ!アンタ見て来いよ!」
「ヨッシー...それは、ないだろ!
怖いものに男も女もないだろ!」
「もう、しょうがないですね。
私が参りましょう!
今、怖くてゾクゾクしていますけど
堪らないですわ!」
部長は、本当に怖いようだが
自分を奮い立たせるように
拳を握り締め、胸を軽くトントンした。
ヨッシーがそれを見て言った。
「部長の怖がりゾクゾクワクワクか!
やっぱ変態だ!」
その言葉を背に部長が歩きだした。
「部長さん!ちょっと待って下さい!
私も一緒に行きます。」
短亀ちゃんが、スッと前に出た。
「そうですか!では、参りましょう!」
部長は、ニコニコ顔で
短亀ちゃんは真剣な面持ちで
玄関に向かった。
七海とチョン君が、その後に続いた。
ヨッシーと七草は、遠めで様子を伺う事にした。
短亀ちゃんが部長を制し
自らドアノブに手を掛けた。
犠牲的精神と正義感の表れだ。
ガチャッ!ドアが開いた。
「うわっ〜〜!」
「えっ⁉︎ ええーー!」
二人の叫び声が玄関に響いた。
一瞬、男子二人は、尻込みしたが
気持ちを奮い起こして玄関口に向かった。
その頭の上を小さな光がフワフワと舞いながら
七草とヨッシーの方に向かって来た。
「あっ!これ、蛍だよ。でも初めて見た。」
ヨッシーが呟いた
「それでビックリしたのか?」
「いや!違う!アレは蛍じゃなかった。」
「もういい!私達も行こう!」
「ワーッ!ヤダーッ!」
廊下に座り込んだ七草を
ヨッシーがズルズルと引きずって
玄関まで連れて行った。
みんなは、もう外に出ていた。
「七草。やっぱり蛍だよ。」
「えっ!そんな嘘ぉ!」
「本当だよ。
でも尋常じゃないな…この数は…
人魂と思ってもしょうがないか!」
玄関の灯りと対照的な暗闇の中に
無数の光が乱舞している。
何匹かの蛍が玄関の灯りにつられて
中に入ってきた。
その一匹が七草の頭にとまった。
「ナクサ!蛍が頭に止まってるぞ!
大丈夫か?」
「蛍は、大丈夫だ!」
七草がニッコリ顔で応えた。
「蛍も虫だぞ!」
「私が、嫌いなのは。害虫だ。
蚊も蜂も刺すヤツは、大嫌いだ。」
「それは、みんな、そうだが、ご都合主義だな!
まぁいい。
さあ、みんなのところへ行こう!」
みんな、池のほとりの間近で横一列に並んでいる。
牡丹雪の様な淡い光が
ふわふわとみんなの周りを舞っている。
何百、何千、何万匹、数え切れない程の数だ。
短亀ちゃんがピョンピョンと飛び跳ねて
触ろうとしている。
グルリと真っ暗な林に囲まれたステージで
星屑が飛び交っている様だ。
七草とヨッシーは
走ってみんなのところまで行った。
「蛍だったのか!凄いな。
人魂じゃなかったんだ。」
「本当、そう思った気持ちわかりますよ。
なんて不思議で神秘的な光景なんでしょう。」
「こんな数ありえんだろう。」
「部長は、見た事なかったのか?」
「夏は自分のウチの別荘の方で
過ごしていましたから…
こちらを訪問していたのは
秋の紅葉のシーズンや桜の満開の頃でした。
蛍の事は、聞いていましたけど
まさか、これ程までとは、思っていませんでした。」
「それで、千晴もビックリか!
おかげで、みんなには良いサプライズになったな。」
「そうですね。」
続く




