38 久しぶりのキッス
「帥匠すいませんでした。
弟子が節匠に手をあげるなんて...
破門にして下さい。」
短亀ちゃんは、両手を付いて七草に詫びた。
「短亀ちゃん!
君を破門にする事は出来ないのだよ!」
「えっ⁉︎ なぜですか?」
「だって君は、元々私の弟子では
無かったのだよ!」
「そんな、こうしてずっと
お稽古をつけてくれてたじゃないですか?」
「だって、君からは
毎月のお月謝を頂いてないのだよ!
だから初めから入門も、してないし
弟子でも、ないのだよ。」
「ええー!そうだったんですかーっ!」
「あー!もういい、いい!
その三文芝居。何なんだ。
どこかで聞いた話しだと思ったら
アンタの厚かまし自称破門弟子の話じゃないか!
短亀ちゃんも途中から、よく乗っかったね。
ご苦労さん!」
「うん!短亀ちゃん!中々腕を上げたよ!
この調子で頑張ろうね。後は、チョン君だよ!
ボーッとして七海と同じだ。
せめて相槌くらい打てんかね!
君は、先が思いやられるね。」
「ええ!また、とばっちりですか?」
「チョン君は、とばっちりしか知らんのか?
それで全部済まそうとしとるだろ。
そんなに世の中甘くないぞ!
明日までに何か気の効いたワード
もう一つ考えてくるように、いいね。宿題だよ!」
「ええ!マジですか?
ここは、自由の聖地じゃなかったんですか?」
「だから自由な発想で
新しいワードを考えて来なさい!」
「条件付きの自由なんですね!」
「そだねー!」
「しかし山で何をするんだ。
まさか、キャンプは、ないだろ!」
「いや!それも面白いかもだぞ!」
「七海アンタだけやっとれ!
それこそ蚊に刺されたらどうするんだ!」
「それは、そうだな!却下だな。」
「山って言うけど周りには、何があるんだ?」
「湖程ではないですけど大きな池があって
その、ほとりに別荘があるんです。」
「オイ!それって、アレだろ!
「爺っちゃんの名に掛けて!」の
舞台と同じじゃないか!
突然、電話線が切られて
外部と連絡が出来なくなる中で
殺人が起きるんだー!わーっ!ヤベーぞ!」
「それは、昔の漫画の設定だろ!
短亀ちゃんには、理解できんぞ。
今は、スマホがあるから
連絡網の遮断も、それは無理がある。
しかも、そんなに毎回殺人事件なんか起きないよ!」
「そうですよ。漫画やドラマのお話でしょ。
その心配は、ありませんよ。
それで...池は、とても綺麗なんですよ。
景色もですけど、湧水と通じているので
水が澄んでいて鮎などの魚もいます。
もちろん水遊びも出来ますよ。」
「いいじゃん。最高じゃん!
行こーぜ!みんなぁ!フォーッ!」
「本当、ゲンキンなヤツだ!さっきまで…
「パスだ」「行かない」だ…って、ゴネてたのに..
毎回、振り回すんだからな。」
「まぁ、それが七草か!」
「そうですね!」
夏合宿の日。
園芸部一向は叔父様の別荘の玄関前で
荷物を抱え辺りの景色を見渡していた。
「おい!これアレだろ!ポツンと一軒家!」
「そうだなぁ。
日本に、こんなジャングルがあったんだな!」
山奥の叔父様の別荘は観光地とは
かなり離れた場所にあり
喧騒から逃れ静かな佇まいを、見せていた。
この奥深い場所に前回同様…
部長のお父上が送り迎えを引き受けてくれたのだ。
ダンディパパに感謝!
「いや!ジャングルとは、いわんだろ!
アマゾンやボルネオとは、違うんだから!」
「七海、今買い物の話をしているんじゃないぞ!」
「わかっとるワッ!
南米のアマゾンの事を言っとるんだ!
それに森か林だ。」
「森林さんか!」
「もうええわっ!」
「満足されましたか?
もう好例に、なって来ましたね。」
「別に俺は、芸としてやってないぞ!
七草が変な事ばかり言うからそれを正していただ...
あっ!千晴!待ってくれよ!」
「もう、皆さん先に入られましたよ。
いつも、これなんですから
私の身にもなって下さい!」
「そっ、そうだ!申し訳ない。」
七海は、詫びを言ったが
七草はドタバタと廊下を走って
先にリビングに向かっていた。
「走らない!」
バタン!声が届く前リビングに入っていた。
「もー!しょうがないですね!」
七海の方は、到着早々、叱られて
ショボンとしていた。
それに気付いた部長が急に振り向いた。
七海は、まだ何か怒られるのかと身構えたが
思わぬ事が起きた。
部長が顔をスッっと近づけて来たのだ。
「チュッ!」
軽く唇が合わされた。一瞬の事だった。
「えっ⁉︎ 千晴!」
ビックリしていると
部長は七海の唇に人差し指を当てて何か言った。
その口の動きは
「ヒ・ミ・ツ」と小さく呟いていた。
久しぶりのキスだった。
最近は身体に触れる事もためらっていたのだ。
それがいきなりのキスだ。
驚きと戸惑いが一気に押し寄せて来た。
それとともに押さえていた欲情が
メラメラと燃える炎の様に立ち上がって来た。
駄目だ。ダメだ!こんな事では…
必死で自分を制すもう一人の自分がいる。
まさに天使と悪魔が自身の内で争っていた。
(千晴!何て事をしてくれたんだ。
ずっと抑えていた欲望を
ここに来て俺に解き放てと言うのか?)
七海は、長い廊下を先に歩く千晴の背中を
思い切り抱き締めたい衝動に駆られた。
(駄目だ!千晴もう我慢できない!許せ!)
その瞬間だった。ガチャッ!
リビングのドアが開いた!
「遅いぞー!二人共!
またエロい事してたんじゃないかーっ!
ハッハッハッ!」
七草の言葉に七海はギョッとなったが
部長の背後で、その表情を隠した。
部長は、リビングに入ると
いつも通りすまして笑顔で応えた。
「まさかです。
それより荷物を2階のお部屋に
持って行きましょうね。
階段を登ってすぐが私と短亀ちゃん。
次のお部屋が七草さんとヨッシーさん。
最後が七海君とチョン君です。
あっ!七草さん!毎回言ってますよ。
自分の荷物は、自分で運んで下さい!」
「はーーい!そーですねー!」
続く




