32 お仕置きの名は「こけし回し」
梅雨も終わると、すぐに夏日がやって来た。
昔とは違い、季節感を味わう間さえない。
春も短かく、すぐに暑くなってきた。
梅雨で一休みのつもりが、またこれだ。
この暑さがまた十月、下手をすると十一月の初めまで続き半袖Tシャツで出歩くと言う事にも
なりかねないのだ。
「暑ち~ぃ!
七海ちょっと職員室に行って
エアコン付けろって言って来いよ!
向こうがクーラーを回してくれなかったら
こっちはお手上げだ。
いくらファンを回しても意味がない。」
「また!なんで、俺何だよ?」
「七海!また、このくだりを繰り返すつもりかい!
部長は用事で不在だろ。
だったら副部長のアンタが行くべきだろ!
それとも部長が戻って来てから
行かせるつもりかい!
アンタそれでも彼氏かい!
そんな事、間違っても
婦女子にさせるもんじゃないよ!」
「ナクサ!部長が腐女子って知ってたのか?」
「知ってたも何も、アンタも私も短亀ちゃんも
みんな婦女子じゃないか!」
「ハハハッ!ナクサ!アンタまたっ!
「フジョシ」違いだよ。はい!ホワイトボード!
よく活躍するなぁ。これ!」
ヨッシーは、ホワイトボードに
[婦女子]と[腐女子]と書いた。
「何⁉︎ ヨッシー!
アンタは部長の事を腐れ女だと罵倒するのか!
そんな言い草は、私が絶対許さんぞ!
それは、多少、ずる賢いとこるもある。
いざとなると、しらばっくれるとこるもある。
金持ちの癖に意地汚いところもある。
逃げ足が早いところもある。
淫乱なところもある。
しかしなあ...えっ!ヨッシーどうした?」
真正面でヨッシーが目配せした。
その眼は、後ろ後ろと言っていた。
「後ろがどうした?」
振り向くと、いつの間にか用事を済ませて
部室に戻っていた部長が真後ろに立っている。
背中に触れる程の距離だ。
しかし、いつもの鬼の形相は無い。
あくまで無表情だ。
しかし…
その方が部長の怒りが頂点に達している事を
部員は、みんな知っていた。
次の瞬間…部長が風の様に動いた。
すると七草の首が、あり得ない方向に向いていた。
まるで幼子が、お人形の首をもて遊ぶように
クリッと回転したのだ。
素人なら即死させていただろう。
武道の超達人の部長だからこそ出来た神技だ。
「痛てててっ!参った!ゴメン!ごめんなさい!
許して!神様!観音様!お願いします〜!」
七草は、すぐに解放されたが
椅子から転げ落ち、床に伏して泣いている。
鼻水もよだれも垂れ流しだ。
「痛った〜!
マジでオシッコ少しチビったよ。」
「何度言っても七草さんには
効き目がない様なので
その都度、お仕置きして差し上げます。
それは、覚えておいて下さい!」
「怖っわっ!部長、恐えーよ!
それじゃあ、恐怖政治じゃねーか!」
「七草さんだけですよ!
皆さんは、お利口さんですから大丈夫ですよ!
ウフフッ!」
いつもの溢れるような笑顔が戻っていた。
それが今は、逆に恐いと部員は、皆、思った。
部長が、七草の首を揉みほぐしている。
まるで何も無かった様に七草も気持ち良さそうに
瞳を閉じてうっとりしている。
「痛がったり、気持ち良かったり、忙しいな。
部長!それにしても、さっきの技は、何なんだ。
一瞬、七草の首が引っこ抜けたかと思ったぞ!」
「あれは…「こけし回し」と言う技です。
秘技中の秘技です!」
「そんなものを私で試すなよ!
一度、やってみたかったぽいヤツだろ!」
「そっ、それは、違います!
でも怒りに任せて、あんな事して
申し訳ありませんでした。
反省しています。」
「それにしても、「こけし回し」って
何かエロい名前だな!」
「えっ⁉︎ 」
また、部長の顔色が変わった。
「部長!また力が入ったぞ!
そのまま私の首を捻り潰すつもりか?」
「あっ!私とした事がごめんなさい。」
そう言いながら、また首をほぐし始めた。
「しかし七草もオマエの技で
千晴の技を解く事は、出来んのか?」
七海が不思議そうに聞いた。
「出来ん事は、無いだろうが
何が起きるか保証出来んのだろう?
それは、アンタと七星が言った事だぞ!
私が力の制御が出来ずに技を出したら
部長が、どうなってしまうかわからんのだろう?
それだけじゃ無い。この部室…いや、学校もろとも
吹っ飛んでしまうかも知れないって
言ってだじゃないか!
そんな恐ろしい事できる訳ないだろ!」
ヨッシーが、驚いて言った。
「ナクサ!それで我慢してたのか?
おとなしくやられてたのか?
涙も鼻水も垂れ流して
オシッコチビっても耐えてたのか?
アンタってヤツは
アンタは..本当におバカさんだね。
最高に優しいおバカさんだよ。」
ヨッシーが泣き出した。
部長も後ろから七草に抱き付いて泣いている。
「ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい…」
何度も同じ言葉を繰り返している。
「部長。大丈夫だ!悪いのは、私だから…
部長がいないのをいい事に
調子にのって言い過ぎたよ。
悪かった。申し訳なかったよ。」
部長は言葉もなく七草の背中で泣いる。
その背中が、部長の涙で滲みになった。
「七海!わかってるな!
部長の事しっかり見てろよ!
またヤバイ事になりかねんぞ!」
「ああ、そうだな。」
続く




