3 小芝居で勧誘⁉︎
「そうだ!皆さん。小腹が空いてませんか。
よろしかったら、おうどん食べに行きませんか?
お近づきにごちそうさせて下さい。」
「ク一ッ!もちろんだ。なあ部長!」
七草が笑顔で部長に承諾を持ちかけた。
「そうですね。よろしいんですか?
大勢で押しかけて!」
「どうぞ!どうぞ!大歓迎です。
好きな物、おなか一杯食べて下さい!」
「やったー!」
「これは嬉しいね!」
「さすが社長のご令嬢だよ!
きっぷが違うね。大判振る舞いだ。
しかもたまに、レジに立ってるとは庶民の味方だね。 どこかのお嬢様とはエライ違いだ。
お金持ちをひけらかして無いところが、
これまた好感がもてるよね〜。」
「七草さん!聞き捨てなりませんわね。
どこかのお嬢様とは私の事ですよね。
私が、いつお金持ちをひけらかしましたか。
確かにお金がないとは申し上げませんけど。
それでも庶民の方々に寄り添おうと
私も努力したり思案したりしてるんです。」
「あっ!庶民って言っちゃったよ!
私達の事、庶民だって。」
「申し訳ありません。失言です。
それは謝ります。七草さんに吊られてつい…。」
「つい、本音が、出ちゃったね!」
「違います。違います。決してそんな訳じゃ…。」
部長が真っ白なレースのハンカチで涙を拭った。
「ナクサ!やり過ぎだよ!
折角みんなで今からうどん食いに行こうってに...。」
「私、今日は、おいとまさせて頂きます。
私の様な者が、行っても不釣り合いでしょうから。
ウウウッ!」
そう言いながら、さらに涙が溢れた。部長はそのまま立ち上がると扉の方に向かった。
「待って下さい。」
短亀ちゃんが、部長の袖を掴んだ。
「来て下さい。
部長さんがいないと何も始まりませんよ。
部長さんが、来てくれなかったら
ここでお開きです。うどんも行きません。
私も、入部は、取りやめます。」
キッパリと言った。おとなしそうな少女の芯の強さを垣間見た瞬間だった。
固まっていた部長が、振り向いた。その言葉に光明を得たようだ。ゆっくりと短亀ちゃんと、向き合った。その顔が、泣き笑いに変わった。
「ありがとう。短亀ちゃん!」
部長の溢れる様な笑顔が復活した。
さらに戻って、その日のお昼休み。
「で、何人くるんだ?」
「一人に決まってるだろ!
そんな変わり者、減多に現れんよ!」
「何だ!自分も部員の癖にその言い草は!」
「みんなアンタに無理矢理
入部させられたんだろ!」
「ああー!管制塔。管制塔。
電波の具合が....通信が途絶えます...」
「勝手に途絶えとれ!その方が話しが、進行する。
それで、部長どうしたんだ?
集合掛けてまで事前に話しておきたい事って?」
「それが新入生の短亀さんと言う方が
入部希望してらっしゃると
顧問の熊先生からお話しがありまして…。
私に一任してくださるそうです。」
「先生。相変わらず丸投げだな。」
「そうだな。」
「それは一向に構いませんのよ。
ただ問題がありまして...。」
「なっ、何だ?ヤバイ奴か⁉︎ 」
「新入生にそんな人、一人もいませんでしたよ。
そうじゃなくて....勘違いされてるみたいなんです。
去年の学園祭の舞台を観劇して下さって…。
かっ、感激したらしいんです。」
「部長!恥ずかしいんだったら止めとけよ!
顔を赤くしてダジャレ言われたら
こっちまで居た堪れなくなるだろ!」
「フフフッ!失礼しました。
思ったより勇気がいるもんなんですね!」
「そんなものは、サラッと言うもんだ。
後は面白いかどうかは、相手に委ねるもんだ。
いかにもダジャレ言っちゃいましたよ。どうですか? みたいだと押し付けがましくて笑えんよ!」
「フーッ!今のお言葉肝に銘じて精進いたします。
ありがとうございました。」
「そのくだり、もういいから話しを進めてくれ!
ナクサはもう話しに入ってくんな!」
「へーい!」
「申し訳ありません。私も、ついつい楽しくて!
えーっと、どこまで話たのかしら、あっそうです。
演劇を、観劇して感動したとのことで...。」
「部長!そこ、もう一回、観劇を感激。
ぶっ込まないと!」
「ナクサ!黙っとれ!何度も言わすんな!」
「ピーーッ!わかじまじだーっ!」
「では、気を取り直して。
感動してくれて入部希望をしてくれたのは
嬉しいのですけど。
園芸違いをしている様なんです。」
またまたホワイトボードだ。
「[園芸]では、無くて
どうも[演芸]と思ってるらしくて
その辺も説明しておく様にと
熊先生から言われました。」
「何故その時、彼が、説明せんかった⁉︎
丸投どころじゃないよ。職務放棄だよ!
給料こっちに半分よこせって言いたいよ。」
「アンタに、その権限はないだろ!
アンタは何も、しとらん!
部長が全て切り盛りしとるんだ!」
「ヨッシーさん。ありがとうございます。
…で、説明は、するとして
「じゃあ、辞めときます」って
なってしまった時にどうしますかって事ですよ。
このとおり入学式から一週間経ってますけど
一人の入部希望者も来ていません。
それが突然現れたんですよ。
やっと来てくれたんですよ。
逃す手は、ないと思います。私はそう思います。
どんな手を使っても、どんな汚い...。
いえ!それはもちろんだめですけど。
何とか入部してもらえる様、説得したいんです。
それで皆さんのお力をお借りしたいと思います。」
「何か策は、あるのか?」
「彼女の好きな演劇で攻めたいと思います」
「ええ!確かにあの舞台は反響はあったが
俺達的には完全なる失敗作だっただろ!」
「そこなんですよ。
あれ程の反響があったのですから
今年は新入部員が大挙して訪れると
思っていましたのに、このとおりさっぱりです。
代わりにに演劇部が、大盛況なんですよ。」
「こっちの客を
ごっそり持っていかれちまったわけだ。」
「そうなんですよ。
まさか園芸部の舞台とは思ってなかった人が大半で…
こちらの思惑通りには、いかなかったようです。
残念です。
そうかと言って、このまま手をこまねいていたら
いつ、部としての資格を失うかわかりません。
既に今、規定人数に足りていないのですから。
まだ、今月は各部の勧誘期間でもありますし
大丈夫とは、思いますけど
良い人材は、どんどん入部を果たして行きますから
早めに決めておきていんです。
その為にも今日は
本腰を入れて取り組んで頂きたいんです。
ここに大筋のストーリーを書いてあります。」
部長がコピー紙を各自に手渡した。
「後はアドリブで結構ですので
笑いあり涙ありのショート劇を演じましょう。」
「いいけど!ナクサ!アンタ大丈夫か?
アンタだけが心配だよ!」
「大丈夫だと思いますよ。
七草さんは、超内弁慶ですもんね。
舞台や会議室では、やらかしてしまいますけど。
ここの部室なら本領発揮して、くれる思いますよ。
私は、そう信じています。」
「それって、褒められてるのか?」
「いや!内弁慶という誉め方は聞いた事ない!」
「まあ、いいや!
あのナルシスト系牛若丸よりは、よっぽどいいよ。
透け感のある衣着て
ピョンピョン飛び回るなんて狂気の沙汰だ。
パンツが見えたらどうするんだ?」
「そっちと絡ませて考えん方が、いいぞ!
話が、見えなくなる。」
「そういえば、あの娘。短亀って言ってたな。
珍しい名前だな。」
「どうやら、あの短亀うどんの経営者の娘じゃないか と言う噂が、あるらしい。」
「何一っ!そうなのか!それはヤバイぞ!
うどんと言えばおにぎりと対を成す
二大うまかもん王者だ!
これは、絶対に入部させにゃならんぞ!クククッ!
これで一生うどんを食いっぱぐれる事は
無くなったぞ!」
「オマエどんな発想しとるんだ。
入部させただけで何で、うどんが食えるんだ。
しかも一生なんて、その感覚が、理解できん!」
「何で、わからんのだ!
七海が入部してから
フルーツが食い放題になったじゃないか!
アレと同じだ!」
「一度、果横園に来ただけだろ。
そこで母ちゃんがマスカットをご馳走しただけだ。 ただそれだけだ。今後はない。
後はちゃんと金を払って食ってくれ!」
「じゃあ、どうすんだ!
もし入部が決まったら
歓迎果樹園ツアーを開催せねばならんぞ!
舌の肥えた料理屋の娘を満足させられるのは
シャインマスカットをおいて他にないぞ!」
「そっ、それは確かにそうかもしれんが…。」
「その話は入部が、決まってからにしようか!
まずは入部して貰う事が先決だ。」
「そうですよ!よろしくお願いしますよ。
部の存続が掛かってるんですから。」
「よし!じゃあ!スクラムで行くか!」
「よーーし!エイエイオー!」
続く