24 交通安全だよーっ!
朝六時三十分過ぎ、薄暗い事故現場の交差点。
電柱に設置された街頭が一人の少女を照らし
その影を長く低くアスファルトに映していた。
「おかしいなぁ....誰も来ないなぁ。
やっぱり私だけ来ないってのもね。
後で話しが合わないとさみしいし…
そう思って来てみたけど。何だろね?
ナクサにメールしてみるか」
ヨッシーはスマホを開いた。
「あっ!グループメールが来てるよ!えっ⁉︎
「部長がお父上に相談したら
やっぱり無許可でやらない方が良いと言われたから
中止!」だってぇ⁉︎ 」
「ガーーン!」
ヨッシーは後頭部をハンマーで
殴られた様な気がする程ショックを受けて
その場に立ちすくんだ。
「だから私が、そう言ったのに...
虚し過ぎる。
私だけ..…ひとりぼっちだ。
さみし過ぎるよ...」
ヨッシーは、その場から離れポツポツと歩き出した。
...と、その時だ!背中に声がした。
「ヨッシー!悪りぃ!遅くなっちまった!
垂れ幕をバージョンアップして
もう一本作ったら走りにくいのなんのって!」
七草が自転車で猛スピードでやって来たのだ。
「ハァハァ」と肩で息をしている。
それに合わせて背中に紐で、くくった垂れ幕も
ユラユラ揺れている。
「えっ⁉︎ ナクサ!
今朝は、中止じゃ無かったのか!」
七草は自転車を停めるとヨッシーに告げた。
「何がっ!お嬢様の話なんか聞いてられるかよ!
私が、やるって決めて、やり始めたんだよ。
誰も私のやる事を止めたりなんか出来ないよ!
そんな事させないよ!」
「そっか!そっか!やっぱ、ナクサだよ!
それがナクサだよ!
誰もアンタの事を止めたり出来ない。
その通りだよ!」
「よーし!じゃあ、おっ始めるよ!」
「ナクサ!その、垂れ幕よこせっ!」
「大丈夫か?あんなに汚そうにしてたのに!」
「いや!眼が覚めたよ!
不祥とか神聖とか
そんなモンどうでもいいんだよ!
やりたいんだよ!ナクサと一緒に!
何でもいいから!
ずっと私達そうやって来たのに…
段々、大事な事を見失ってくる。
大人になってきたからなんて
言い訳したくないんだ。
年寄りになっても私達は、マブダチだ。
その事だけは、忘れないでいよう!
なっ、ナクサ!」
「ヨッシー!そだな!」
「それにしてもヨッシー。
その格好やり過ぎじゃないか!」
「そおかぁ?
昨日、急にやっぱり行こうって思いたったから
出来上がるのに夜遅くまでかかったんだよ。」
「それにしても、点滅ライトを
全身に点けるなんて逆に交通の妨げにならないか?
でもまあいいか!コスプレ好きのヨッシーだ。
とことんやりたくなったんだな!
OK!張り切ってやろう!」
「そうか!良かった!よしっ!やろう!」
「交通安ぜーん!飛び出しちゅーい!
一時停止守りましょー!」
「やっぱり来てたか!そうだろうと思った。」
七海と部長がやって来た。
「ごめんなさい。
せっかくのやる気に水を差してしまって…..」
部長が頭を下げて謝った。
「おはようございまーす。」
そこに短亀ちゃんとチョン君もやって来た。
「やっぱりですね。
私は、ここ通学路ですから問題ないですけど。
チョン君は、真反対ですから。
でも気になるからって!」
「ハイ!来ちゃいました!」
「みんな!うううっ!」
「何でヨッシーさんが泣いてるんですか?
しかも来ないって言ってたのに。」
短亀ちゃんが疑問を投げかけた。
それに七海が応えた。
「色々事情があるんだろ!
それにしてもヨッシーの、それ凄いな!
チカチカして何か眩しいよ!
それで良かったのか?
ヨッシーの恥ずかしいの根拠がどこにあるのか?
俺には、さっぱりわからんよ!
本当に不可解だ。」
それに七草がガッツボーズで応えた。
「いいんだよ!やりたい事は
着恥心も、ねじ伏せるくらい強い力になるんだよ!」
「そういう事だ!」
そう言いながらヨッシーは
七草の親父さんのフンドシのれんを
バサバサと振りまくった!
その顔は、誇りに満ちていた。
「凄いな!」
「そうですね!」
「酷いな!アイツ。
熊先生とは、大違いだ。いきなり…
「何だその格好は?すぐ脱げ!」
…って頭ごなしだよ。
ちゃんと話を聞いていから判断して下さい!
…って言いたいよ!」
七草とヨッシーは
校門で生徒指導の先生に注意を受けたのだ。
「それにしてもアンタ達!
何で急に他人のフリして
サッサと行っちまったんだ?」
「まあ、元々他人だからな!」
「そうじゃなくて!
「そんなの関係ねぇ!」みたいな真似しやがって
冷て一だろ。
一緒に弁解するとか....
そう言う仲間意識がねーのかよ。
何の為に部活をやってるんだ?」
「すいません。悪気は、なかったんです。
ついやってしまったんです。
やむなくやってしまったんです!」
「それで見捨てたのか?酷過ぎるぞ!」
「ごめん!実は、な!そこじゃないんだ。
おまえ達の、その格好だよ。
ナクサの下手くそな文字で書いた
交通標語だらけのピッチピチのハッピと、のれん。
それとヨッシーの
去年の演劇で着た銀色全身アーマーの着回しと
チカチカLEDライト。
何か一緒に校門通過するの恥ずかしくなって
ついやっちまったんだ。本当にすまん!
ごめん。アイムソーリー。」
それを聞いたヨッシーが
改めて自身が持ち込んだ
ヨッシー専用全身ミラーの前に立った。
「ギャーーッ!」
ヨッシーは、叫び声を上げて
部室の角の椅子に座って頭を抱えた。
「やっちまった。やっちまった。
ナクサに、のせらてやっちまった。」
ブツブツと、そう何度も繰り返している。
「ヨッシー。気にするな!
私達、頑張ったじゃないか!世の為、人の為にさ。
あんなに無心で何かをやったの久しぶりだよ。
それをヨッシーとやれて良かったよ!」
「本当か!ナクサ!」
「ああ、ホレ見ろ!アンタの姿。
こんなに一心不乱にフンドシ..あっ、いや!
のれんを振って...」
「ナクサ!ちょっと待った!
アンタッ!
これもう早々と YouTubeにあげたのかい?
バカタレー一!消せっ!
すぐに削除だーっ!」
七草が、持つスマホには
気が狂ったようにのれんを振る
ヨッシーの姿が映っていた。
地面に着くほどに、のれんを左右に振って
「ソレソレ!」と叫んでいる。
そこには、すでに交通標語の言葉はなかった。
まるで大漁旗を振るかの如く
威勢の良い美少女がいた。
そして、その姿をいつのまにか
群衆が取り囲んで見物していた。
その中には全身銀色に輝く姿を見て
宇宙人の襲来と勘違いしたお婆ちゃんもいた。
「こら!ナクサ!スマホよこせっ!」
テーブルを中心に追いかけっこが始まった。
「相変わらずだな!」
「その様ですね!」
続く




