23 交通正義の使者チャリンコ安全マン
早朝の部室。
「昨日は、七草、途中までイイ話してたのに
自分で、ぶち壊して尻切れに終わってしまってな。」
「お尻は、始めから切れてますよ!」
「短亀ちゃん!お尻は、切れてるとは、いわん。
割れ目だ。割れとると言うのだ。
それに下品なボケは、しないでいいから!
ナクサの悪い影響が出てるな!」
「それ、正確には、尻切れトンボと言うんだ。
物事が完結しない様を表しているんだ。」
「ヘーっ!七海先輩、物知りなんですね。
でも、何だか可愛そうですね。
尻尾が切れたトンボなんて..
七草先輩も、気にして
今日は、まだ部室に見えてないですし...」
「短亀ちゃん。実は、それは、トンボ違いなんだ。
みんな勘違いしてるみたいだけど。
その言葉は、虫のトンボじゃなくて
[トンボ草履]と言う履き物の事を言ってるんだ。
鼻緒がトンボの羽根に似てるから
そう呼ばれる様になったらしい。
その草履は踵の部分がないそうなんだ。
どんな要素で、そうしたのかは、わからないけど…
つま先が有って踵がない。
それで始まりが有って終わりがない事の
例えになったそうだ。
…って、おい!みんな!ちゃんと聞けよ!」
「だから、七海のウンチクは長げーんだよ」
ヨッシーがツッコンだ。
「しかし七草さん、遅いですね。
私も、「もう気にしてませんから…」
そう、メールしておきましたけどね。
返言も「部長、ごめんなさい」って
ちゃんと来てましたけど...」
"ガラッ!" 突然扉が開いた!
七草が扉に手を掛け頬を紅潮させて立っている。
「ナクサ!アンタ、それ何?
なんてカッコしてんの?
その姿で、ここまできたのか?」
「そうだ!私は、交通戦争から皆様を守る
交通正義の使者「チャリンコ安全マン」なのだ!」
「何か、凄くダサいネーミングだな!」
ヨッシーに七海も同調した。
「..だな!」
「そこは、共感せんでよろしい!」
七草の、すまし顔にヨッシーが質問した。
「どうしたんだ?そのハッピと垂れ幕?
ヘルメットも……ハッピーセットか?」
「ヨッシー!マックじゃねーよ!
…って…私にツッコませるなよ!
ハッピは、小学生の時に祭りで着てたヤツだ!」
「ええ⁉︎ まだ着れるのか?」
「カツカツだが、何とか着れたよ!
それで全体に交通安全用語を書きまくってやった。
これで、あの事故現場の交差点で
垂れ幕を振りながら
「交通安全!飛び出し注意!」
と呼びかけてやったよ!」
「その格好でそれをやったのか⁉︎
恥ずかしくなかったのか?」
「私は、緊張しーだが…
ヨッシー!
君の様に恥ずかしがり屋さんではなーい!
バシッと決めてやったよ!」
「それで、そのまま部室に来たのか?
校門で生徒指導の先生に止められなかったか?」
「ああ、しっかり止められたよ。
それで良い心掛けだと、お褒めの言葉を頂いた。
ただ教室には
ハッピを着たまま行くなと言われたよ。
部室がこのハッピを着れるリミット地点だ!」
「今朝の校門立ちは熊先生だったな。
物分かりのいい人で救われたな。」
七草の言葉の後にヨッシーの心配症が出た。
「しかし、あまり派手にやると
角野美沙が可哀想な事にならないかな?」
するとヨッシーを安心させる事を部長が言った。
「いえ!それが先程…
角野さんが、こちらに見えて
七草さんに、お礼が言いたいと
おっしゃってたのですよ!」
「何、どう言う事だ。
苦情を言いに来たんじゃないのか?」
ヨッシーの問いに部長が説明を始めた。
「いえいえ!真逆ですよ。
「自分の事を気にかけて心配してくれて
あんな事までしてくれて、ありがとうございます」
…と言っていました。
通りすがりで見かけたそうで
一応お礼を言ったそうですけど…
改めてお礼が言いたくて
居ても立っても居られなくて立ち寄ったそうです。
七草さんは、まだ登校していないと告げますと
また伺いしますと、おっしゃってました。」
部長の話にヨッシーは驚いた。
「何でも受け取り方しだいだな。
角野は、ありがたいと思ったんだ。
私だったら大きなお世話だと思うけどね。」
「ああ、アンタは捻くれモンだからね!」
七草の言葉にヨッシーが噛み付いた。
「うっせーわっ!ナクサ!
アンタは、振れて拗れてるだろ!」
「何だそれ!縺れ散らかしとるじゃないか!」
そんな二人を部長が制した。
「まあまあ、でも良かったじゃないですか!
角野さんが、そう好意的に思ってくれたと言う事は
イイ方向性だと言う事かも知れませんね。
そうだ!明日から園芸部全員で
早朝交通安全キャンペーンを実施しましょう。
七草さん一人では、なく。
園芸部、全員でやるんです。
その方が効果も、大きいと思いますよ。」
しかしヨッシーは不満気だった。
「また出たよ!部長の面白がり屋さんが!
そもそも、そんな事やる時は警察署とか
どこかに届け出しないと駄目なんじゃなかったか?
それに、みんなでやるなんて恥ずかしいよ。
選挙の応援か何かと間違われないか!
とにかく私は嫌だよ!」
「しょうがない!やれるヤツだけでやろう。」
七海の言葉に部長も同意した。
「そうですね。こんな事は
強制されてする事じゃないですもんね。」
「ところでナクサ!
その、交通安全祈願て書いてある
その、のれん、どうしたんだ。手作りだろうけど。
少し黄ばんでる所とかもあるけど?」
ヨッシーの問いに七草が答えた。
「ああ、これは
父ちゃんのフンドシで作ったんだ。」
「ハハハッ!ウケるー!ハハッ!
...で本当は、何で作ったんだ。」
「だ、か、ら、父ちゃんのフンドシだよ。
ふ、ん、ど、し。」
「うっそだー!いくらなんでも
今時、フンドシ履いてる人なんて居ないだろ!」
「これは、父ちゃんが祭りの時に履いた
由緒正しきフンドシだ!」
そう言うと七草は"パーン!"と
フンドシを、両手で左右に力強く引っ張った。
「ワーッ!ナクサッ!
粉でも吹いたらどうするんだっ!
出せっ!その、のれん!
いや、フンドシ!外に出せっ!」
「なっ、何だ⁉︎ ヨッシー!
これは祭りで使用した。神聖なものだぞ!
その言葉。恐れ多いぞ!」
「バカッ!
それ親父さんが股間に巻いてた物だろうが!
不祥のもんだろう!」
「ヨッシー!その言葉!父ちゃんに伝えとくよ!」
「それは、やめてくれ!
しかし、いくら何でも親父さんの
股間に着けてたものを
良く堂々と公衆の面前で振り回せたな!」
「何が恥ずかしいんだ。
祭りで使用した有難き品だぞ!
そもそも祭りとは、豊作や豊漁を感謝し
神様を敬い祀る事を語源としとるのだ
遊び事とは、訳が違うのだぞ!」
「それは、分かったけど
普通、女子と言うものは年頃になったら
親父の下着など、バイ菌あつかいして
自分のものと一緒に洗うなとか
言い出すものじゃないのか?」
七海が疑問を投げかけた。
「ああ、そうだな!
オヤジのパンツは、駄目だ!
あれはいかん!
不祥の物、第一位だ。
あんな物、世の中に存在せんでいいよ。」
七草が吐き捨てるように言った。
その言葉に七海は、驚いた。
「それは、言い過ぎだろ。
親父は、みんなノーパンで過ごせと
言ってるようなもんだ。」
「そのとおりだ!」
七草は当たり前の様に真顔で言ったが
七海は納得できなかった。
「メチャクチャだ〜!」
「まあ、気にするな!
明日からまた忙しくなるぞ!
早い時間からやらんと意味がないからな。
今夜は、早く寝て明日に備えるぞ!」
七草の言葉に部長も同調した。
「そうですね。何だか、ワクワクします。
人の為に尽くすのって、素晴らしい事ですもんね!」
部長もノリノリだ。
短亀ちゃんもチョン君も、それに続いた。
「私も参加していいですか?
何だか楽しそうです!」
「じゃあ、俺も参加しますよ。
長いものに巻かれてみます。」
「うまいなチョン君!
それ、フンドシに巻かれてみたいって言う事だろ?」
七草が勝手な解釈をしたが七海はそれを否定した。
「何だ⁉︎ 折角いい調子だったのに!
マフラーやスカーフじゃないぞ!
誰がフンドシに巻かれたい何て思うかよ!」
「そっ、そうですね!
それは、ちょっと勘弁して欲しいですね。」
チョン君もそれは、さすがに無理なようだった。
みんなに笑いがおこった。
「ハハハハッ!」
部長が最後に予定を発表した。
「まあ、とにかく明日、早いですけど
あの交差点に六時..…三十分で大丈夫。…ですよね。
その時間に集合して交通安全を呼びかけましょう!」
「届出とか大丈夫か?」
七海が心配したが部長は
やりたい気持ちが優先していた。
「ゲリラ的にやりましょうか!
出来るのは、三十分程度でしょうから
苦情やクレームが来たら
即、止めるという事にしときましょう。
善意でやる事ですから
それ程、問題には、ならないと思いますけど
念の為。
あっ!そろそろ朝礼が始まりますね。
参りましょうか!」
続く




