2 演芸部× →園芸部
「あー!じゃぁ、君!まず名前と志望動機から聞こうか?志望動機と言っても死にそう...とか。胸の動悸がする...とか。体脂肪率がどうとか、そう言う事じゃないからね!」
七草は真剣かつ難しげな面持ちで質問した。
それをヨッシーが制止した。さあ、バトルの始まりだ。
「ああー、もう。ナクサ!アンタ止めてよ。
恥ずかしいから。
それに折角来てくれたのに面接って何だよ!
七星が抜けて文句なし、
もう一人入れないと廃部なんだよ。
こうして我が部に入部してくれるって言うんだ。
言うなれば私達の救世主じゃないか!」
「甘いね!ヨッシー!世の中そんなにあまいもんじゃないって事をこれからきちんと後輩達に教えて行かなきゃならないんだよ。
アンタからしてそんな弛んだ考えでどうするんだい!」
「それじゃあ、部長を交えてやってもらえるかい。
せめて常識をわきまえた人を面接官に加えて貰わないと、この娘が可哀想すぎるよ。」
「何一っ!私がそんな無慈悲な人間だってのかい。
ちゃんと適正を見極めた上で採用不採用を決めるって言ってるんだよ!」
「訳わからん!会社じゃあるまいし、部活なんか入部希望者は全て受け入れるのが普通だよ。!面接とか採用、不採用とか、聞いた事ないわっ!」
「あらあら、また、やってるんですか?」
「おっ!部長!イイところに来てくれた!
また、ナクサが暴走してんだよ。良かったよ。
間に合って!」
「何だ!私が暴走特急列車みたいじゃないか!
お客はちゃんと拾って行くよ!
「そ一言う事じゃないと思いますけど...。
まっ、いいか!...で、どうされたんですか?
それにこの方は?」
部長の冬本千晴が、落ち着いた口調で質問した。
「ナクサが!...。」
「ヨッシーが!…..。」
「同時に言われてもわかりません!
七海君、お願いします。」
「あいよ!まず彼女は入部希望者だ。
それから七草が面接を始めたところだ。
話を聞いて適正を見た上で採用、もしくは、不採用を決定するそうだ。
それに反してヨッシーは、この部員損失の穴埋めに対する彼女は救世主だとの見解だ。
問答無用で入部だろうと発言しておる。
さらに部長の不在中の入部の可否は頂けないとの事だ。」
「ヨッシーさん、いつも私を立てて下さってありがとうございます。
そのお心尽くし大変嬉しゅうございます。」
「何か、部長、皇室みたいな喋り方になってないかい?大丈夫かね。方向性、見失ってないかい?」
ヨッシーが、軽くツッコンだ。
「それは大丈夫だ!
ただ自分に酔ってるだけだから。」
七草が、それに応えた
「それ結構ヤバイやつだよ!」
「そこっ!聞こえてますよ!
「すんませーん!」
「一応ヨッシーさんの言うようにウチは入部希望者は全て受け入れますけど、まずは話しを聞きましょか?こちらの考えだけでは、ね!
もしかしたら、こちらの方が振られる可能性もある訳ですから。」
「そうだよ!偉そうに上目線で、踏ん反り返って、
結局、入部拒否されたらイイ赤っ恥だ。」
ヨッシーは、恥をかくのが大っ嫌いだ。
「…と言う事で、まずお名前...は、聞いてるのか、な?」
部長が入部希望者に優しい笑顔で問い掛けた。
「あっ!まだです。短亀摩姫と申します。」
彼女は、緊張した様子で答えた。
「うっ⁉︎ 」
一瞬ヨッシーの顔色が、変わったが、すぐに平静を装った。
「そうですか?珍しい名前ですね。
どんな字を書かれるのですか?」
さらに優しい笑顔だ。この笑顔で質問されたら、心の内を全てをさらけ出してしまいそうだ。
「長い短いの短いと鶴と亀の亀。後は薩摩の摩とお姫様の姫です。」
少女は、自分の名前を説明する事で大役を果たした様な気になった様だ。ホッとした表情に変わった。それ程、緊張していたのだろう。
「まあ、わかりやすかったですね。
いつも、そうやって聞かれるのでしょうね。
ご丁寧に、ありがとうございます。
では、どうしてこの部を選ばれたのですか?」
「あの去年の文化祭の演劇を拝見して感動して志望校も、こちらに決めたんです。
受かったら絶対ここに入部しようって決めてたんです。是非、入部させて下さい。」
「ええ!入部はもう大歓迎なんですけど。
ちよっと、お尋ねしていいかしら。演劇部と...
あの..勘違いしてらっしゃらないかしら?」
「はい!それは、もう、わかっています。
ここは、「演」芸部ですよね。」
「おー!良かった。間違えてない!」
パチパチパチ!みんな手を叩いて喜んだ。
「あの舞台。本当に感動したんです。
舞台ってあんなに面白いんだと思ってお腹を抱えて笑ってしまいました。」
「んん?面白かったんだ。
いろんな受け取り方が、あるんだな。
シュールだって言う人もいるし
シンゴジラのオマージュ作品かって言ってた人もいたし、何故か普通に感動してた人もいたし、
私達は失敗でしかなかっだけど本当、面白いもんだな。」
ヨッシーが感心した。
「私、コントとか大好きなんだすよ。
後、お笑い全般。漫才とか落語も好きです。
それで私も人を笑わせて、みんなを陽気にさせたい。幸せな気分になって欲しいって思ったんです。」
短亀は、頬を紅く染め興奮気味に話した。
「うーん。そうですか。これは、困りましたね。
やはり勘違い系の様ですね。」
部長は、テーブルで、頬杖をつき神妙な顔付きをした。
「部長!ここはやっぱりホワイトボードだな。」
七草が、ホワイトボードを、移動させた。
「そうですね。口で言ってもわかりにくいですもんね。
実はこうなんです。私達の部は園芸部。
短亀さんが入部したいと、思ってるのは、
こちらじゃないですか?」
部長はホワイトボードに「園芸部」と「演芸部」の二つの文字を比較できる様に並べて書いた。
「申し訳ないです。私達の部は花壇にお花や野菜の種を蒔いて育てる事を主な活動としているんです。
呼び方は同じですけど活動内容は全く別物です。」
「えっ!そうだったんですか?私はてっきり。
だってあんな面白い舞台。他であり得ないですよ。」
短亀は、興奮気味にまた、語りだした。自身の受けた感動を確かなものだと伝えたかったのだ。
「あの…..なんだったら演劇部の方でも訪ねてみたらどうでしょうか。」
部長は、申し訳なさそうにそう託した。しかし短亀には、自身の決意の様なものがあるようだ。
「私は演劇が、したいわけじゃないんです。
人を笑わせる事が、してみたいんです。
人を笑顔にしたいんです。」
「良い心掛けだな。しかし我々の部に限って笑いなど存在しない!残念だが...
我々の目指す場所はそこじゃないんだ。
力になれなくて申し訳ないな!」
七草が、したり顔でそう告げた。
「残念です。」
短亀は、落胆していたが七草は、気にせずー番興味がある話を切り出した。
「ところでアンタのその名前。短亀って、あのうどん屋と何か関係あんの?親戚がやってるとか?」
短亀ちゃんは、諦めて、気を晴らすように話だした。
「いえ!あれは、父がやってるんです。
実はウチは、そもそも武道場をやっていて、そちらの方は父がお弟子さんからお月謝をあまり高く頂けなくて中々生活が楽にならないものですから…
お弟子さんの中にうどん屋さんをされてる方がいらっしゃったので、そちらに弟子入りして、その後うどん屋の経営を始めたんです。
それが、あれよあれよと言う間に、あんな風にチェーン展開してしまって....。」
「マジかっ!だって、アソコもそうだよ!
婆ちゃんの話をしたうどん屋。
この学校の近くの。アソコも短亀うどんだよ。」
七草は、驚きと興奮に胸が高鳴った。
「ああ。アソコが一号店になります。
あの、お店から全てが、始まったんです。
今は本部は他の大きな店舗に移してますけど。
開店当時から私もずっとお手伝いしてるんですよ」
短亀ちゃんに笑顔が、戻った。
「あっ!もしかしてレジとかやってるの?」
七海も話に加わった。
「はい!今でも時々やってますよ。」
「やっぱりか!あの時も、やけに若い娘が、レジをやってるなって思ったんだ。もしかしたら君だったのかもな。」
七海がワクワク顔で話した。それを制すように七草が七海に詰め寄った。
「七海!アンタまたそれかい!
すぐエロ目線で見るんだから。
ウチの婆ちゃんも母ちゃんもそうやって、やらしい目で見たからね:」
「何!ただ若くて綺麗だなって誉めただけだぞ。」
七海が弁解したが七草は、聞く耳を持たなかった。
「どうだか?短亀ちゃんコイツは根っからのスケベモンスターだからね。気を付けた方がいいよ。
性欲が溜まると狂った野獣みたいになるからね。」
「いつ誰がそんな風になった?ああっ!ってオイ!七草!何スマホで見せてんだ!?」
「ぐあっ!うがあっ!」
スマホから凄まじい叫び声が、している。
「ヤバイですね。これ夏樹先輩ですか?
何か悪魔でも乗り移ったんですか?
除霊でもしてるみたいです。でも再生回数。凄いですね!」
「何だ!七草!オマエ、何かにアップしたのか??
それは、ないだろ!それだけはしてくれるなよ。
せめて今からでもすぐ削除してくれ!」
「やだよ!折角、再生数上がってるのに目隠ししてるからいいだろ。あっ、ヨッシー!」
ヨッシーがスマホを取り上げて画面を操作した。
「ナクサ!アンタ大がいにしなよ!
私の水着カラオケもアップしようとしてただろ。
モラルが無さ過ぎなんだよ!はい。削除。
七海。安心しろ。消えた。」
「ヨッシー!サンキュー!あんなのアップされて俺の方が消えそうだよ。」
「それじゃあ、濃厚キッス画像の方行くか!」
七草は、ヨッシーからスマホを取り戻しで懲りずに画像をアップしようとした。
「七草さん!イイ加減にして下さい!」
部長が慌て七草を制した。
「はーい。すいませーん!」
「あれは部長にも被害が及ぶからな。
…と言うか加害者側だからな。被害者は七海の方だ」
「ヨッシーさん!あれは私も苦しみました。
もう勘弁して下さい。」
「わかってる。わかってる。あれは、みんなで、しでかした事だ。」
「ハハハハハバッ!最高です!お腹が..お腹が痛い!ハハハッ!面白過ぎます。最高の舞台です。
日常がコントになってるんですね」
短亀ちゃんが腹を抱えて笑っている。涙まで流して。
「これですよ!これっ!私が求めていたものは....
入部します!いや!入部させて下さい。今すぐ!」
「ええー⁉︎ どんな感性してるの?
笑うところあったかね?
部長とは、また一味違うヤバイ人が、来ちゃったよ!」
「それ、どう言う意味ですか!私は至ってノーマルですよ。」
「部長がノーマルなら世の中の他の人全部、異常者だよ!」
「酷い!ヒドイ!その言い方、ひどすぎます。
今すぐ撤回して下さい!」
パチパチパチパチ!
「ブラボー!ブラボー!最高!最高です!
ハハハハハハッ!」
「このくらいにしときましょうか!短亀ちゃんに喜んで貰えたみたいですから。」
部長がしたり顔で会話を締めた。
「そだな!」
続く