19 無料特別門下生⁉︎
「それにしても短亀ちゃんのさっきの身のこなし
マトリックスみたいだったな!」
七海が感心していると、ヨッシーがツッコンだ。
「またエモいヤツ引っ張りだしたな。
そんな古い映画、短亀ちゃんには分からんだろう。」
「いえ!ネットで見たことありますよ。
こう言うヤツですよね?」
そう言いながら短亀ちゃんは
さっきより、もっと反り返って見せた。
重力を無視したようなアンバランスさに
一同驚愕した!
「何で後ろに倒れないんだ。不思議だよな。」
「荒川静香さんも平伏すな。これは....」
「ああ、イナバウワーだったっかな…」
短亀ちゃんは、みんなの驚きに対して
落ち着いて応えた。
「鍛錬すれば誰でも出来ますよ!」
「そんな訳ないだろ。無理無理!」
七草がツッコんだ。
「部長が言ってたとおり、やっぱり凄いや!」
ヨッシーの言葉に短亀ちゃんが答えた。
「本当、私なんかそんな事ないですよ。
後ろそりは別としても…
やっぱり一番凄いのは、七草先輩でしょ?」
「えっ⁉︎ わかるのか?」
ヨッシーが、それを見抜いているのかと
驚いて聞いた。
「ええ!もう最強ですよ!あの、お笑いセンス。
武道なんか強くても何の役にも立ちませんよ。
でも、あのお笑いのテクニックは
学ぶべき事だらけです。
師匠と呼ばせて下さい!
七草先輩!」
「そっちなんかーい!」
ヨッシーが反射的にツッコむと七草が前に出た。
「まぁまぁ、ヨッシー!
短亀ちゃん。しょうがないのー!
ワシは、弟子は、取らん性分だが
今回に限って許可してやろうかの!」
「またナクサが調子に乗って..
それにしても短亀ちゃんも節操が無いな。
この間は、部長教に入信したいとか言ってたのに...」
「私は、多神教ですから…」
「アンタ!意味わかって言ってんの?」
「ハハハッ!です!」
「意味わからん!」
「それにしてもナクサ。
道場で短亀ちゃんと会わなかったのか?」
「何言ってんだ!
私が行ってたのは、万年先生の道場だぞ!
短亀道場じゃない。万年館だ。
「ハハハハッ!」
短亀ちゃんが、いきなり笑い出した。
「七草先輩!ハハハッ!それ内の道場ですよ。
万年館の万年は
【鶴は千年、亀は万年]
…と言う、ことわざから頂いたんです。
長く道場が続くように
お弟子さんが、みんな健康で長生き出来る様に!
…と言う願いを込めて命名したんです!」
「ナクサ、今までその事、知らなかったのかい?
この辺には、アソコしか、武道場は、ないよ。
それだけでも分かりそうなものだけどね!」
「そんな事、別に考えた事もないよ!」
「ハハハッ!根本的な問題だ!」
「だけど、二人は
全然面識が無かったようだけど?」
「ああ。それでしたら
私は、お店のお手伝いもしていましたし
ほとんど道場でお稽古した事は無かったんですよ。
それで、時間の空いた時に
自宅で父に稽古を付けて貰ってたんです。
それで七草先輩と会う機会が、なかったんですよ」
「そうだったのか…でも不思議だな。
結局、ここで出会ってるんだから…」
「でも….。父からは、聞かされていたんですよ。
天才少女が、いるって…
初めて会った時は、まさか
それが七草先輩だとは
思いませんでした。
私は、ヨッシーさんみたいな人を
イメージしてたんですよ。
でも、父に最近
改めて、その天才少女の事を聞いたら
それが七草先輩だったとわかったんですよ。
父も最近は、会ってないからと
懐かしがっていました。
今度、機会があったら
父に会ってあげてくれますか?
父は是非会いたいと言っていたので...
それ程、強く心に残っていたみたいです。」
「何だ、最近は、行ってないのか?」
「ああ、私も今は、こうして部活で
忙しい毎日を送っておるからな!」
「アンタ!ここで、まったりして、茶をすすって…
のんびり余生を楽しんでるだけだろうが!
何が忙しいだ。
花壇の水やりも雑草むしりも
みんなに任せっきりで何もしとらんだろう!」
「いや!私には、戦略を練ると言う
大事な仕事があるんだ!」
「何だ?その戦略とやらは?」
「それは、重要機密だ。話す訳にいかない!」
「適当に思い付いた事を垂れ流すから
話しが破綻して
応える事も出来なくなってるんだろ!」
「まぁまぁ、ヨッシー!話しがズレてるぞ」
七海がヨッシーをなだめた。
「そうだった。悪りぃ!
とにかくまた道場に顔出して師匠に
挨拶してきたらどうなんだ?」
「それは、出来ない...」
「何故だよ。すぐそこだろ?
今からでも、行ける距離だ!」
「それが出来ないんだよ!
私は..私は、破門されたんだ…」
「ええ⁉︎ どう言う事だ!ナクサ!
アンタ何やらかしたんだい?
普通に通ってて
今時、破門なんて聞いた事ないよ。
よっぽどの事したんだね?」
すると短亀ちゃんが話に割って入った。
「あっ!その話は、父から聞いてました。
その天才少女が、急に「破門にしてくれ」って
言って来たって言うんです。
「高校に入ったら
他にやりたい事があるから辞めたい」と…
父は、時間が空いた時に
いつでも来て良いからと
言ったらしいんですけど…
七草先輩は
けじめをつけたいから破門にしてくれと
頑として譲らなかったそうです。
父も道場を開いてから
一人も破門なんかした事なかったので
凄く戸惑ったと言ってました。」
「ナクサ!アンタ自分で言い出したのかい?
ケジメなんて言ってるけど
本当に、それだけだったのかい?」
「いやなぁ!何か、破門一って
響きが良いじゃないか。だって破門だよ。
滅多にされたヤツ居ないんだよ。
何か特別感があって良いかなーって…」
「ああ一!出たよ。
ナクサの訳分からん道が
アンタは、そっちを極めてるよな!」
短亀ちゃんが話を戻した。
「でも、父は、結局、破門にしてないんですよ。
七草先輩は、破門された事にするって
物別れに終わって
そのまま来なくなったそうです。
でも最後は、泣きながら
「ありがとうございました。師匠…」
と言って道場を後にしたそうです。
父は、破門したくなかったので
苦しい言い訳をしたそうです。
「元々、弟子では、なかったから破門出来ない…」
と言ってしまったそうです。
父は、その一言を言ってしまった事を
今でも後悔しています。
あれは
人生で一番の失言だったと悔やんでいます。
七草さん...父を許してあげて下さい…」
短亀ちゃんが、泣きながら畳に両手をついて謝った。
その姿を見て部長が優しく声を掛けた。
「短亀ちゃん!あなたが謝る事は、ないわ。
それにお父さまも
七草さんの事を思っての失言だったのでしょ。
悪気は、無かったんですもの…
ねえ、七草さん?」
「私は、知らん!
ただ、私が破門してくれって
言って出て行っただけだ。
失礼な振る舞いをして
今では、私の方が謝りたいよ!」
「七草先輩!ありがとうございます。」
「だから謝るのは、こっちなんだから
礼なんて要らんよ!」
「しかし何で、親父さんは
元々、弟子じゃないなんて言ったんだ。
破門を断る言い訳にしちゃぁ…苦し過ぎるだろ?」
七海の問いに短亀ちゃんが答えた。
「それが、言いにくいのですが
元々、七草先輩は道場に入門してなかったんです」
「ナクサ!どう言う事だ⁉︎ 」
ヨッシーの問いかけに七草は苦笑いして応えた。
「ハハハッ!そんな真剣な顔すんなよ。
大した事じゃないよ。
あれは、中学に入って間もなくだ。
私達二人、強くなろうって誓ったよな。
その宣言通りヨッシーは
部活で、柔道部と空手部を掛け持ちした。
途端にヨッシーは、忙しくなった。
私は、突然ポツンと一人ぼっちになったんだ。」
「だからあの時。誘っただろ。
どちらか、一方でもいいから入部しないかって!
でもナクサは、組織は、嫌いだとか
何とか言って断った!」
「本当に、それは、嫌だったんだよ。
そこじゃあ、私は、絶対潰されるって思ったんだ。」
「まあ、それは、そうかもな。
もしも、ナクサが入部してたら
先輩達も手を焼いただろうな。」
「それで、さみしさを紛らわす為に散歩してたら
武道の道場に辿り着いたんだ。
初めは、何となく見てただけだったんだ。
その内、面白くなってきて
毎日通うようになったんだ。
ずっと見てたら、その内やりたくなって
見よう見真似で始めたんだ。
毎日、毎日通って真似してたんだ。
そして、ある日の事なんだ…
途中から雨が降ってきたんだけど
それでも、夢中でやってたんだ。
そしたら館長が見かねて「中に入りなさい」
って言ってくれて初めて道場に上がったんだ」
「えっ?それ通い初めて、いつからの事なんだ?」
「ひと月ぐらいかな!」
「ええ⁉︎ ひと月⁉︎
それまで、一人で…
毎日、外で見よう見真似でやってたのか?」
「ああ。そうだ!」
慌てて短亀ちゃんが話に割って入った。
「ああっ!ちょっと待って下さい!
それは、父の代わりに弁解させて下さい。
別に父が白状だった訳じゃないですよ。
七草先輩の事は
初めから興味があったみたいです。
面白い子が見学に来る様になったって
話してましたから…
毎日、見学に来てるんだけど
そのうち一人で形をやり始めたそうなんです。
それがメキメキ上達して行くそうなんですよ。
父は、声を掛けようと思ったらしいですけど
それを敢えて我慢したそうです。
この子が声を掛けてくるまでは
要らぬ口出しは、しまいと...
父は、話し掛けたくて堪らなかったそうです。
その誘惑に何度も屈してしまいそうになったと
言ってました。
そして、ある雨の日に
遂に声を掛けてしまったらしいです。
土砂降りの雨の中、少女は
一心不乱に蹴りの形を繰り返していたそうです。
堪らず道場に招き入れタオルを貸すと
「ありがとうございます。」
と笑顔でお礼を言ったそうです。
その時の瞳の奥の輝きが今も忘れられないと
言ってました。
その日が父の中では
七草先輩の弟子入り入門の日なんです!」
「父の中では…ってのが気になるな?」
「言いにくいのですけど。
七草先輩からは、お月謝、頂いてないんです。
ですから何の書類もないですし
約束もないんです。
普通は、週二回のお稽古なんですけど
七草先輩は、休館日以外は
毎日来られてたらしいです。
いわば無料特別門下生……
とでも言う存在だったんです。」
「何だそれ?ジムのVIP会員みたいだな!」
七海の発言に、ヨッシーが訂正を入れた。
「違うだろ。
アレは…べらぼうな会費を払ってる奴らの特権だ!」
「そうか。そうだな!」
七海は納得したがヨッシーは気が治らなかった。
「それを、三年間も続けたのか⁉︎
何だそれ!
破門にして正解だよ!」
「何だ急に、感動秘話じゃなかったのか?」
七草の不満にヨッシーが最後の爆撃を放った。
「途中までは、なっ!
最後は、ナクサの通常運転の厚かましさで
終わったのが残念過ぎたよ。」
「ハハッ…だったかな…やっぱり…
「そうだっ!」
続く




