18 ヨッシーの閉ざされた漫画道
朝の部室。
「おはようございます!」
「おっ!チョン様!いらしゃいませー!
ご主人様ぁ!」
「何だ?ナクサ!メイドカフェか?
それとも、家来になったか?
下部なのか?召使いか?」
「どれか、ひとつにしてくれ!
この際、背に腹は、代えられないよ。
おっ!短亀ちゃんもそうだろ?
甲羅は、そんなに簡単にひっくり返せないよな!」
チョン君に続いて入室して来た短亀ちゃんに
七草がいきなり話しかけた。
「おっ、おはようございます。
何ですか?いきなり!
せめて先に挨拶ぐらいさせて下さい。
それに、名前に亀が付いてるだけで
甲羅なんかありませんよ!」
「ナクサ!わかり切ったボケすんなよ。!
それに、そんな切羽詰まってないだろ!」
ヨッシーのツッコミに七草が応えた。
「いや!早めにお父様に気に入ってもらわないと
なな星との婚姻の儀がな。
滞っては、いかんから!」
「二人に親子の関係性は、無かったって
七星は言ってたじゃないか!」
「そこなんだよ!可哀想じゃないか!そんなの!
私は、変えてやるよ。なな星の歴史を!」
「またぁ、やめとけよ。
それは、七星が望んでるのか?
せめて確認だけは、しとけよ。」
「それって、二十五年経たないと不可能だよ!」
「ああ、それまで待っとけ!」
「そーだな!」
「あっ!短亀ちゃん!髪の毛..
カットしてるじゃん!」
七草が反り返った人差し指を
短亀ちゃんの顔に突き刺さるように向けた。
「おっと!やっと、気づいてくれましたね!
甲羅が、どうとかより
こっちを気にして欲しかったですよ。」
短亀ちゃんは、自然な屈伸で
イナバウワーの様にのけぞると
七草の指をかわした。
その後、笑顔が、キラッと輝いた。
「凄く似合ってるよ。メッチャかわいいよ!
でも、切りません!って、言ってなかったたかい?」
ヨッシーが疑問を投げかけた。
「あっ、ありがとうございます。
褒めて頂いて嬉しいです。
それと、髪の毛は
あの場では、切りたくないって言ったんです。
だって、七草先輩って
不器用そうじゃないですか?
しかも、文房具ハサミなんてかざして
左右不釣り合いに、なったら嫌ですもん。
昨日、帰りに行き付けの美容室で
カットして貰いました!」
短亀ちゃんが笑顔で以外とキツイ指摘をした。
ヨッシーは、それを慌ててフォローに入った。
「さすが短亀ちゃんの洞察力ーっ!
ナクサは、本当に超不器用だからな!
私も、髪の毛、切られたけど
後でちゃんと揃えたからな!」
「クーッ!そればかりは、何も否定出来んよ。
私もヨッシーみたく器用に生まれたかったよ。
両親も不器用と、きてるから正真正銘
天性のブキッチョだよ!」
「ヨッシーさんは、確かに器用ですよね。
イラストブックのデッサンも素晴らしかった。
漫画は、どうなんですか?
描いてみようとか思った事は、ないんですか?」
チョン君が落ち着いた口調でヨッシーに問いかけた。
「チョン君にそんな事言われると恥ずかしいよ。
一応、描いてみた事は、あるんだよ。
でも、ストーリーがなぁ。ムズいんだよな。
やっぱりプロになる人は、そこが、違うんだよな。」
ヨッシーは、ため息をついた。
そこに七草が割り込んだ。
「そうだよ。一度、見せてもらった事あるけど
途中でストーリーが破綻してるんだよ。
私は、コメディだと思って読んでたら。
ヨッシーは、悲劇として描いてたんだ。
全く逆の解釈だったんだよ。
私が、あまりにもゲラゲラ笑ったから
ヨッシーは怒ってなぁ...
しばらく絶交されてたんだよ。」
「ああ…あれで、漫画家の夢は、諦めたんだ...」
「そんな、酷すぎますよ。
七草さんは、ヨッシーさんと親友だと
公言してるくらいですのに
大事な人の将来を台無しにするなんて!」
部長は、居ても立っても居られなかったのだろう。
七草を責め立てた。
「まぁまぁ、部長!興奮するな!落ち着け!
部長らしくないぞ!」
七海が部長を制した。
「そっ、そうですね。
取り乱して申し訳ありません。」
「部長の言う事は、真っ当だ。
私も当時の事は、反省しておる。
ヨッシー!申し訳無かった。」
「あっ、ああ。もう過ぎた事だ。
今は、何とも思ってないよ。
他に目指すものも出来たからな!」
ヨッシーは、気にしてない事を強調した。
「…で、えーっと、どれだっけ、あっ!これだ!」
七草は、何冊も積み上げられた
ヨッシーのスケッチブックの中から
一冊を抜き取った。
「この漫画だよ。ヨッシーが描いたヤツ!
部長も見てやってくれよ。」
七草は、部長にスケッチブックを手渡した。
「ナクサ!やめろよ。照れるじゃないか!」
ヨッシーは、頬を紅らめ照れたが
部長なら正当な評価をしてくれるかも知れないと
実は期待していた。
「ワーッ!凄いですね!絵が結麗です。
キャラも、立ってますね。
主人公の少女も魅力的に描かれてます。
今からでも、もう一度
漫画の道に進んだらいいのに...」
そう言うと部長は、黙って読み進みだした。
ストーリーに、のめり込んでいる様だ。
みんな黙って部長の様子に注視した。
すると途中から部長の肩が震えだした。
何かに、必死に耐えている様だ。
みんな何事かと心配になった。
しかし、部長に、とうとう限界が、来てしまった。
「ブッ!アハハハハッ!ヒヒヒヒヒッ!」
みんな突然の事に驚ろいた。
こんな部長を見たのは、初めてだった。
こんな下品な笑い方をするんだと
みんな引いてしまった。
「ハハハハッ!ケホッ!ケホッ!」
「部長!大丈夫か?
笑い過ぎて、むせとるじゃないか!」
七海が心配して背中をさすってあげた。
「ごっ、ごめんなさい。ケホッ!ケホッ!
あ一っ!ビックリした…」
「こっちの方がビックリしたよ!」
七草がツッコンだ。
「本当に、すいません!驚かせてしまって…
ヨッシーさんも、すいません。
思わず笑ってしまって…」
「どう言う事だ?急に笑いだして?」
七海が、みんなの疑問を代表した。
「いえ!七草さんの気持ちもわからなくはない。
…と、思いました。
七草さんも申し訳ありませんでした。
頭ごなしに批判して…」
部長は、素直に頭を下げた。
「いや、わかって貰えれば幸いだワイ!」
七草が胸を張って、どんなもんだいという顔をした。
「なっ、何だ部長!やっぱりおかしかったか?」
ヨッシーは、期待はずれな部長の反応に
不安になった。
「いえ!おかしいと言うより面白かったです。
正確なデッサンで描かれた
クールなキャラクター達が
場違いな事を永遠と言い続けるのですもの…
途中で吹き出してしまいました。
ヨッシーさんに悪いと思って
極限まで我慢したんですけど
到底無理でした。
本当にごめんなさい。」
部長は、手を合わせてヨッシーに謝った。
「でも、これは…
初めからシュールなコメデイと言う位置付けなら
通用するんじゃないですか?」
部長が逃げに出た。
「そんなんじゃ、あの舞台と同じだよ。
自分の思惑と違った解釈をされたら不本意だよ。
自分で自分の作品を
コントロール出来て無いって事だ。
やっぱり諦めて正解だったよ。
それに本当に今は、他にやりたい事があるんだ。
だから私の事は、気にせんで欲しいよ」
ヨッシーは、苦笑いをした。
「それなら、良かったです。
せっかく励まそうと思ったのに
本当に自分の思わく通りには行かないものですね…」
部長が、そう言い終わる前に
突然、笑い声が部室に響いた。
「はっははははは!ひゃはっはははは!」
短亀ちゃんだ。
いつの間にか部長が見ていたスケッチブックを
膝に乗せ大笑いしている。
「ひっひっひっひっ!」
息が止まりそうな程笑っている。
「おい!こっちも大丈夫か?」
「はははっ!だっ、大丈夫じゃないですよ!
これ、凄す過ぎですよ。はははっ!
まだ、笑いが止まりません!
よく、こんな面白いもの描けますね。
天才ですよ。もう最強ですよ。もう誰も勝てん!
笑いのセンスならチョン君さへ足元にも
及びませんよ。」
「短亀ちゃん!先生をそんな言い方すんなよ!
私が勝てる訳ないよ。」
ヨッシーの反論に短亀ちゃんが即答した。
「ああ。大丈夫ですよ!
チョン君は、七海先輩と同じで
お笑いは、からっきしですから!」
ヨッシーは必死に答えた。
「だから、それコメディじゃないから!」
「俺、密かにディスられてる?」
七海とチョン君は傷を舐め合った。
「いえ!しっかりディスられてます。
しかし自分も、とばっちりですよ!」
しかし短亀ちゃんは
みんなの反応も意に返していない様だ。
「もったいないですね。
これ何とかなりませんかね?
たとえば、チョン君に原作として提供するとか…
チョン君のネームバリューがあれば
ヒット間違いなしですよ。」
「でもチョン君も忙しいだろ。受験もあるし…」
「大丈夫ですよ。忙しいふりしてるだけですよ。
チョン君なら楽に志望大学に入れますよ。
なんせ天才ですから。正真正銘の!」
「ナクサの正真正銘の不器用とは
えらい違いだな。」
「そだな!」
そのやり取りをチョン君は
黙ってニコニコ微笑んで眺めていた。
続く




