1 もーっ!園芸部ですよ!
登場人物
春野 七草 園芸部の問題児
早乙女 好子 七草の親友でありお守り役。愛称ヨッシー。七草の事はナクサと呼ぶ。
冬本 千晴 園芸部の部長。容姿端麗。武家の末裔。
夏樹 七海 副部長。千晴の彼氏。実家は農園と果樹園を営む。
短亀 摩姫 短亀うどんの経営者の娘。
北斗 宗像 愛称チョン君。クセモノに囲まれ部では影が薄い。
私は角の席が好きだ。
他人の視線が突き刺さる様に集まるのは苦手だが..。
せせこましい、肩をせばめるような窮屈さは、
この身を守ってくれている様な気になる。
冬眠動物の巣の様なものか…
そこなら安心してくつろげるのだ。
気を抜けるのだ。
それにしても、私が、ここに来て二万年も経つが
人類の進化は遅すぎる。
私は、あと何万年ここに存在するべきなのか?
主からの通信が途絶えてから二千年。
私は変更もなく同じ使命を全うし続ければいいのか? わからない?わからない?
主よ私に、新たなる使命をお授け下さい。
私の進むべき道しるべをお示しください。
主よ!ああ。主よ!
「おーい!起きろぉ!授業終わったぞ。
こんな角席のカーテンの裏にかくれて
寝るヤツがあるか。日向ぼっこか?」
「あっ、ああ。つい、居眠りしてしまいました。」
「それ、居眠りのレベルじゃなかったぞ。爆睡だ!
イビキは、かいて無かったがな。
それだけは、幸いだったな。バレずに済んで…」
「変な.....いえ!面白い夢を見ました。」
「しっかり夢まで見てたのか?大したヤツだ。
見た目は、おとなしいオドオド少女が、
たまに大胆な事をしでかす。
俺からすれば、それが面白くて堪らんのだがな。
…で、どんな夢だったんだ。」
「それが、忘れてしまって思い出せないんです。
いくら頭のネジを巻いても出て来ません。」
「まあ、そうだろうな。
元々頭の中にネジなど無いから、
そんなものに頼っても何も出てこんだろう。」
「あら!モノの例えですよ!」
「わかっとるわ!そんな事。
乗っかって話しただけだ。ハハハッ!
そう言うところ好きだな。」
「えっ!困ります。私、全然その気ないですから!」
「いやいや。そうじゃなくて、
そう言うところ面白くて、いいな!
…って言ってるんだよ。」
「そっ、それは、申し訳ありません。
早合点の勘違いでした。ダブルミステークでした!」
「ハハハッ!謝る様な事じゃないよ。言葉遊びだろ。 でも、そうキッパリ拒否されると
チョッピリ、ショックだな!ハハッ!」
「えっ!ショックでしたか!度重なる失礼。
申し訳ありません。」
「だから言葉遊びだって言ってるだろ。気にするな! さっきから謝ってばかりだぞ。
悪い事をした時に謝罪なんてものは、するもんだ。
それに簡単に頭なんかさげるな。軽く見られるぞ。
押せば引くヤツだと思われて
損な役目ばかり回ってくるぞ。」
「そんなもんですかね。
私は押されたら引いてしまう性分で.....
そうだ!ちょっと試してみますか?
私の肩でも二の腕でもいいですから
押してみて下さい。」
彼女は椅子から立ち上がるといつもとは、ほんの少しだけ違う立ち姿を見せた。それは気に留める程の違いではなかったのだが...。
「えっ⁉︎ どう言う事だ。普通に押せばいいのか?
こんな感じか?これで....ワッ!あぁ〜っ!」
彼は宙を舞っていた。
一瞬、床と彼女の下着が眼に入った途端、またその場所に立っていた。
つまりは一回転したのだ。学生とは言え大の男が、こんな小柄な女子高生に投げられたのだ。しかも投げ飛ばされた訳ではない。
ご丁寧にちゃんと床に着地させてもらえたのだ。トンと軽く床に着いた。大した痛みもない。重力を無視した様なこの技は何なのだ?
教室には数名しか残っていなかった。その誰もが話に夢中で二人の動きなど気にも留めていなかった。いや、それ程、静かに鮮やかにこの大技を決めたのだ。まさに神技だ。
「なっ何だ!?今のは?」
「押されたので引いて見ました!」
「ちょっと待て!引いただけじゃないぞ!
回してるし、しかも受け身までしてくれている。
気遣いは嬉しいが
その前にビックリしたじゃないか!」
「フフフッ!トゥットゥル~♪ドッキリ大成功⁉︎」
「えっ!ええ~っ⁉︎ どう言う事?」
「ちょっと、今日はいつものお礼で
ビックリを堪能して頂きました。」
「何の事か、こっちは解ってないぞ。
それにちょっとのレベルじゃないぞ。
超ビックリだ!それにお礼で人を一回転させるか!
普通、そんなものは敵意を持った相手にする事だぞ。」
「ええっ!敵意だなんてそんな.....
私は、だだチョン君に喜んで欲しくて.....
あっ!怒ってるんですね。ごめんなさい!」
彼女は慌てて頭を深々と下げた。顔が膝のあたりに触れていそうだ。身体の柔軟性に驚いた。
「いやいや。怒っては、いない。それは、無い!
断じて無い!頭を上げてくれ!
ただビックリしただけだ。それだけだ。
短亀のドッキリが成功しただけだ。」
彼女はゆっくり頭を上げだ。瞳に薄っすら涙が浮かんでいる。
(おっ、おい!止めてくれよ。
こっちの方が罪悪感が湧いてくるじゃないか!
突然、前触れもなく投げられた者の方が
悪者みたくなるのは、お門違いと言うものだ。
何とか気分を上げてもらわんとややこしい事になるぞ!)
「あっ!そうだ。それにしても、凄い技だな。
何が何だか解らなかったよ。
押したつもりが引かれて..。
まさに、その通りだ。押されたら引くか...。
攻撃した訳じゃないよな。
でも、それで、ちゃんと自分の身を守っている。
それって凄い事だな。」
「さすがチョン君!分析力と理解力が凄いです。
そう言うところ大好きです!」
「おっ!本当か!?」
「あっ!いえ!違いますよ。
頭の回転の早いところを尊敬していると言う事です。 恋愛的なものじゃ無いですから!」
「そう何度も否定するな。解ってるよ。!ハハハッ!」
「フフフッ!」
彼女も吊られて笑った。機嫌が治ったようだ。
「そうだ。肝心な事を教えてくれ!
短亀は武道か何かやっているのか?」
「私の家は武道場をやっています。
小さな頃から父に鍛え上げられました。
柔道、空手、合気道に少林寺。
父はあらゆる武道に精通する達人です。
その父に英才教育的なものを受けました。
その父の血筋のせいか私もこの様に
自分を守る為の技を修得する事が出来ました。」
「短亀。そう言う事は早めに言っといてくれ!」
「えっ!やっぱり引きましたか?そうなるんです。
だから、こうして何かのきっかけがないと
話せないんです。」
「いや!そうじゃないよ。
何か、あった時は俺を助けてくれよな。
俺より短亀の方がよっぽど強いってわかったから。
ハハハッ」
「はっ、はい!承知しました!」
「ハハハッ!同級生だ。そこは了解!でいいよ!」
「了解しました!」
「ハハハッ!何か、気が抜けるな。」
「すいません。間が抜けてて…。」
「そうじゃないよ。ほっこりするって言ってるんだ。 癒されるって事だよ。ハハハハッ!
オット、こんな時間だ。俺は帰宅部だからな。
そろそろ帰ろう。短亀は部活だったな。
大変じゃないのか?アソコ。
変わった先輩ばかりだろ!」
「いえ!そんな事無いですよ。
楽しい先輩ばかりですよ!
じゃあ、私は部活の方に行きますね。」
「ところで何部だったけ?アソコは?」
「も一っ!園芸部です!」
「そうだった。頑張れよー!」
「了解しました!」
続く