第5話:一度目の記憶
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──アレシアのもとへと走る、その一瞬。
俺の中に、あの記憶が──
もう一つの“人生”が、滲んできた。
それは、俺が──“ゴミだった頃”の話だ。
◆◆◆
前世の俺は、終わっていた。
無職。借金まみれ。
親の金で課金ゲーに耽り、アニメに溺れ、漫画に逃げ……現実から全力で逃げていた。
母は難病で寝たきり。
父は退職金を切り崩して、家庭を何とか支えていた。
……そんな中、俺は家でただ腐っていた。
「……この世界はクソだ」
吐き捨てたその言葉は、本当は“俺自身”に向けるべきだった。
何も変えられないまま、無為な時間だけが流れた。
社会の底で、息だけをしていた俺のスマホに──ある通知が届いた。
『生きてるかお前。久しぶりに集まろうって話なんだが、お前も来ないか?』
差出人は、高校のクラスメイトだった。
“生きてるか”──その言葉に引っかかりはあった。
まるで俺の死を、前提にしたみたいな言い草だ。
……それでも俺は、浮かれていた。
「ああ、行く」
その一言を、即座に打ち返していた。
◆◆◆
同窓会、当日。
居酒屋に集まったのは、十人ほど。
「かんぱーい!」と、俺には縁遠かった掛け声で乾杯が始まった。
俺はジャージ姿で、場違いなまま端に座っていた。
「よく来てくれたな」
最初に声をかけてきたのは、かつての優等生。
成績も運動も完璧で、女子人気も高かった“勝ち組”だ。
だが今、金髪に黒スーツ──
彼は、ホストになっていた。
「ちょうど暇だったから」
そう笑ったが……俺の人生は、ずっと暇だった。
数年単位で“空白”だ。誤魔化すにも限界がある。
「今、何してんだ?」
「親の家業、継いでる」
……まあ、“自宅警備員”も家業と呼べなくもない。
虚勢を張る俺の中に、染みついた“ゴミの匂い”は隠せなかった。
彼は聞いてもいないのに、ホストとしての苦労話を語り始めた。
女にモテて、子どもができて、
今は養育費のために必死で働いているらしい。
「金を稼ぐって、ほんと大変だよ」
そう笑った彼に、俺は「すごいな」としか返せなかった。
──本当は、“大変”の意味すら分からなかったくせに。
「なぁ、少しでいい。子どものために金がいるんだ。金を貸して──」
言葉の途中で、空気が変わった。
「──やっと見つけたよ、風馬くん」
現れたのは、ドレスに身を包んだ女。
その手には、刃物。
彼の“元恋人”──いや、今もそうだったのかもしれない。
「風馬くんは私のもの。誰にも渡さない。だから──一緒に死んで?」
壊れた瞳。
その言葉に、店内が凍りついた。
悲鳴が上がり、誰かが逃げ、誰かが固まる。
……そんな中で、俺は──
動いていた。
理由なんて、なかった。
庇う義理なんてない。
名前すら知らない男のために──
けれど、俺は身体を投げ出していた。
「がはっ……」
ナイフが、腹に刺さった。
熱い。熱すぎる。
床が、赤く染まっていく。
女はその場に崩れ落ち、ナイフを手放し、
「違う、違うの……」と泣きじゃくっていた。
「……なんで……お前、俺を庇ったんだよ……!」
風馬の叫びが、遠く聞こえる。
……俺は、笑った。
「そんなの……俺が、聞きてぇよ……痛ぇな、これ」
腹の奥から、命が溢れていくのが分かる。
指先が冷たい。
視界が霞む。
「だ、大丈夫だ!救急車、呼んだから!すぐ来る、すぐ来るから!」
……見れば分かるだろ、この血の量。
俺が死ぬことくらい、俺自身が一番よく分かってる。
「おい、おい!死ぬな!お前……名前、なんだっけ……」
ふざけんなよ。
死にかけてる相手に、「お前」呼びかよ。
──でも、俺も名乗らなかった。
誰の記憶にも残らず、死ぬのか、俺は。
「なぁ、風馬……なんで俺が庇ったかって、聞いたよな……」
「しゃべんな!今はしゃべんな!!」
「……もう喋れなくなるから、言ってんだよ……」
自嘲の笑みとともに、喉が震えた。
「……多分な。俺、お前に“同情”したんだよ」
──そう。
それが、俺がこの人生の最後に感じた、最初で最後の“感情”。
「お前さ、久しぶりに集まった奴らから金を借りようとしたろ」
「……」
「教室の隅にいた奴ばかり……呼んでたよな」
──通知が来たときは、嬉しかった。
誰かが、俺をまだ覚えてくれていた。
……馬鹿だな、俺は。
「お前は──何かを守ろうとして“ゴミ”になった。でも、俺は……何も守らず、ただ“ゴミであり続けた”」
その差は、たったそれだけ。
けれど、決定的だった。
「……最後くらい……謝りたかったな」
両親に。兄弟に。
そして、俺自身に。
でももう、そのチャンスは──
失われた。
意識が、沈んでいく。
まるで、黒い水の底に堕ちていくように。
(……俺って、本当に最後まで──)
……ゴミだったな。
「…………なんで……名前も知らねぇ奴が、俺なんかのために命張ったんだよ……。俺の名前は……吉川秀樹だよ……風馬は、源氏名だよ……馬鹿野郎……」
──こうして、俺の人生は終わった。
◆◆◆
【ユニークスキル:廃棄収納を獲得しました】
“価値なきものを拾い、己の力とする”
この世の理から溢れた、“ゴミ”に愛されたスキル。
それは、世界で一番──
ゴミを理解した男にだけ、許された力だった。
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それでは、また次回もお楽しみに。