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From: ゴミから始まる異世界生活 〜拾い集めて世界最強〜  作者: 水無月いい人
第一章 出会いと別れ『少年編』 
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第4話:スキル、『廃棄収納』の真価

お読みいただきありがとうございます!


本編の前に少しだけ。

更新の励みになりますので、ブクマや★★★★★をいただけると嬉しいです。


それでは、本編をお楽しみください。

──眠れない。


いや、眠れたとしても、どうせ悪夢だった気がする。


テトラのことが、頭から離れない。

あの銀髪の、無邪気で笑う少女の姿が。


「……くそ、俺がこんなことで悩む歳かよ」


いや、そもそも今の“見た目”は五歳の子どもで、

“中身”は二十七の廃人。

合計三十二……いや、年齢の計算しても仕方ねぇ。

どっちにしても、子どもに心を乱されてる構図は──どう転んでも、アウトだ。


──けど。


(守らなきゃって、思っちまってる)


アレシアも。テトラも。

この異世界で出会った、俺にとっての最初の“家族”で──


たぶん、最初で最後の繋がりだ。


「……眠れねぇ」


もう、いい。

眠れないなら眠らなきゃいい。

こういう時は、夜の散歩が定番だ。

テンプレ通りの選択肢。


アレシアを起こさないよう、布団を抜け出して、足音を殺して外へ出る。


夜の空気が、肺を刺すほど冷たい。

でも──それが心地いいと思える程度には、俺もこの生活に慣れてしまったらしい。


「……夜の村も悪くねぇな」


そう思った、その時だった。


「……ん? なんだ、あれ」


光だ。

畑の方角に、ぼうっと淡く、青白い光が揺れている。


(……まさか)


胸がざわついた。悪寒。

俺の本能が、やばいと告げている。


「野良熊でも出たか……?」


──だったら、どれだけマシだったか。


「っ──うわ、うわあああああっ!!?」


見た。

いや、見てしまった。


あれは……熊なんかじゃない。

熊に似ている、なんて表現すら、生ぬるい。


三つの目。

赤黒く濁った毛並み。

筋肉の塊のような躯体に、歯と爪だけが異常に発達している。


「ガルゥゥゥゥゥ……」


喉奥から響いた声は、地鳴りのようだった。


腹の底が凍りつく。

脚が震える。

心臓が跳ね上がる。


逃げろ。逃げなきゃ。


でも──


「アレシア──!」


最悪の光景が脳裏に浮かぶ。

寝ているアレシアに、こいつが這い寄る姿が。


(駄目だ、それだけは……絶対にさせねぇ!!)


身体が、勝手に動いた。


家とは逆方向へ。

獣を引きつけるように、走り出していた。


背後から迫る音。

足音なんてもんじゃない。

大地そのものが、唸りながら追いかけてくるような──そんな音。


「はぁ……はぁ……っ……!」


心臓が壊れそうだった。

肺が焼けるように痛い。

視界が揺れる。

五歳児のスペックで、ここまで走れた俺を褒めてやりたいが──


「速ぇ……速すぎんだよ、クソ化け物が!!」


どんどん距離を詰めてくる。


月明かりの下、三つの目がぎらついた瞬間──


【ユニークスキル:廃棄収納(トラッシュボックス)を発動可能です】


「うるせぇ!! 今それどころじゃねぇよ!!」


脳内に響いた機械的な声。

このタイミングでのスキル通知……悪意しか感じない。


逃げろ。逃げろ。逃げろ──!


「……っ!?」


振り返った瞬間、“見えた”。


アイツの──三つ目の一つに、

何かが、深々と突き刺さっていた。


「あれって……」


錆びた、釘。


ただのゴミ。

俺が村の片隅で拾った、誰にも価値を見出されなかった、それ。


その釘が──あの化け物の目を、潰していた。


(俺が、やったのか? いつの間に? どうやって?)


疑問が渦巻く。


──けど、今は考えるな。


「今しかねぇ!!」


再び、前を向いて走った。


足が痺れても、息が切れても──走った。


 ---


 「っ……ぜぇっ……は、ぁ……っ」


肺が焼ける。

脚も、もうまともに動かせそうにない。


──でも、逃げ切った……のか?


「……マジかよ……」


へたり込むと、地面の冷たさが掌に伝わってくる。


その感触でようやく、現実に戻された気がした。


「……助かった、のか、俺……」


死ぬと思った。

殺されると、心の底から確信していた。


それでも今、こうして生きている。


けど。


「…………なんでだよ」


無意識に握っていた拳を開く。


中にあったのは──古びた、錆びた一本の釘。


あれは間違いなく、俺が拾った“ゴミ”だった。


誰も見向きもしない、朽ちた鉄の塊。

だけどそれが──

あの化け物の目を、潰した。


(……スキルが、発動してた?)


──いつだ?

記憶にはない。

だが、無意識に叫んだ“生きたい”という思いに、スキルが応えたのかもしれない。


生きろ、と。

助かれ、と。


──でも、それよりも気になることがある。


「……なんで、奴は追ってこない?」


アイツはそんなタマじゃなかった。

目を潰されただけで引くような獣とは思えない。


(あいつは……“狩り”を楽しんでた)


そう。

逃げ惑う俺を、まるで玩具のように追っていた。


けれど──追ってこなかった。


理由は──ひとつしかない。


「……アレシア」


──俺が、獲物じゃなくなったから。

だから、アイツは向きを変えたんだ。


新しい獲物へと──


「やべぇ……!」


立ち上がろうとする脚が、言うことを聞かない。

動け。動け、動け、動け!!


今、動かなきゃ──間に合わない。


「っ……ああもう、動けよ俺の足ぃ……!」


焦りで呼吸が浅くなる。

心臓が早鐘のように鳴っている。


頭に浮かぶのは──アレシアの顔。


優しくて。

ちょっと抜けてて。

だけど、あたたかくて。


俺に“家族”という言葉を思い出させてくれた、たったひとりの人。


(守らなきゃ……)


今度こそ、守らなきゃいけない。


この二度目の人生で、ようやく手にしたものを。

絶対に、もう失いたくない。


たとえこのスキルが、ただの“ゴミ拾い”だったとしても。


それが俺に与えられた力なら──


「……廃棄収納。お前が俺の力になるって言うなら──今、使わせろ」


叫ぶように、祈るように。


闇夜の中、俺は再び走り出す。


家に向かって。

アレシアの元に向かって──


お願いだ。


どうか、間に合ってくれ。

ご覧頂きありがとうございました。

異世界初戦闘の五歳児。勝てるのか……?


次回もお楽しみに!

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『From: ゴミから始まる異世界生活 〜拾い集めて世界最強〜 』

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