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From: ゴミから始まる異世界生活 〜拾い集めて世界最強〜  作者: 水無月いい人
第一章 出会いと別れ『少年編』 
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第3話:少女との日課

お読みいただきありがとうございます!


本編の前に少しだけ。

更新の励みになりますので、ブクマや★★★★★をいただけると嬉しいです。


それでは、本編をお楽しみください。

「ダストちゃん?最近なんだか機嫌がいいわね」


「え?そうかな」


 自分でも、なんとなく分かっていた。


 毎日、ゴミを集め続けるだけの日課。

 それは俺のスキル、廃棄収納(トラッシュボックス)の可能性を探るため。


 ──だけど、最近は……その目的が、少しずつ変わってきていた。


「じゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃい」


 軽やかに家を出る。

 胸の内に、ひとつの期待を抱えて。


「あ、きたきた! おーい! こっちだよ、ダストー!」


「ああ! 待ってくれ!」


 あれから──テトラとは、ほぼ毎日会っていた。

 俺の中で、彼女の存在はどんどん大きくなっていった。


「ダスト、今日は何を拾うの?」


「今日は──」


 ゴミ拾いの“デート”。

 前世では、考えられないほど最悪なプランだ。


 ……けれど、今の俺にとっては、むしろこれが“最良”。


 スキルを見せたときの、あの彼女の表情を思い出す。

 真っ先に返ってきた言葉は──「大丈夫?」だった。


 手に触れたゴミが吸い込まれる。

 確かに、普通なら引かれてもおかしくない。


「それ、どこに消えてるの……?」


 彼女に聞かれたとき、俺は答えに詰まった。


 俺自身、よく分かっていないのだ。

 どこへ行くのか。どこに“保存”されているのか。


 まさか体内に蓄積されていたりして──

 ……いや、それは嫌だ。絶対に嫌だ。


「次はこっちだな」


「こっちには何があるの?」


「……ゴミだよ。その一帯だけ、不思議といつも増えてる。

 取り尽くしたと思っても、次の日にはまた、増えてる」


「……なにそれ。ちょっと怖いね」


 確かに、テトラの言う通り“怖い”といえばそうかもしれない。


 でも──

 俺にはそれが、まるで“誰か”が意図的にそこに置いているように思えて仕方なかった。


 俺のために、俺のスキルのために。

 ……そんな風に、考えてしまう自分も、少し怖い。


「なぁ、ダストはさ。将来、何になりたいの?」


「…………さあ。俺、この世界のこと、何も知らないからな。

 だから──大人になったら、この村を出て旅でもして、この世界を知ってみようかって」


 それは、前々からなんとなく考えていたことだった。

 この体のままじゃ、まだできることは限られているけれど。


「……そう、なんだ」


 その瞬間、テトラの顔が暗くなる。

 胸の奥で、何かがきゅっと締め付けられた。


「どうしたんだ?」


「……外は、怖いよ。魔獣がいるから」


「魔獣?」


「そう、魔獣。怖いんだよ〜?」


 彼女は、まっすぐな瞳で俺を見つめた。


「この村はね、“魔獣除け”がしてあるの。だから魔獣は寄ってこないけど……

 でも、この村から一歩出たら、そこはもう“魔獣の世界”だよ」


 その言葉には、真実味があった。

 まだ小さいはずのテトラが語る“外の恐怖”に、俺は思わず息を呑んだ。


「……強いのか?」


「分からないけど、多分?」


 ……いや、なんで俺は、魔獣の“強さ”なんて訊いてるんだ?


「でもさ、村から出なきゃいい話だろ? だったら、出ないようにするさ」


「うんっ! テトラも、それがいいと思う!」


 その笑顔に、心が大きく揺れた。


 俺は……もう気づいていた。

 ずっと前から。


()は《・》、()の《・》が《・》、()き《・》だ《・》。


 ……それなのに。


 「もし。もしさ、大人になったら……テトラ。俺と、その……」


 喉元まで出かけた言葉が、どうしても出せない。

 前世で恋愛の“れ”の字すら知らなかった俺に、告白なんて……無理だ。


「……どうしたの、ダスト?」


「いや……その、なんでもない」


 また、飲み込んだ。


 「ダスト……テトラね、この村の生まれじゃないんだ」


「……え、そうなのか」


 突然の告白だった。

 そして、その声音にはほんのわずかに影が混じっていた。


「テトラ、両親がいないの。……ううん、“分からない”って言ったほうがいいのかな」


「両親が分からない……? じゃあ、今はどこで暮らしてるんだ?」


 俺たちくらいの年齢の子供が一人で生きていけるわけがない。

 俺だって、アレシアがいなければ、ここまで来ることはできなかった。


「……知り合いの人に、お世話になってる」


「知り合い……って、まさかおっさんか……!?」


 ──何をするつもりだその野郎、と一瞬で脳裏が修羅場になる。


「ダスト、顔怖いよ?……大丈夫、悪い……人じゃないから」


 最後のほうが聞き取りづらかった。

 けど、テトラの言葉に嘘はなかった。

 きっと、本当に優しい人なんだろう。


「……そうか。なら、よかった」


「うん!」


 彼女の表情がぱっと明るくなる。

 この笑顔だけで、救われる気がした。


 それからも、俺たちは毎日のように会った。

 笑って、話して、ともに歩いた。


 その時間が、何より愛おしかった。


 ──でも、俺はまだ言えなかった。

 この気持ちを、まっすぐに言葉にする勇気がなかった。


 だから、俺は遠回しに言った。


「なぁテトラ。もし、俺とお前が大人になったら……また、一緒にならないか?」


「……うんっ! もちろん!」


 胸が跳ねた。

 これは“告白”じゃない。でも、何かを交わしたような感覚があった。


 これで、今は十分だった。


(……大丈夫。もし断られても、「あれ? あの時俺、言ったよね?」って言えるし)


 自分のずるさに、ちょっとだけ落ち込む。

 けれど、それ以上に──彼女と未来を想像できたことが嬉しかった。


 ──日が暮れる。


「じゃあね、ダスト!」


「ああ、テトラ。また明日な!」


「うんっ!」


 無邪気に手を振る彼女の笑顔に、俺も自然と笑みがこぼれた。


(……やっぱり、俺はあの子に惚れてる。こんなガキに……)


 いや、俺もガキなんだから……問題はない。犯罪にはならない。……多分。


……

…………

………………


「……うん、分かってる。テトラは、もう子供じゃないから」


 風に乗って、誰かの声が揺れる。


「…………」


「……え? まだ子供だって? ……ふふっ、それでも、ダストよりはマシだよ」


 テトラは、静かに微笑んだ。


「ねぇ、テトラね。あの子のこと、どうしようもなく気になっちゃうの。

 だって、あんなにも平和で、あんなにも純粋で、こーーーんなにも()なんだもん。

 だから……ワクワクしちゃうの。あの子が、どんな風に“変わっていく”のか」


「………………?」


「うーん、まだ分からない。きっと本人だって、分かってないよ。

 でもね、ひとつだけ、確信してる。──あの子、テトラに惚れてる。間違いなく、ね」


 唇が、いたずらっぽく歪んだ。


「この世界の“現実”を知って、全部、受け入れて……

 そして、ぜーんぶ壊して。

 そうすれば、パパとママも、きっと認めてくれる。……そう思わない?」


 そして一拍、声が低くなる。


「だから──手出しは、しないでね?」


「…………ぅ」


 夕暮れの中、銀の髪が、微かに揺れた。

本日もお読みいただきありがとうございました!

応援いただけると、本当に励みになります。

ブクマや★★★★★、感想などお待ちしています!


それでは、また次回もお楽しみに。

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『From: ゴミから始まる異世界生活 〜拾い集めて世界最強〜 』

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