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From: ゴミから始まる異世界生活 〜拾い集めて世界最強〜  作者: 水無月いい人
第一章 出会いと別れ『少年編』 
3/24

第2話:美しい銀髪の乙女

お読みいただきありがとうございます!


本編の前に少しだけ。

更新の励みになりますので、ブクマや★★★★★をいただけると嬉しいです。


それでは、本編をお楽しみください。

──三年後。


 ようやく、一人で立てるようになった。

 そして、言葉も達者になった。……齢三にして、妙に達観した口ぶりのガキがここに一人。


「ダストちゃん、ご飯できたわよ〜」


「うん、今行く」


 その呼びかけに、自然と返事が返せるようになっていた。

 この三年間で、俺は一つの“異変”に気づくことになる。


 手を近づけると、ゴミが吸い込まれていく──そんな能力が自分にあるということに。


 きっかけは、ある日偶然見つけた一本の酒瓶だった。


◆ ◆ ◆


『……これって、まさか酒瓶か?』


 ボロ屋の隅、布に包まれるようにして置かれていた。

 恐らくアレシアのものじゃない。きっと、この家の“かつての主”の遺物……つまり、俺の父親にあたる人物のものだろう。


『……日本酒か。懐かしいな』


 前世で、俺の父親はアル中だった。

 いつも日本酒を手放さなかったあの姿を、ふと思い出す。


 どこか懐かしくて、手を伸ばした──その瞬間だった。


『うわっ……!?』


【ユニークスキル:廃棄収納(トラッシュボックス)を発動しました】


 酒瓶は、俺の手に触れることなく、そのまま“吸い込まれた”。


 空間にふっと消えたのではない。

 明確に“俺の中”に回収された感覚があった。


 しかも、頭の中に響く、謎の声まで添えて。


『……な、なんだこれ』


◆ ◆ ◆


 そんな具合に、俺は“ゴミ”を拾うスキルを得た。


 正直、呆れるほどに“役立たず”だ。


 いろいろと試した。紙くず、空き缶、割れた陶器、錆びた釘──

 手を伸ばすと、すべて俺の体に吸い込まれていく。


 だが、逆に新品の道具や、まだ使えるものには一切反応しない。


 つまりこれは、どこからどう見ても“ゴミを回収するスキル”──

 ……なんだこれは。前世でゴミ同然の人生を送っていた俺への、皮肉か?


(神様ってのは、つくづく意地が悪い)


 なにが“せめて転生先では、ゴミを拾って世界を綺麗にしましょう”だ。

 ……冗談じゃない。


 ちなみに、アレシアにはまだこのスキルのことは言っていない。

 別に隠すつもりはないが、なんとなく……恥ずかしい。


 「俺、ゴミを吸い込めるんだ!」ってドヤ顔で自慢できるスキルじゃない。


 いや、もしこれが“魔王すら一撃で倒せる力”とかだったら、そりゃ胸張って言えるけどな。


(……だが俺のスキルは、ゴミ箱だ)


 それに、もしこの世界に“魔法”という概念があるなら──

 アレシアのような一般人にも、似たような力があったりして。


『お母さんは、触れた相手を消し飛ばせるのよ?』


 ……なんて言われた日には、俺の精神は再起不能だろう。


 そういうわけで、スキルのことはしばらく黙っておく。


 あともう一つ。俺はアレシアのことを、“母さん”と呼んだことがない。


 転生者として、頭では“母親”と理解していても──

 心のどこかで、それを受け入れきれていない自分がいる。


「……いただきます」


「はい、どうぞ〜♪」


 アレシアが作ってくれた料理を口に運ぶ。

 正直、美味しいとは言えない。だが、それでも。


「……美味しいよ」


「良かったぁ!今日はね、腕によりをかけたのよ!」


(……どの腕だ)


 心の中でだけ、そっとツッコんだ。

 煮ただけの野菜。味付けもほとんどない。

 それでも──否定する気には、なれなかった。


()()()()()()()()()


 たった一人で俺を育ててくれたアレシアの苦労に、文句なんて言えるはずがなかった。


(……味は、あとで俺が教えてやればいい)


 料理のレシピなら、多少覚えている。

 いつか俺が大きくなったら、それをアレシアに教えて──

 ……一緒に笑って食べられるようになればいい。


 ……そんな未来が、きっとくることを信じながら。


  ──そして、午後は“俺の時間”だ。


 スキル:廃棄収納(トラッシュボックス)

 それは、この世界に来て最初に与えられた、俺だけの力。


 ……ただの“ゴミ箱”スキルだとしても、無駄にするつもりはない。


(なぜ、俺にこれが宿ったのか)


 最初は前世の人生に対する皮肉だと思った。

 ゴミのように生きたから、ゴミを拾えと。……だが。


 それだけなら、与える必要すらなかったはずだ。

 むしろ、マイナス効果のスキルをつけて、嘲笑ってくれた方が筋が通る。


(……結局、わからなかった)


 だから考えるのをやめた。

 今は、拾えるだけ拾う。


 朝。食事を済ませると外に出て、ゴミを探す。

 昼もまた、アレシアの心配を受けながら、それでも探索を続ける。


 ただし、夜はダメだ。

 熊が出るから、とアレシアが外出を禁止している。


 俺も一応、忠告は聞く。……無駄な怪我で心配をかけるのは、ごめんだ。


 ということで、俺の活動時間は“朝と昼”だけ。


 見つけるのは──空き瓶、割れた陶器、錆びた釘、折れた剣、壊れた鎧の破片。

 焦げた木材、ボロ布、ちぎれた縄、燃えかすや灰、油の染みた布、靴底、皮の切れ端、金具の欠片。


 まさに“ゴミ”。


 だが不思議なことに、スキルは確実に反応していた。


 ──ただし、条件があるようだった。


 ある日、錆びも折れもしていない“鎌”を拾った。

 見た目は使えそうだったのに、俺のスキルはまったく反応しなかった。


 つまり、これは“本当にゴミであるもの”にしか作用しない。


 その事実を、俺は二年間かけて理解していった。


 ──そして今。俺は、五歳になった。


 変わらず日課の時間だ。


「……この小さな村で拾えるものも、限られてきたな」


 そう、独り言をつぶやいた瞬間──


「ねぇ!そこの君!何してるの?」


 振り返ると、そこには──見たことのない“光”。


 透き通るような銀髪。

 雪のように白い肌。

 白いワンピースが、陽の光を反射して揺れていた。


 ──言葉を失った。


「……え?」


「……もしもーし?聞こえてるー?」


 この五年、子供どころか他人すら滅多に見なかった俺の前に、

 まるで“天使”のような少女が現れた。


(……なんだ、この感じ)


「……聞いてるの?」


「あ、ああ。聞いてる。……お前は?」


「テトラ! 君は?」


「……ダスト、だ」


 心臓が、どくんと跳ねた。

 ──何なんだ、この感覚。俺は二十七歳。ガキ相手に動揺するなんて……。


 でも、この目の前の“テトラ”には、そんな理屈が通じなかった。


 息を飲むほど、美しかった。


 言葉が詰まる。胸がざわつく。……これは、何だ?


「……ゴミ。一緒に拾わないか?」


(……何を言ってる、俺)


「……ゴミ?ばっちぃよ」


「だ、だよな……はは……」


 ──フラれたような気分だ。


「じゃ、じゃあ……俺は、行くから……」


 気まずさを残して歩き出す。


 だが、その背中に──声がかかった。


「ねぇ、待って!」


 足が、止まる。


「……ねぇ、ダスト。また君に会えるかな?」


 その言葉に、胸が跳ねた。


 この世界で、誰かに“また”と言われたのは、これが初めてかもしれない。


「ああ。絶対に会える。……約束だ」


「……うん。分かった。約束ね!」


 テトラが笑った。


 それだけで、この世界が少しだけ輝いて見えた。


 この笑顔を──守りたいと思った。


(……テトラは、俺が守る)


 ──それが、出会いだった。


 人生で初めて“異性”と出会い、

 そして、初めて誰かに“期待”を向けられた。


 その胸の高鳴りが、静かに鼓動する。


 草を踏む軽い足音が、風に紛れて消えていく。


「……ふふ。面白い子。……成長が、楽しみね」


 銀髪が、そよぐ。

 その片目だけが、ほんのりと赤く光っていた。

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『From: ゴミから始まる異世界生活 〜拾い集めて世界最強〜 』

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