~フリント博士と優ちゃんのドキドキ一問一答のコーナー~
Q.魔法界ってなぁに?
A.モンスター達が楽しく暮らすこの世界のことだよ!ニンゲン達が暮らす世界とは少しズレた時空に存在する世界なんだ!
Q.モンスターって本当に存在していたの?フィクションじゃないの?
A.ニンゲン達がどう語り継いでいるかは知らないけど、何千年も前からモンスターは存在していたよ!個体によっては魔法も使えるしニンゲンよりも強靭な肉体をもっているよ、すごいね!
遥か昔はニンゲンと暮らしていたようだけど、戦争で負けたモンスター達は人間界を追いやられて魔法界に逃げ込んで今に至るらしいよ!
Q.どうして私は魔法界にいるの?
A.分からないよ!基本的に魔法界とニンゲン界間は例外を除いて生物は行き来できない筈なんだけど、もしかしたら死体だったから落ちてこれたのかもね。
Q.し、死体ってどういうこと?
A.君はここから西にある古城で1か月前に発見されたんだけど、発見された時点で残念ながら死んでました!胸にぐっさりナイフが刺さっていたよ!
Q.……ど、どうして死んでたはずの私が、今普通に動けているのかなぁ?
A.それがこのフリント様の偉業だとも!崇めよ褒めたたえよ……ごほんげふん。えー詳細は省くけども発見された君の死体に我々が研究している超・超・超すごいエネルギーを注入したのさ!普通のモンスターに注入したらエネルギーの負荷に耐え切れず体が爆発四散する劇薬みたいなシロモノだけど、ニンゲンの体ってこともあってうまく適合したみたいだね!春の陽気のお陰でとても口に出すのも憚られるような状態になっていた君の死体を修復させ、ついでに何故かモンスターへ変質させたよ!特に今のところ異常もなさそうでよかったよかった!
「よくねぇぇぇーーー!!!そんな劇物人の体にぶち込んでんじゃねぇ――――!!」
「だからもう人じゃないってば」
とんでもないマッドな内容に思わずスパァァン!と膝を叩くが、フリントは意に介した様子もなく「話聞いてた?」と口を尖らせている。
そこじゃない、いやそこも滅っっっ茶苦茶大事だしとんでもないことなのだが、ああもう!人の体勝手に弄って「爆発四散しなくてよかったね♪」は余りにもサイコパスすぎるだろ!
倫理観!倫理観ってものが無いのか!?人じゃないから人の倫理観など通用しませんってか!?
フリントの後ろでやり取りを聞いていた茶髪の少年をギロリと睨むと、気まずげに視線を彷徨わせた後「コーヒーでも淹れてくるかぁ~」とそそくさと部屋を出ていった。
モンスター的にもアウトなんじゃないですか!リンリカァン!!!
ぜえはあ、と荒くなった息を整えベッドに座り直した。落ち着け。そもそもこの話が本当かどうかも分からないのだ。
モンスターなんてゲームとか漫画とかでしか見たことない。やはり特殊メイクとか被り物とかなのでは、と目の前の蜘蛛男──改め『フリント博士』をじっくりと観察するが、しかしその背中から生えた多腕は滑らかに動いておりとても作り物には見えなかった。
私が死体で発見されたとか、蘇生の段階でモンスターに変質したとかいう話もあったが……どこも変わった様子もない。むしろ現状体調はすこぶる良好である。自分が死んだなんて話やはりとてもじゃないか「はいそうですか」とは信じられなかった。
もしや壮大なドッキリか何かを仕掛けられているのではないだろうか?そう思ってフリントを疑わしいものを見る目で見つめる。
しばし見つめられている意味が分からない様子で首を傾げていたフリントは、やがて合点がいったように両の手×3をポンと叩くと口を開いた。
「『超エネルギー』による修復の陰で、君の体は殆ど以前と変わらない状態だよ。モンスター……種族としては『アンデッド』にあたるけど、食事や睡眠は今まで通り摂れる。性欲は……まあ、これから要観察だね!」
「観察されてたまるか」
いけない。怒涛の展開とマッドサイエンティストボケのせいで心が荒んでいるのだろうか。口調が乱暴になってしまっている。
気を付けよう、とは思いつつも目の前にマッドサイエンティストがマッドする限り落ち着けない気がする。打つ手なしじゃないですかヤダー。
「けれども……流石の『超エネルギー』でも、致命傷たり得た傷までは完全修復はいかなかったようでね」
げんなりしている私に構わず話を進めるフリントは、おもむろに自分の胸元をトントンと指で差した。
胸元に何かあるのか?と何の気なしに服の胸元をめくった私は、思わす大きく息を飲み言葉を失った。
胸の中心に見慣れない大きな傷跡が刻まれていた。
縦に伸びる傷は、白く変色した状態で塞がっている。
思わず指でなぞる。痛みは無いが、ざらりとしたような感触に咄嗟に指を引っ込めてしまった。
「これは……」
「ダメージが酷かったせいか、心臓だけは修復することはできなかったようだ。機能を停止した心臓の代わりに君の体内に取り込まれた『超エネルギー』が生命維持を担っており、血液の代わりに体内を循環している。すなわち今の君に脈拍はない。血液の循環もないから平均体温も15℃以下だ。ニンゲンだったら間違いなく低体温で死んでいるね」
言われて慌てて胸元に手のひらを当てて脈を測るが、うんともすんとも反応がない。手首、首元と指を当てみるが、同様だった。
そういえばあんな雪の中裸足で走っていたにも関わらず、私の足はなんにも霜焼けていない。
走っている最中は必死だったために「痛くならないなら都合がいい」と深く考えなかったが、それはフリントの言う通り血が通っていない何よりの証拠ではないか。
よくよく考えてみれば異常以外の何物でもない。
ゾッと背筋が凍る。
ついさっきまで自分のものであると信じて疑っていなかったこの体が、全く知らないものに思えて手が震えた。
言葉を失い呆然とする私を興味深そうに観察していた彼は、にこりと胡散臭く笑った。




