『青の都市』アルバストス
ちなみに前話を書き終えた後発覚したのですが、まさかの作者のクレカが不正利用されていました。どんな偶然やねん。
この魔法界において『国』とはニンゲン界でいうそれとは少々異なる認識を持たれている。
ニンゲン界における『国』とは、国民・領土・主権を持つ外交能力を有するコミュニティの事でありその数は数百に及ぶ。
また、国ごと異なる文化を持っており、時には文化や主義主張の相違から国間で争いを起こしたりしている。
しかしモンスターの住まうこの魔法界にとっての『国』とは、そのまま魔法界のことを指す。
国に名前はない。皆生きとし生けるものは魔法界という国の国民であり、治世は絶対的な頂点である『王』と6つの色を冠する大都市を治める『領主』によって行われる。
牧歌的で比較的通年通して気候が穏やかな水の都、大陸南西部に位置する『緑の都市』ウェルデ。
モンスターの信仰対象である聖霊教会が本拠地を構える大陸北西部に位置する『黄の都市』カルベン。
都市の約6割が砂漠の厳しい土地ながら、魔法界一商業が盛んな大陸北部に位置する『赤の都市』ロシェ。
学術都市として名高く、かの有名なリライヴェッジ研究所が存在する大陸南東部に位置する『紫の都市』ヴィオレット
独自の文化を育み、数多くの職人を輩出してきた大陸南部に位置する孤島『灰の都市』グリエル。
観劇やレジャー施設など多数の娯楽施設が立ち並ぶ大陸一の繁華街。大陸北東部に位置する『青の都市』アルバストス。
そして大陸中央、王が住まう王城が鎮座する王都『アルヴ』
王都を含めたこの7つの都市は広大な大陸上に東西南北別れて分布しており、その都市間での移動はとある方法がとられていた。
「うわぁー!転移門だぁ!」
昨日僕が逃げ出した並木道に通じる門とは真逆の、警備員が立つ立派な正門から研究所を出て雪道を歩くこと約10分。
僕たちは時計塔のような背の高い建造物が聳え立つ石畳の広場に到着した。
塔の足元には紫色の光る魔法陣のようなものが描かれている。
ここが『紫の都市』だから紫なのだろうか。凄くキレイだ。非常にファンタジーな光景である。
大はしゃぎで魔法陣を観察し始めた僕をほっこりしたような顔で見守るミモザが首を傾げた。
「ラウちゃん、転移門知っているんですねぇ」
「うんうん!リリ剣……ゲームに出てきたんだ。モンスターや物資の移動は全部この転移門でしているんでしょ?」
この魔法界に飛行機や列車といった長距離移動手段は存在しない。車や船など中距離用のものは未だ現役らしいが、都市間移動などはすべてこの転移門で行われている。
乗るだけで任意の場所に転移できるというとんでも魔法陣で、王都を含めた各都市に設置されている。
聞けば今から15年位前にフリント博士が確立させた技術らしい。やっぱりあのモンスター天才だな。マッドだけど。
この転移門が確立する前は『簡易転移陣』というかなり効果が制限されてた転移魔法陣しかなく、大陸中至る所に設置されたそれを電車の乗り継ぎのように渡り歩かなくてはいけなかったのだとか。
そんでもって間違えて目的地と別の転移陣に乗ってしまった場合、とんでもない場所に放り出されることもある上に、普通に誤作動を起こして滅茶苦茶明後日の場所に飛ばされることもあったらしい。
広大な魔法界を乗り継ぎ乗り継ぎで渡るのは骨が折れるだろうなあ。……便利な時代に生まれてよかったー。
「転移門を発動させるには魔力が必要なんだよね。ゲームでは魔力がないサーシャがいたから使われることはなかったんだけど……」
描写こそあったもののハナから使われることのなかった転移門。まさか自分で使うことになるとは。
時計塔のような転移門をくるくる回りながらいろんな角度で観察する。広場はかなり広く、また憩いの場としての機能もあるようで多数置かれたベンチには様々なモンスターが腰かけていた。
最初はモンスターとすれ違うたびにニンゲンだー!と襲われるんじゃないかとビクビクしていたが、研究所内でもここまでの道すがらも一切不審な目を向けられることはなかった。
認識阻害魔術凄い。これ作ったミモザも凄い。頭が上がりません。
「あんまりはしゃいでると周りの迷惑になるぞ。こっち来い。……っていうかなんで俺まで?」
「もちろん荷物持ってもらうためですぅ。それに博士からラウちゃんのお世話係仰せつかっているんでしょう?離れるわけにはいかないですよねぇ?」
「はいはい……」
羽織ってきたコートのポケットに手を突っ込んで寒い寒いと震えるロイド。
その横に並び立つミモザは対照的に寒さなど感じていない様子だ。ほくほく顔でアルバストスの服屋を携帯端末で調べている。
とりあえず言われた通り大人しくふたりの元に戻った僕は、あまり多くない転移門利用モンスターの列の最後尾に並びながらふと浮かんだ疑問を口にした。
「転移って失敗することってある?例えば下半身だけ取り残されるとか……」
「ないない。仮に発動のための魔力が足りなかったとしても中途半端に発動とかしないように設計されてるし」
「……あれぇ?でも去年ロシェの門でリザードマンが尻尾置いてきちゃった事故有りませんでしたっけぇ?転移門の範囲からはみ出ちゃってたとかでぇ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………こわい」
そっと寄ってきてくれたロイドの頭蓋骨達を抱きかかえながらブルブルと震える。
「いつの間にそいつらと仲良くなってんだ……。ちゃんと範囲の中に体収めてたら大丈夫だよ」
「私が手握っててあげますよぉ。……ああニンゲン産のモンスターのおててすべすべ……えへ、ふへへ……おっとよだれが」
「こわい……」
僕の手を取ってニヤニヤ危ない笑みを浮かべるミモザに、転移門へ対する恐怖とはまた別の種類の恐怖を感じながらも、順番が回ってきてしまったので恐る恐る魔法陣の上に乗った。
時計塔の丁度手を伸ばして届く位置にタブレットくらいの大きさの透明な石板と石が嵌め込まれている。これで行き先を指定するらしい。
「折角ですからラウちゃんが起動してみますかぁ?この石板で目的地を設定して、隣の石に魔力を流すと起動ですぅ。魔力は少しでいいですよぉ」
「お、押忍」
言われた通りタブレット型石板に触れると『どちらに転移しますか?』と石板に文字が浮かび上がった。画面をスライドさせると『赤の都市』『緑の都市』等都市名が次々と出てくる。よく見れば観光名所やおすすめのカフェとかまで書いてある。なんだこの観光案内……。
じっくり目を通したくなるが、あまりモタモタしていても後続のモンスターに迷惑が掛かってしまう。僕は急いで『青の都市』に画面を切り替え、隣の手のひら大の石に触れた。
難なく手のひらから魔力が僅かに流れ、触れている石が青色に輝く。
───眩い紫の光に思わず目を閉じ、そして再び目を開いた時にはすでに景色は雪積る広場から切り替わっていた。
「……ぅ、お?おおおお?!すごい!転移したぁ!」
どちらかと言えば自然豊かな広大な印象だった『紫の都市』から一転、降り立った『青の都市』は多くの建造物が立ち並ぶ街であった。
まず目に入ったのは今立っている転移広場から四方に伸びている大きな街道だ。多くのモンスター達が行き交っており、幅の広い車道にはニンゲン界のものとは少し形状は違うものの、明らかに車だと思われる乗り物が何台も走っている。
街道の両脇にはレンガ造りの建造物が所狭しと立ち並んでいた。古めかしいが、よく見ると一軒一軒優雅な装飾が施されていて非常に美しい。
まるで『私』が暮らしていた世界において、君主制でありながら最古の議会制民主主義を掲げていたとある国の首都のようだ。伝統的で歴史的建造物を多く残す美しいあの街に雰囲気が似ている。
「こら。そんな所で呆けてたら次のやつの邪魔になるぞ」
「あ、ごめん」
「うふふ。ビックリしましたぁ?」
「うん………すごい……」
悪戯成功とばかりに笑うミモザに手を引かれて魔法陣の上から移動する。しかし返事をしたものの、僕はキョロキョロと街を見渡すのを止めることはできなかった。
ゲーム内でアルバストスには何度も見ていたが、やはりモニタ越しで見る世界と実物には埋められない大きな差が存在した。こんなにも美しく活気のある都市だとは思っていなかった。
「これがアルバストス……」
「うわ、相変わらずモンスター混みがすげぇなぁ……」
「基本何でも揃いますからねぇ。それじゃ早速行きましょうかぁ」
頭蓋骨達に背を押され、ほうっと街並みに目を奪われていた僕はようやく我に返った。
慌ててふたりの後をついて行く。
「もうお店決まってるの?」
「はい、アルバストスの服屋さんと言えばまず外せないお店ですよぉ。少しお値段が張りますが、今日の私たちは無敵ですからジャンジャン買いましょぉ」
あくまで無敵なのはミモザだけであってフリント博士の懐は大分傷を負いそうな気がするなぁ。
通りを歩く多種多様なモンスター達をスイスイとすり抜けるミモザの足取りに迷いはない。モンスターにぶつからないよう注意を払いながら、おっかなびっくり歩く僕を振り返ったミモザはにっこりと大輪の花のような笑顔を浮かべた。
「ラウちゃんならきっとご存じだと思いますよぉ。魔法界が誇るトップモデル、ベルリアナがプロデュースするお店ですぅ」




