第5話「結実したもの」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
ふと目が覚めた。
いつ眠りについたのかも思い出せず、風邪をひいた時のように身体が重い。
しかし、視界に映る天井はよく見慣れた自宅のものだ。
いつ家に帰って来たのだろうか。
眠りにつく直前の記憶を思い浮かべてみる。
「えっと、江原の村を出て……辛うじてサヴィノリアには辿り着いたんだけど……。もう飛ぶ気力も尽きた所で、テムみたいな人を見つけて……そうだ! ジュ――」
「シュカ兄、うるさい。ビックリさせないで」
飛び起きようとしたシュカの視界に入って来たのは橙色の翼を持つ少女――ジュナだ。
寝込んでいるはずではなかったのか。
目をこするが、どうやら幻覚ではないらしい。
ジュナをまじまじと見つめると、炎呪の赤い斑点がすっかり無くなっている。
シュカが持ち帰った氷魂草のおかげで完治したのだろうか。
「ああ、良かった……」
ジュナが救われたことが心の底から嬉しい。
気付いた時には、嬉しさのあまり目から涙が溢れ出していた。
それはなかなか止まることを知らない。
「だらしない」
そうは言いつつも、彼女が涙を拭いてくれる。
普段なら気持ち悪いと罵って、こんなことはしてくれないだろうに。
「だって、ジュナが、生きてて……本当によがっだ、がら」
「シュカ兄が助けてくれたんでしょ」
「そう、助けられたんだ……。辛くて苦しくて、僕じゃダメなんじゃないかって、何度も何度も……挫けそうになった。もし旅の途中で色んな人たちに出会えてなかったら、今ここにいなかったと思う」
死ぬ可能性もあった危険な土地に旅立ち、妹を救うことができた。
幾度と不安に苛まれながらも無我夢中で進み続けた。
今は何よりも、妹が生きていることの喜びがシュカの心を支配する。
「でも、約束守ってくれた」
「だって……ジュナはたった一人の、妹だから」
「ん、ありがと」
お礼を言いながらジュナが飛びついてくる。
素直にお礼を言うのが恥ずかしかったのかもしれない。
しっかり抱き着いてくるので彼女の体温が感じられる。その温もりは彼女が生きている何よりの証拠だった。
止まり始めていた涙がまた溢れ出す。
シュカは泣き止むまでのしばらくの間、その小さな身体に抱きしめてもらった。
落ち着きを取り戻した時、そのタイミングを見計らっていたのか、ノックする音が聞こえてきた。
入って来たのはドルナと父のダンシュだ。
「ようやく目が覚めたな。三日も寝ていたんだぞ」
ダンシュは少しやつれたようにも見えるが、朗らかな笑みを浮かべている。
三日も寝ていたことには焦るが、すぐに冷静になって事の顛末を話すことにした。
持ち帰った氷魂草は一株だけだが、氷王との約束で十分な量を受け取れること。
しかし、江原の村までは取りに行かなければいけないこと。
積もる話については後回しにして、要点をまとめて伝えた。
「それは良かった。これで炎呪に苦しむ民もいなくなる。すべてシュカのおかげだ!」
ダンシュが言ったように、すべてが自分のおかげと思うことまではできないが、自分が関われたことがとても嬉しい。
「バカっ! 帰ってくるのが遅いのよ!」
ようやくドルナが口を開いたと思ったら、まさかの暴言が飛んできた。
だが、その厳しい言葉とは裏腹に彼女の目は潤んでいる。
「ドルナ、ごめん……」
「謝るな! シュカが帰って来なかったらどうしようって心配で、心配で……。でも、ジュナちゃんを助けてくれて、また顔を見せてくれて、ありがとう」
彼女に感謝されたのはいつ振りだろうか。
全く思い出せそうにない。
そして、不意に彼女が近付いて来たので、ジュナのように抱き着いてくるのかと思いきや、シュカは頬をつねられていた。
「え、いだいんだげど――」
「うるさい!」
そのままシュカはドルナの気が済むまで解放してもらえなかった。
後で聞いた話では家まで連れて来てくれたのは、やはりテムだったようだ。
いつもシュカを心配して様子を見に来ていたらしい。
旅立ってからも自分のことを心配し続けてくれた親友に心から感謝した。
だが、まだ体力が戻り切っていないシュカはジュナやドルナに支えられて軽く食事を取った後、伝えるべきことを言い切った安堵からか、強い眠気が催して再び眠りにつくのだった。
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