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第4話「限界まで」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「シュカ、おかえりなさい」


 美貂が笑顔で迎えてくれる。

 だが、シュカが立ち上がれずにいると、彼女が慌ててた様子で近寄って来た。


「ただいま。じゃなくて、早くサヴィノリアに戻らないといけないんだ!」

 焦って立ち上がろうとするシュカの努力はむなしく、彼女に止められてしまう。


「待って。今は無理しちゃ、ダメ」


 ジュナがいつ危険な状態になるかわからない以上、焦るのは当然のことだった。

 それに彼女が苦しむ時間を少しでも短くしてあげたいとも思っていたのだ。


 しかし、そもそも美貂の押さえつけに抵抗する力もなく、立ち上がることができなかった。


「嬢ちゃんの言うことは、ちゃんと聞いといたほうが良いぞ」


 村の入口のほうから聞いたことのある声が聞こえてきた。数日しか経ってないはずなのに、妙に懐かしく感じる。

 視線を送った先にいたのは、やはり忠猫だった。


 とはいえ、抵抗しようにも上手く力が入らないので、どうしようもない。


「久し振りだ。どうやら目的のものも見つかったようだな」

「二人とも久し振り。僕だけの力じゃ到底無理だったんだけど……多くの出会いに恵まれてたみたい」


 シュカは二人を見つめて言った。

 もちろんその出会いには二人のことも含まれている。


 今も手首に付けている美貂にもらったブレスレットも、シュカの心を支えてくれた一つである。


「その強運も含めて、お前の力だと思うけどな。ま、無事で良かったよ」


 二人の圧に負けたシュカは、また柔鼬の家に一泊だけさせてもらうことにした。

 そこまでは忠猫が肩を貸してくれたわけだが、自力で立てなくなってしまったのも、休息を決断した理由であった。


 シュカは美貂が作ってくれた料理を食べながら、柔鼬に氷都での出来事を簡潔に伝える。

 馬威たちが来ても困らないように彼らも準備をしておいてくれるようだ。


 せっかくの豪勢な夕飯だったが、早く帰らなければいけないと気持ちが(はや)るせいでほとんど味わえなかった。


 そもそも彼女とゆっくり話をすることもできなかったので、それはまたこの村を訪れた時にしたいと思う。


 夕飯を済ませた後、シュカはできる限り急いで横になった。

 江原の村を出ると、その後は一日中飛び続けることになる。それを考慮すると、夜明け前には発ちたかったのだ。




 シュカは暗闇の中で目を覚ますと、一人で歩けることを確認する。この後は飛ぶだけではあるので、歩けなくても大きな問題は無いだろう。


 また数日後に戻る旨を書き留めた置き手紙だけを残し、シュカは静かに柔鼬の家を出る。


「シュカ、行っちゃうの?」


 いざ飛び上がろうとした時、背後から美貂の声が聞こえてきた。

 こっそり出発しようとしていたことが彼女には気付かれていたようだ。


 シュカが振り返ろうとする前に、背中に衝撃が走る。

 どうやら美貂が抱き着いてきたらしい。


「また来てくれるの、信じて待ってる。気を付けて帰ってね」

「うん、ありがとう。今度来た時はゆっくりさせてもらうよ」


 美貂に一時の別れを告げたシュカは他の村人たちを起こさないように注意して、静かに飛び上がった。


 一休みしたことで疲労を回復できたつもりになっていたが、やはりそうではなかったらしい。

 少し飛んでいるだけで息が切れてくる。


 さらに悪運も強かったようで、途中から雨も降り出してきた。


 天気があまり良くないことはある程度把握していたが、時間が惜しかったのだ。

 それに雨が降っているからといって、飛べないわけではない。


 しかし、身体の熱を奪い続ける雨の中で長時間飛ぶことは精神的にも応えた。

 悪天候に加え、浮島の高さまで上昇しなければならない帰り道の険しさがシュカを苦しめる。


「はあ、はあ。胸が、苦しい……。もう、止まってしまいそう……でも!」


 次第に意識が朦朧(もうろう)としてくるが、それでも空を飛び続ける。


 来る時は一日も掛からなかった道のりが異様に長く感じる。

 このままではまずいとは思いながらも、ただひたすら翼を動かし続けるしかなかった。


 それから、強い上昇気流を見つけることができたのは、雨に打たれ続けて翼も身体もボロボロになった後だった。


 翼はくすみ、自慢の白色は見る影もない。

 それだけ必死になって飛んでいたのだ。


 悪天候は未だに続き、分厚い雲に隠れているサヴィノリアもなかなか見えてこない。

 本当に正しい方角に向かっているのかも疑わしかった。


 その後も時間を忘れて飛び続け、ついに視界を支配していたどす黒い雲海を抜ける。

 すると、シュカの視界に光り輝くシャヘルの姿が飛び込んできた。


「うう、眩しい……。でも、温かい」


 目を覆いたくなるほどの明るさだった。

 シュカを苦しめ続けた雨も今は止んでいる。


 そして、目指していた浮島の姿がそこにはあった。

 飛んでいた方角は間違っていなかったのだ。


 すぐそこまで近付いている故郷の存在がシュカを安心させる。


「やっと、帰って来た……」


 最後はもう自分の意志で翼を動かしているのか、それすらもわからなかった。


 ついにサヴィノリアの地に着地する。

 ここはいつも特訓をしていたあの草原地帯だ。


 足取りが覚束ないのは、悪天候で飛び続けた疲労もあるが、満足に休まず出発してしまったからだろう。

 何度も倒れそうになりながらも、必ず家に戻るんだというその意志だけで一歩、また一歩と足を運んでいく。


 すると、誰かがシュカの前に姿を見せる。

 その顔を確認することさえ、今は難しい。


 体力も限界のシュカにわかったのは、彼の翼が緑色ということだけだ。

 しかし、シュカはもう意識を保っていることができなかった。

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