第2話「見送り」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
冷備の堂々たる姿は、まさに王と呼ぶに相応しい偉容だった。
一瞬見惚れてしまうシュカだったが、気後れしないように自らも姿勢を正す。
「……とても有り難い申し出ですが、僕個人に限定せず、碧空の民が困った際に手を貸していただく、ということにしていただけませんか?」
自分だけが手を貸してもらえるなんて、なんだかズルをしている気分だった。
国を救ったシュカを誰も咎めはしないだろうが、自身がそれを許せない。
それに、人知れず誰かの役に立っているほうがシュカの性に合っている気がしたのだ。
「ほう……」
冷備が一瞬怪訝な顔をする。
その冷備の些細な変化を感じ取った周りの兵士たちもすぐに身構えた。
「ふっ、ははははは。やはり面白い男だ。もちろん、その条件で構わない。碧空の民が困った時はシャンに住まう皙氷と琥獣の民が全面的に協力しよう」
身構えていた兵士たちは冷備の笑い声を聞いてすぐに警戒を緩める。
自分でもかなり失礼な提案をしたという自覚はあった。
王の人となりを知っていなければ、それは絶対にできなかっただろう。
「お心遣い、誠にありがとうございます」
シュカは最大限の感謝を込めて頭を下げるのだった。
「うむ。黎火の民二人も用があるのだったか?」
冷備がホムタに視線を移して問う。
「ああ、そうだった。だけどさ、先にシュカを帰らせても良いよな? こいつ一刻も早く国に帰りてえだろうし」
ホムタはシュカがそわそわしているのを感じ取っていたのだろうか。
ヤヒコが小声でホムタを注意するが、完全に知らん振りをしている。
「え、でも……」
「構わん。そなたたちの話は後ほど聞こう」
冷備もホムタの提案を受け入れてくれるようだ。
ホムタたちが何を氷王に願うのか知りたい気持ちもあったのだが、それよりもサヴィノリアに早く戻らなければと焦る気持ちのほうが強かった。
彼らには感謝してもし切れない。
「助かる」
ヤヒコの努力はむなしく、最後までホムタの口調が変わることは無かった。
冷備との謁見を終えた三人はまたあの長い回廊を歩き、氷都の門前までやって来た。
つまり、それは二人との別れを意味している。
彼らは氷都に残ってこれからやるべきことがあるのだ。
「シュカとは、これでサヨナラだな」
ホムタは少し寂しがってくれているように見える。
「そうだね。……でも、僕はホムタとまたどこかで会える、そんな気がするんだ。その時は、またホムタと一緒に旅がしたいな」
根拠はないが、シュカの勘がそう告げている。
ホムタとの出会いに言葉では言い表せない縁のようなものを感じていたのだ。
出会い頭は喧嘩になってしまったことも、運命か何かに導かれていたのかもしれない。
「そっか。シュカの国が落ち着いたらで良いからさ、ジストゥスに遊びに来いよ。温泉もあってあったけえし、結構良いとこだから、俺様が案内してやるぜ」
ホムタもまた、シュカと同じように再会を望んでくれているようだ。
そのためには、まずやり遂げなければいけないことがあるのだが。
「うん、それは楽しみだね。もし……僕なんかの力でも必要そうなら手紙でも送ってよ」
「僕なんかじゃねえだろ。シュカは絶対に強くなる。だからこれは俺からの餞別だ」
そう言って、ホムタが短剣を差し出してきた。
「戦いを止める時、シュカの剣は折れちゃっただろ。元々あの剣はシュカに合ってなかったんだ。だが、この剣なら間違いなく耐えられる」
シュカはずっと大事なことを忘れている気がしていた。
そういえば、冷備と馬威の二人を止めるため、碧空の護り手の力を使ったのは良かったが、その規格外の力にダンシュの剣が耐え切れなかったのだ。
ダンシュにどう伝えれば良いか、今から憂鬱でしかない。
「ああぁぁああぁぁ! ミコっ!! それはひ――」
「うるせえ! ヤヒコは黙ってろっ!」
ホムタは無理矢理ヤヒコを押さえ込んだまま振り返って続ける。
「まあ、一応大事な物ではあるからさ、国を救った後にのんびり返しに来てくれよ」
その短剣には控えめとは言い難い装飾が施され、手に取っただけで安物ではないことがわかってしまう。
ホムタと出会ってから本当に助けられてばかりだ。
次に会えた時には、恩返しをしたいと思っている。
「ホムタ、本当にありがとう。必ず返しに行くから」
シュカとホムタはどちらからともなく、自然にお互いの手を差し出した。
二人は別れではなく、再会を誓うための握手を交わす。
「じゃ、またな。シュカ」
「うん。ホムタもヤヒコさんも、お元気で」
そして、シュカは氷都の上空へと飛び立った。
今思えば、上空から氷都を見るのは初めてだ。
透明度の高い大氷河に覆われていた街。
だが、この寒冷化が収まれば氷河も次第に融けるのだとか。
大氷河が作り出す氷都の絶景は、もう見ることができないかもしれない。
氷都の街並みをその目にしっかりと焼き付けた後、まずは帰路の目印となる南天を目指すのだった。
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