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第1話「謁見」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 戦いが終わった後、琥獣の民たちは氷都前に残っていた仮住まいで一泊することになった。

 しかし、まだ氷都に入ることができない彼らの食糧と資材を確保するため、シュカ、ホムタ、ヤヒコの三人が街の中をひたすら走り回るのだった。


 シャヘルの去り時、必要なものをすべて調達した三人は琥獣の民と共に一夜を過ごすことにした。

 氷都に来るまで険しい顔を見せるだけだった彼らが、晴れやかな笑顔で迎え入れてくれたことが何よりも喜ばしい。


 シュカとホムタはお腹いっぱいにご飯を食べた子供たちが遊び疲れて眠るまで、振り回された。

 終始付き合わされていたホムタはさぞ疲れたことだろう。


 ゆっくり滞在できる時に、またこの国を訪れたいと思ったのがシュカの素直な気持ちだ。

 その頃にはきっとこの国も良くなっているのではないだろうか。

 和解した冷備と馬威なら心配はいらないだろう。


 だが、琥獣の民との忘れることのない夜は、あっという間に明けてしまった。


 翌朝、氷魂草を取りに行くためにもスぺラグに戻るという琥獣の民を見送った後、三人は氷王宮を訪れた。


 先日門前でやり取りをした番兵にも王から情報が伝わっていたようで、やや懐疑的な視線を向けられながらも、無事王宮内に入ることができた。


 三人は王宮内を案内してくれるという兵士の後に続いて回廊を進む。

 やはり謁見の間までの道のりは長く、ただ黙って案内されているだけだと、特にホムタが退屈そうにしている。


 シュカにとっては、潜入した際に暗くてよく見えなかった氷の彫像や壁に掛けられた絵画がどれも新鮮なものばかりで、目移りするのが抑えられなかった。


 その中で何度も見かけたテストドのような氷像が気になった。

 潜入した際にも同じ物が幾つもあるように思っていたのは見間違いではなかったようだ。


 ただし、シュカの知っているテストドと違い、それは山のような何かを背負っている。

 兵士に尋ねると、ようやく口を開いてくれた。


「それは靈龜(れいき)と呼ばれる霊獣。国やこの世界が危機に瀕した時、その姿を現して民を守護すると言い伝えられています」


 他には麒麟(きりん)鳳凰(ほうおう)應龍(おうりゅう)と呼ばれる霊獣がいるという。

 この土地では遥か昔に靈龜が国を災害から救ったと言われ、あらゆる所に像が置かれているのだと説明してくれた。


 その後もしばらく歩き続け、そろそろホムタの苛立ちが限界に達しようという頃、ちょうど目的の場所に辿り着いた。


 あの時は冷備と雪駿、黎雄の三人のみで閑散とした部屋だったが、今は無言の兵士たちがずらりと並んでいて、思わず気後れしてしまう。


 ところが、ホムタがそれを気にする素振りもなく入って行くので、シュカも続いて足を踏み入れることにした。


 三人が玉座の前までやって来ると、冷備が口を開く。


「よく来たな。と言っても昨日も会ったが。……改めて、この国の窮地を救ってくれたこと、感謝している」


 そう告げてから、冷備が両手を合わせて頭を下げる。

 すると、続いて兵士たちが一斉に膝をつき、首を垂れた。


「いえ、そんな……。この国のため、お役に立つことができて光栄です」


 シュカの言葉を聞いて、一足先に冷備が頭を上げる。


「うむ、そんなに畏まるな。シュカはこの国を救った英雄なのだから」

「はい。善処します……」


 正直に言えば、氷王に畏まっているというよりも慣れない場に緊張しているだけだった。


「まあ良い。早速本題に入ろう。あれを持って来い」


 冷備が側近の兵士に指示を出すと、その兵士が懐から小さな陶器を取り出して口に当てる。


 何が起こるのかと気になっていたら、心地よい綺麗な音色が室内にこだました。

 どうやら小型の笛だったようだ。


 すると、謁見の間の奥にある部屋から盆を持った従者が現れる。

 その盆に載せられているものが氷魂草だろう。ほのかに青白い光を放っている。


 そして、氷魂草を運ぶ従者が徐々に近付いて来て、シュカの前で立ち止まった。


「これが氷魂草と呼ばれる薬草だ。追加分は馬威たちが手に入れて、ひと月も経たぬうちに届けられるだろう」


 シュカは目の前にある氷魂草を手に取った。


「これが……氷魂草……」


 まるで氷のように透明で茎や葉のすべてが見通せてしまう。しかし、その見た目のように冷たいということはなかった。


「それにしても、碧空の民と直接連絡できないのは困ったものだな。何か当てはあるか?」


「……良い案かはわかりませんが、シャンの南端にある江原の村を集いの地にするのはいかがでしょうか? 僕が初めて立ち寄った村ですし、帰りに言伝もできます。おそらく、サヴィノリアからも目印にしやすいかと」


 シュカは自分の都合だけを考えれば、それが最適だと思ったのだ。

 氷魂草を届ける琥獣の民にとっては負担かもしれないが。


「なるほど。確かに南の海沿いには琥獣の民が暮らす村があったな。それなら馬威たちが訪れても問題は無いだろう。では、江原の村に氷魂草を届けさせる。氷王冷備の名に懸けて……」


 琥獣の民と皙氷の民の確執が今すぐに無くなるわけではないことにシュカはハッとする。

 なおさら江原の村が最適地に思えてきた。


 すると、冷備が改めてシュカに向き直って宣言する。


「我らの国を救いし英雄シュカよ。今後そなたに煩慮(はんりょ)があれば、シャンに住まう皙氷と琥獣の民が全面協力することを約束しよう」

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