第9話「親友」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
シュカはゲオルキアへ向かう準備を済ませ、いよいよ出発を明朝に控えていた。
多くの荷物を持てるわけではないため、旅先で役立ちそうな物だけを荷袋に詰めることにした。
念のためもう一度中身を確認しておこうかシュカが迷っていると、ドルナとテムの二人が一緒に家を訪れてきた。
あのドルナがテムと一緒に来たことは信じられないが、ジュナが倒れてしまったショックをまだ引き摺っていると考えれば、そうおかしなことでもないのかもしれない。
「少し話をしたいんだが、今時間空いてるか?」
声を掛けてきたテムは、非常に気まずそうな表情をしている。
一方のドルナは、無表情で沈黙を貫いていた。
ここに来るまでずっとこの調子だったのかもしれない。
テムの気持ちはなんとなく理解できたが、彼女が今何を考え、何をするためにやって来たのか、そこまではシュカにもわからなかった。
「俺がシュカに会いに行くって言ったら、返事もしないでずっと黙ってんだよ」
テムがドルナには聞こえないようにシュカの耳元で囁いた。
「何を聞いても、このとおりだんまりだ。埒が明かないし、このまま連れて来ちまった」
「うん、ありがとう。ずっと黙ってることはないと思うけど……」
三人はそのまま街外れの草原地帯に向かった。
市街地を抜けるまで、ドルナは一切口を開かなかった。
何か聞こうと話しかけてみても、こちらを見るだけで、また俯いてしまうのだ。
シュカとテムはお互いに困った顔を見せ合うものの、ドルナから喋ってくれるのを待つことしかできない。
彼女が何か言いたいことを秘めているのは、二人もわかっている。
シュカの予想ではジュナに関することなのだろうが、肝心のドルナが何も言わない時間がただただ過ぎていく。
それからどれくらいの時間が経ったのか。
いつの間にか、テムとの特訓場所に辿り着いていた。
「……あのね」
そこでようやくドルナが沈黙を破った。
顔を上げた彼女の顔には、今も苦悶の表情が浮かんでいる。
シュカとテムにできるのは、続きの言葉を待つことだけだった。
そしてようやく気持ちがまとまったのか、彼女は続きの言葉を紡ぎ始めた。
「私も、シュカと一緒に、ゲオルキアへ行こうと思うの」
「「……は?」」
シュカとテムは自然と声が揃ってしまうほど素っ頓狂な声を上げた。
彼女の思考回路はいつも理解不能で、どうして一緒にゲオルキアに行くという決断をしたのか、全く理解が及ばない。
「と、突然どうしたの? 一緒に来てくれるのはありがたいけど、ゲオルキアはとても危険な場所なんだ。僕だけじゃなくて、ドルナだって死んでしまうかもしれないんだよ」
驚愕の提案に困惑させられたシュカではあったが、彼女に死ぬかもしれないという現実を突きつければ、きっと諦めてくれるだろうと思ったのだ。
しかしその思惑とは裏腹に、ドルナは一歩も引かず、食って掛かってきた。
「死ぬ? それが何よ! これは私なりに考えて出した結論なの! ジュナちゃんのために、私ができることは何だろうって。シュカが困った時、私なら傍で支えてあげられるって思った。それはあなたのことをよく知っている私にしかできない。そうは思わない?」
彼女が冗談を言っているわけではないことは、その真剣な目を見ればわかった。
そうは言っても、命の危機がある場所に彼女を連れて行くことなどできるわけがない。
長年テムと特訓していたシュカならまだしも、ドルナが未知の大陸であるゲオルキアの環境に適応できるという保証はない。
「ゲオルキアに行っても、傍でドルナが支えてくれたら、すごく助かるとは思ってるよ。でもね、今の僕は自分の身すら守れるかわからないんだ。そんな状態でキミを死地に連れて行く道を、僕は選べない……。ジュナだけじゃなくて、君のことも大切なんだ」
ドルナもここまで否定されるとは思っていなかったのだろう。
驚いたような表情を見せた後に俯いてしまった。
「シュカはもう一人で行く覚悟を決めたんだ。お前もわかってやれよ」
テムがフォローしてくれる。
二対一なら、なんとか説得できるだろうか。
「……私は、シュカの覚悟を全然理解してなかったみたいね」
俯いていたままだった彼女がついに顔を上げると、苦悩は一切消え去り、微笑みがそこにはある。
その笑顔はとても美しくて、可憐だった。
「わかったわ。今回だけはシュカに任せて、私はジュナちゃんの傍にいてあげる。叔母さんも大変になるだろうしね」
「ありがとう」
よかった。
ドルナも理解してくれたようだ。
命に関わることだとわかっているからこそ、シュカが一人で行くことに不安を感じていたのかもしれない。
決死の覚悟には驚かされてしまったが、諦めてくれたことにひと安心した。
「な、俺たちはシュカのこと信じて、待ってようぜ」
ここにきて彼女の気持ちが変わることがないようにとでも思ったのか、テムがさらに援護してくれる。
「はああ!? そんなことわかっているわよ。馬鹿にしないでっ!」
しかし、怒鳴りつけるようなドルナの言葉が辺りに響き渡った。
驚かせてしまったらしく、木々に止まっていた小鳥たちが一斉に飛び立った。
テムの援護はシュカにとっても嬉しかったが、タイミングを間違えてしまったのだろう。
余計なとばっちりがテムに降りかかるのだった。
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