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第9話「二人の世界」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 馬威と冷備は(にら)み合ったまま、しばらく動かない。

 その表情だけが険しくなり、張り詰めた空気が漂い続ける。


 二人の間では相手がどういう初手で来るのか、次に何をしてくるのか、読み合いの戦いが既に始まっているのだろうか。


 強張っていた肩の力が抜けたと思った次の瞬間、馬威がその場から姿を消す。

 時を同じくして、冷備の姿も見えなくなった。


 二人は目で追うのもやっとの早さで、戦場を動き回っているようだ。


「ようやく、お前に会えた」


 馬威は挨拶代わりに一撃をお見舞いしようとして、拳を突き出す。


「俺も会いたかったぞ」


 だが、冷備も瞬時に生成した氷の盾で受け止める。


「ずっと両想いだったんだな。でも、お前には聞きたいことがあった。なぜあの時、俺を裏切った。お前はどうして、俺たち琥獣の民を苦しめるんだ!」


 馬威の拳には憎しみが込められている。

 それは二十年前に父を犯人だと決定付けたのが冷備の供述によるものだったこと、冷備が王になって以来、琥獣の民が苦しみ続けたことに対する憎しみだろうか。


「最初に裏切ったのはお前のほうだろうが。誰にも教えるなと言った抜け道をお前こそどうして――」


 馬威は冷備に止められた拳をさらに押し込む。

 しかし、冷備も押し切られまいと力を込めて耐える。


「俺は誰にも話してない! このまま話していても埒が明かない。俺たちなら……言葉より拳で語り合うべきだ」


 そう言った馬威は、一度態勢を立て直すために距離を取った。


「初めからそのつもりだ。つまり、勝ったほうが正しいってことで良いよな?」


 冷備は生み出した氷を巧みに使い分けて、攻守を切り換える。

 生み出された氷剣は並みの鉄剣よりもはるかに切れ味が良く、掠っただけで馬威の強靭な肉体にも傷を負わせるほどだ。


「それが俺たちのルールだ!」


 その氷術の脅威を知っている馬威のほうも、攻撃を受けないように立ち回る。


 冷備の戦い方はまさに奇想天外と言うべきか、己の氷術をあらゆる場所に生成して、巧みに戦場を駆け巡るものだった。


「……やはり、一筋縄ではいかないな」


 すぐに決着が付かないことに焦っているのか、馬威が地面を蹴り上げて冷備に急接近する。


 シュカの目線では、冷備も馬威の素早い動きに苦戦を強いられているように見えた。

 瞬時に発動できる氷術を組み合わせて、その動きを阻害しようとするが、力も兼ね備える馬威には容易く防がれてしまうのだ。


 馬威に致命傷を与えられるような一撃をお見舞いするには大きな隙を晒す可能性があり、それができる機会は全く無い。


 馬威の実力ならその隙を見逃さず、黎雄の時のように一瞬で勝負がついてしまう可能性がある。


「お前こそ、強くなり過ぎだ」


 冷備がそう言いながら馬威に迫り、また二人が激しくぶつかり合う。


 繰り広げられるレベルの違う戦いに、シュカは絶望的な力の差を感じた。


 とはいえ、周りにいる誰もが同様に感じていることだろう。

 二人の戦いに入ることはできず、皆が静かに行く末を見守っている。


 その戦いはとても勉強になることばかりだが、冷備が使う奇怪な術も、馬威が繰り出す豪快な技も、すべてどうでも良かった。

 悲劇を起こさずにこの戦いを終わらせることができないか、それだけが気掛かりなのだ。


 このままでは最悪どちらかが命を落とすまで止まらない。

 その結果はホムタが言っていた通り、怨嗟(えんさ)が巡るだけだろう。


「……やっぱり、あの二人を止めなきゃ!」


 やはり、親友だった二人が戦うのをただ見ているだけではいられない。

 シュカが飛び出してしまいそうになった時、その腕を掴む手があった。


 翼を広げたシュカを引き留めたのは――ホムタだった。


「力の無いお前がどうやってあいつらを止めるって? 仮にもし止められたとして、その後はどうするつもりだ」


 無策のまま突っ込むことをホムタは許してくれない。


「そうだよ、僕には力が無い! でも、それでも……! もう人が死ぬのは見たくないんだ。とにかく戦いを止めさせて、話し合いで解決させるしか、ないじゃないかっ!」


 勢いでそうは言ってしまったものの、シュカに具体的な解決策はない。

 力も策も無いからと、何もしないで見ていることなどできなかった。


 飢餓で亡くなった琥獣の民の子供。

 馬威を守って散った羊昭。

 無残に殺された皙氷の兵士たち。


 人が死ぬことの悲しみとそこから生まれる憎しみや怒り、この大陸に来ていなければ知ることがなかった多くの感情にシュカは出会った。


 短い間に多くの死に直面したシュカは、このまま人が死ぬのを見ていたら、自分が自分ではなくなりそうな気がしていたのだ。

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