第7話「将軍」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
翌朝、すべての食糧を食べ切った後、氷都を視界に捉えられる辺りまでやって来た。
もちろん、そこでも皙氷の兵士たちが立ち塞がることに変わりはない。
しかし、いつもとは異なり、ひと際体格が大きく鎧を纏った男が待ち構えていた。
その大男には見覚えがある。
ホムタと一緒に氷王宮に忍び込んだ際、王の傍にいた将軍――黎雄だ。
後ろに控える兵士たちに手出し無用と指示を出した黎雄が、たった一人で堂々と歩み出て来た。
不意打ちをされても決して文句は言えないが、卑怯な手を使おうとする琥獣の戦士は誰一人としていない。
「がっはっは、雑魚どもではお前らの相手にならないだろう。そこで、氷将軍黎雄が直々に出て来てやったぞ。お前らの中で一番強い奴が前に出ろ。もしも我に勝てたなら、ここは引くと約束しよう」
誰がどう見ても、黎雄が口だけの男には見えない。
自分の実力に絶対の自信を持っているようで、少なくともシュカは戦うことなく実力の差を痛感させられた。
「うーん……あいつ、一応強そうには見えるんだよなあ。ただ、どう見たって頭悪そうだし、裏でコソコソする奴じゃなさそうだ」
「密かに調べていた情報では、将軍は間違いなく白ですね。怪しさの欠片もありません。軍のトップを務める男ですから、相当な強敵ではありましょう」
シュカから見ても、黎雄が陰で悪事を企むような人物には思えない。
正々堂々を体現しているような男で、今も琥獣の戦士が出てくるのを律儀に待っている。
将軍と言っても形だけで、実際に軍の指揮を執っているのは別の人物なのだろうか。
皙氷の兵士たちが取り続けた策のことを考えると、今回はやり方が明らかに違っていた。
「なんだよ、こんな奴が将軍だって? お前なんか俺で十分だ」
大槌を持ち、一角が特徴的な戦士が名乗りを上げた。
そして、待ち構えている黎雄に近付いていくと、数多もの氷術を砕いてきたその大槌を振りかぶる。
「『我が鎧は、金剛よりも硬く』」
黎雄が言葉を紡いだ瞬間、その立派な鎧が氷を纏った。
そして、大槌の一撃が黎雄にぶつかり、生まれた衝撃波が周りに振動する。
その衝撃に反して、剛撃を受け止めた黎雄の氷鎧からは僅かな氷の破片が飛び散るだけだった。
氷術で纏った氷が鎧の強度を増しているのだろう。
「ぬるいなっ!」
受け止めた大槌を弾き返した黎雄はその場で面喰らっていた一角男を殴りつける。
その巨体は宙に浮き、いとも容易く吹き飛ばされてしまった。
他の戦士たちは思わぬ強敵の出現に黙り込む。
その中で、ただ一人動じることの無かった男が後ろから歩み出た。
「俺がこの中で一番強い。茶番は終いだ」
その男は武器を持たない戦士、馬威。
琥獣の民で最強の男が黎雄の前に並び立った。
二人が並ぶその姿は圧巻で、これからその二つの巨体がぶつかり合おうとしている。
「へへっ、お前が噂の馬威か。殺された兵士たちの恨み、ここで晴らしてくれよう」
いつでも好きなように攻めて来いと言うように、黎雄は馬威を挑発する。
「すまない。俺はあいつと戦うまで、負けられないんだ」
そこで馬威は頭を下げた。
詳細までシュカには聞き取れなかったが、何かの意志表示をしたのだろうか。
そして、頭を上げた馬威が一歩ずつ黎雄に近付いていく。
「あ? 今なんて――」
「『瞬く蹄拳』」
その言葉を聞き返そうとしていた黎雄の目が大きく開き、目の前の馬威を捉えた。
しかし、黎雄はなかなか動き出さない。
「み、見事、だっ……」
よく見ると、黎雄の腹部には馬威の拳が突き刺さっている。
彼は自分の負けをその一瞬で悟ったのかもしれない。既に意識はなく、その巨体が前のめりに倒れ始めた。
二人の決着がつくまでほんの一瞬の出来事だった。
馬威の傍らに黎雄が倒れ込むと、勝者を称えるように白雪が舞う。
黎雄が倒れる寸前、僅かに見えた腹部の辺りが拳の形に歪んでいた。
それだけの衝撃が加えられた一撃ということだ。
「将軍は気を失っているだけだ。代わりに王を呼べ!」
将軍がこんなにも簡単に負けてしまうと、兵士たちは全く想像していなかったのだろう。
呆けたままの彼らの前に、馬威が黎雄の巨体を投げ込む。
慌てて将軍を回収した兵士たちはその巨体を担ぐことに四苦八苦しながらも、早々に引き上げていく。
シュカは最後まで撤退する兵士を見届けている馬威のもとへと向かった。
「氷王と……かつての友と、戦うつもりなんですね……」
「俺たちはもう止まれない。あいつとは戦う巡り合わせなんだ。だが、負けるつもりは無い。長きにわたる因縁は俺が断ち切る。この手で必ず。たとえ、俺一人だけになったとしても――」
「一人なんて言わないで下さい。あなたには子供たちがいます。仲間もいます。あまり力にはなれませんが、僕たちだって……。だからこそ、みんなで未来を掴み取らなきゃ!」
「……そうだな」
決意したような馬威の表情は変わることなく、氷王宮をジッと見つめていた。
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