第6話「足踏み」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
そして、琥獣の戦士たちは再び氷都への歩みを再開した。
だが、彼らの不幸は羊昭の死だけに終わらない。
一人の子供が空腹に耐え切れず、倒れてしまったのだ。
ついに食糧不足が命に関わるものになってきた。
琥獣の戦士たちは皙氷の兵士との戦いだけではなく、時間との戦いも迫られているのだ。
また一人の仲間を失った彼らは子供のために穴を掘る。
後で必ずここに戻り、きちんと弔うことを皆で固く誓った。
強い思い入れがあるわけではないが、シュカも同じ気持ちだった。
子供が悲劇に巻き込まれて良いわけがない。
後から聞いた話では、命を落とした少年は責任感が強く、仲間想いだったという。
実は自分の僅かな食糧を自分より小さな周りの子供たちに分けていたのだ。
少年の亡骸には仲が良かった子供たちが集まっている。
悲しみに涙を流していたり、自分も戦うと言っていたり、それを見ているだけで胸が締め付けられて苦しかった。
「本来ならもう氷都に着いているはずだった……。皆、すまない」
馬威が苛立ちを隠し切れず、地面に拳を打ち付けている。
その衝撃によって舞い上がった雪は、虚しくも新たな雪と共にまた降り積もるだけだった。
いくら体力に自信のある琥獣の民と言えども、限界が近くなるほど戦いが続いているということだ。
シュカたちもなんとか空腹に耐えて同行しているが、いつ倒れてしまってもおかしくない状況ではあった。
危機的状況にある彼らが出したのは、残された食糧を食べ切ってでも今倒れるわけにはいかないという結論だった。
明日の食糧はその道中になんとかするしかない。
そのためには戦闘に関わらない者たちの努力が重要になるだろう。
「……どうしても、途中で諦めるという選択肢はありませんか?」
暗い雰囲気が漂う夕食中、現状を変えられるわけではないが、シュカは戦いだけでもやめられないものか、馬威に相談した。
「同行してもらっている恩人たちには申し訳ないが、ここで諦めたらこの後我らはどうなる? このまま死ねと言うのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
否定はするものの、シュカにも戦いをやめた後にどうすれば良いかという具体的な策があるわけではなかった。
「それに命を落とした者たちの犠牲を無かったことにはできない。もうここまで来て後戻りなど、できるものか!」
羊昭の想いも背負っている馬威は、絶対に道半ばで諦めるわけにはいかないと聞く耳を持たない。
馬威が言いたいことも理解しているため、やはり説得は断念するしかないだろう。
ホムタとヤヒコが琥獣の民の集まりから離れて見守っているのを見つけて、シュカも二人のもとに合流した。
「やっぱり、こうなっちまったな……」
ホムタにとっては他人事でしかないはずだが、自国の悲劇に重ねているのか、憤りを感じているようだ。
「もし、答えられたらで良いんだけどさ、ホムタが手を出さないって言った理由、ずっと気になってたんだ……」
「知りたいなら当ててみろよ」
普段よりもホムタの語調が冷たく感じられる。
「それは……」
シュカが出会ってからのホムタを考えれば、戦えるなら戦いたいとは思っているはず。
それでも頑なに戦おうとしない理由。
詳細まではどうしてもわからないが、ある程度の推測はできるかもしれない。
「あくまで僕の予想だよ。黎火の民と皙氷の民では種族も国も違う。そこでホムタが手を出してしまうと、国同士の問題になる可能性があるから、手を出せないのかなって……」
シュカの言葉を聞いたホムタが目を見開く。
「まあ、確かにそれもあるけど、それだけじゃあ四十点ってとこだな。でも、これだけは教えてやる。俺は皙氷の民も琥獣の民も、どちらの力も必要としてるんだ。だから、シュカと同じで戦いをやめてくれないとマジで困る」
「ミコってば、本当に微妙な立場なんですよね」
「お前が言うなよ! そんなこと言って、お前いつも俺のことバカにしてんだろ」
ホムタがヤヒコを睨みつける。
同じようにホムタも感じていることが知れて、少し嬉しくなった。
「まさか、そんなはずは……。わ、私はミコの従者なんですよ。あなたが物心ついた時から片時も離れずにお世話しているじゃないですか!」
自分が疑われていることにショックを受けている様子のヤヒコだが、本当にそう思っているのか、まだホムタをからかうつもりなのか、よくわからない。
「確かに、師でもあるし、友達みたいにも思ってるし、傍にいてくれんのは助かってるけど、いつも一緒じゃねえから。それに俺をバカにしてること、否定できてねえからな!」
「はっ……?! いつものミコらしくないですねえ。どこかで頭をぶつけました?」
ヤヒコがほんの一瞬図星をつかれたような反応をするが、すぐにはぐらかす。
「うるせえ、ぶつけてねえよ」
ヤヒコのペースにされないように睨み続けるホムタだが、いつもの本質を掴ませようとしない飄々とした態度に諦めてため息をついた。
「話がそれちまったな。とにかく、理由があって俺は戦えねえ。敵陣だってそのうちまたなんか仕掛けてくんじゃねえか? 指を咥えて見てるだけなんてやってられねえぜ」
「手を出せないのは仕方の無いこと。ですが、どうやら結末は近いようです。彼らが目的を果たせずに散るのが先か、それとも決着が着くのが先か……どちらでしょうね」
二人も空腹で危機的状況であるにも関わらず、微笑みを忘れないヤヒコという人物が本当に不気味だった。
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