第5話「停滞」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「国同士の戦争なんて起こったら、もっと多くの人が死ぬ。簡単にな。この戦いが長引いても死人は増えてくんだ。時間が掛かった分だけ、こちら側の状況が厳しくなるぞ」
いつの間にか傍にやって来たホムタがシュカを注意するように言った。
「戦いを終わらせるなんて、もう今さらなのかな……」
まだその可能性を信じてはいるものの、見せつけられた現実につい弱気になってしまう。
「敵将の首を取れば終わるさ。あの氷王を討ち取ればな。でもさ、そんなことしてもまた新たな戦いが生まれるだけなんだ」
いつもの軽快な調子に反して、ホムタの顔は悲しげに見えた。
羊昭の死を経験した琥獣の戦士たちの士気は下がるばかりで、上がることはない。
状況が全く変わることなく、ただ悪くなるだけの現状に、不満が溢れ出すのは必然だった。
「おい、馬威さんよお。いったいいつになったら、俺たちの戦いは終わるんだ?」
夜に暖を取っていた最中、ついに我慢が限界に達してしまったのか、ウルス(熊のような獣)に似た見た目の男が立ち上がって馬威に問いかける。
「戦いが終わるのは……あの忌々しい氷都にいる敵を蹴散らした時だ」
依然として座ったままの馬威は氷王宮を静かに指差す。
「でも、ちっとも氷都には近付いてないわ。私は知ってる、まだ中間でしょう?」
氷都と来た道を見比べて、二本の角を持つケルブス(鹿のような獣)に似た見た目の女が言った。
抱かれている子供は周りの大人たちの険しい見幕に今にも泣き出しそうだ。
「兵士も全然減らねえし、無限に湧いてきやがる」
彼らは自分たちの不運を呪い、文句を言うことしかできない。
たとえ連戦連勝しても、敵兵が撤退した結果の勝利でしかなく、他に何も得るものが無いのだ。
せめて食糧を得ることができれば良かったのだが、奇襲に成功した砦以降は安全に食べられる食糧が残されていることは無かった。
スぺラグから持ち込んだ食糧も残り少なく、氷都までの道のりを考えると、足りなくなる可能性が高い。
これも敵の作戦なのだろう。
簡易的に作られた敵の陣営に残っている食糧は毒が仕込まれているものばかり。
まるでこちらの食糧事情を知っているかのようで、あえて氷都までの時間を稼ぎ、こちらを苦しめているかのようにも見える。
「ここで言い争っても無益だ。子供たちだって、ジッと我慢してついて来てくれている。あともう少しだけ、頑張ってくれないか」
族長としての立場と強い言葉を使って、この場を収めることもできるだろうが、馬威はそうしなかった。
ただ静かに頭を下げるだけ。
だが、それができるからこそ、彼が族長なのかもしれない。
「わかってるさ。そうは言ってもなあ、このままじゃあ全員野垂れ死ぬだけだ」
馬威にも返す言葉は無いようで、しばらくの間沈黙が続くのだった。
* * *
氷王宮の謁見の間では、宰相の雪駿が冷備に戦況を報告している所だった。
「前線はまた敗北を喫し、少しずつですが、氷都に後退しております」
「兵士どもは何をやっている?」
冷静には見えつつも、冷備の言葉には苛立ちが感じられる。
「琥獣の民の圧倒的な力の差を見せつけられ、逃亡するものが多数、まともな戦いになりません。先ほどなんとか一矢報いたと報告がありましたが……」
「兵は鍛え直さねばな」
「王よ、さすがに一般兵では荷が重いのは必然。民もいつ氷都が襲われてしまうのかと、日々怯えている。この際、我が出るのはどうだろうか?」
氷王の前に進み出たのは将軍の黎雄。
その自信満々の笑みは、屈強な肉体によって裏付けされているのだろう。
「黎雄か……。任せた」
「はっ! お任せを。力を示して将軍にまでなった我の恐ろしさを愚かな獣どもに思い知らせてやろう」
そう言って立ち去っていく黎雄の背中を冷備は無表情で見つめる。
かつて共に拳をぶつけ合った馬威の実力は生半可なものではない。
それは黎雄であってもおそらく――。
なんとなく今後の未来が想像できてしまった冷備は自然と笑みがこぼれるのだった。
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