第4話「逆襲」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
もう何度目の戦いになるのか、皆が戦いの回数を数えることすらも諦めていた頃、今目の前で繰り広げられている戦いも、いつものように敵が逃亡してすぐに終わるものだと思っていた。
しかし、柄になく取り乱してその姿を現したヤヒコの様子に、シュカは突如不安を掻き立てられる。
「は、早く逃げてください! 琥獣の戦士が集まっている場所が狙われています。ちょうど、馬威殿のいる辺りが……!」
ヤヒコ曰く、狙われているという馬威は目の前の敵兵を蹴散らすことに集中しており、全く周りが見えていないようだ。
ヤヒコの声は馬威に届く前に、喧騒によって掻き消されてしまう。
すると、極大の氷槍が空中に生成され、馬威の胸の辺りを目掛けて、一直線に向かって行った。
「馬威さんっ!!」
急いで飛び上がったシュカは、咄嗟に大声で叫ぶ。
シュカやヤヒコの声が聞こえた他の戦士たちも、口々に馬威の名を叫んだ。
敵の狙いは明らかに馬威だった。
個々の力では絶対に敵わないと知り、集団で構築した霊術によって、一気に大将を落とそうという根端だろうか。
馬威が自身の名を呼ばれていることに気が付いた時、ようやく自分に迫る氷槍の姿を捉えたようだ。
しかし、いくら馬威と言えども、もう避けられない所までそれは近付いていた。
巨大な氷槍が馬威の身体に突き刺さった、と誰もが思ったことだろう。
シュカも思わず目を背けてしまいそうな衝撃的な光景がそこには広がっていた。
氷槍が肉体に突き刺さり、血飛沫が舞う。
この瞬間のことは一生忘れられそうにない。
誰もが終わりを覚悟した馬威の胸には、何も刺さっていなかった。
氷槍が突き刺さろうとする寸前、その身体を突き飛ばした男がいたのだ。
馬威の前に割り込んだのは――羊昭だった。
馬威を失うわけにはいかないという想いが、間一髪で間に合わせてくれたのだろうか。
氷槍は無情にも羊昭の胸を貫いている。
羊昭は力なくその場に倒れた。
その身体から流れ出した大量の赤い血液は、辺りを赤一色に染め上げる。
「おい、羊昭!!」
慌てて立ち上がった馬威が駆け寄り、羊昭の身体を抱き上げるが、その目が辛うじて開いているだけだった。
「馬、威……。まかせ、た……」
最後に力を振り絞ったのだろう。
羊昭は薄れゆく意識の中で馬威に意志を託した。
「シュカ、頼む! 今すぐ止血を!」
明らかに冷静さを欠いている馬威が周りを見回し、シュカを探している。
すぐ傍まで来ていたシュカが念のため羊昭の脈を確かめたが、決定的な事実を確認するだけとなった。
立ち上がり馬威に向き直ると首を横に振る。
「申し訳ありません。僕には、もう何も……」
もう手遅れだった。羊昭が目覚めることはない。
彼は馬威に抱かれたまま、眠りについたのだ。
馬威もそれを悟ってはいたのだろう。
それ以上口を開くことはなかった。
その場で羊昭に縋りつき放心する馬威に、シュカはかける言葉が見つからない。
羊昭を貫いた極大の氷槍は一撃分しか放つことができなかったのか、敵兵は既に撤退したようだった。
この場に取り残された者たちは同胞を失った悲しみと怒りをその胸に秘め、道半ばで命潰えた勇者を弔うことになった。
「俺が、しっかりしていれば……羊昭が死ぬことなんて、無かったんだ!」
馬威は自分への憤りを堪え切れずにいる。強く握り締められた拳からは血が滴り、赤く染まっている。
思い詰めている馬威も心配だったが、それよりも今は羊昭を安らかに眠らせてあげたかった。
「……せめて、土の下に埋めてあげられませんか?」
シュカの言葉に反応した琥獣の民の老人や子供たち、全員で協力して雪を掻き、穴を掘った。
そして、命を落とした羊昭の亡骸を埋葬する。
羊昭が見せてくれた優しそうな笑顔はもう見ることができない。
それは残された羊昭の家族も同じことであり、彼らは馬威が声をかけてもなかなか離れようとしなかった。
「見知った人の死が……こんなにも胸が締め付けられる、なんて……」
シュカは少し離れた所で一時的に作られた羊昭の墓を眺め、沈痛な面持ちで見守っていた。
純粋な悲しみと自分がちっぽけな存在で、大きな力の前では何もできなかったという無力感が心を支配する。
これがもし身内のことだと考えると、尚更悲しかったに違いない。
羊昭への想いと同時に、自分がゲオルキアに来た目的であるジュナのことがよぎる。
もしも彼女を死なせてしまったとしたら――。
そんな悲劇を防げるかどうかはシュカにかかっている。
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