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第2話「圧倒」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「『すべてを粉砕する力を、我に!』」


 振り上げられた重そうな槌が豪快に大地へと叩きつけられる。 


 すると、その周囲にいた皙氷の兵士の集団が丸ごと吹き飛ばされた。


「『延々と突き破る力を、我に!』」


 長槍の一撃は氷の壁を容易に突き破り、その先にいた兵士たちをまとめて串刺しにしてしまった。


「『一帯を斬り捨てる力を、我に!』」


 極大の剣が振るわれると、盾や壁は見事に真っ二つになる。


 そして、その一閃は奥にいた兵士諸共薙ぎ払った。


「人の命が……あんなに、簡単に……」


 命が散っていく様子を見ていたシュカは呆気に取られていた。


 これまでの砦攻めでは相手を殺めていなかった琥獣の戦士たちだが、この戦いではもう手加減をやめていた。


 力を制御しなくなった今、散り行く皙氷の兵士の返り血をふんだんに浴びて、その後ろ姿はまさに怪物と呼ぶのに相応しいだろう。


 幸か不幸か、琥獣の戦士の目の前に立ってしまった兵士は苦しみを味わう暇もなく、一瞬でその命を散らしていった。


「化け物だっ! あれは、人間なんかじゃない!」


 一人の兵士が叫び声を上げた。歴然とした力の差を見せつけられて、皙氷の兵士が恐怖を覚えることはおかしなことではない。むしろ、必然だっただろう。


 小競り合いの時であれば大怪我をする者はいたが、命を奪われる者まではいなかった。


 今日の戦いでも運が悪ければ怪我をするかもしれないとでも思っていたのだろうか。


 しかし、現実はそう甘くなかった。


 皙氷の兵士の血が大量に流れ、白雪の大地が赤く染まっていた。戦士たちの傍には、既に亡骸となって動かなくなった者たちが積み上げられていく。


 ついに、目前に迫る死の恐怖に耐えられなくなった一人の兵士がある選択をした。


「に、逃げ、ろ……。俺は、死にたくないぞ!」


 どこからともなく悲痛の叫び声が聞こえてきた時、兵士たちの考えが切り替わった。


 ここで死ぬよりも、逃げて生き延びるほうが断然良い。


 いや、死なないために一刻も早くこの場から逃げなければいけないのだと。


 同じ選択した兵士の数はみるみるうちに増えていき、皙氷の兵士が勝っていたのは兵士たちの数と逃げ足の速さだけだった。


 次々と逃げ出す兵士で溢れかえる砦の中でも際立って兵士が逃げ出す場所があった。


 逃げ惑う兵士たちの様は、まさに混沌と表現するに相応しい。


 その元凶はというと、馬威だった。

 てっきりここでは戦わないつもりというシュカの予想に反して、彼は素手のままで多くの命を刈り取っていたのだ。


 皙氷の兵士を蹂躙する馬威の姿は他のどんな戦士たちよりも恐ろしかった。


 民をまとめる長であり、琥獣の民一の巨体を誇る馬威は素手でも難なく氷の壁を破壊し、捕まえた兵士の身体を片手で握り潰してしまう。


 さらには重い武器を持っていない分、素早く動き回ることができ、逃走に転じた皙氷の兵士の集団には蟻の群れを蹴散らすかの如く死が(もたら)された。


何人(なんびと)たりとも、逃がしはしない」


 馬威の決意は揺るがず、この場のすべての兵士が動きを止めるまで彼らの怒りが静まることは無さそうだ。


 シュカは琥獣の民が扱う霊術をよく理解していなかったが、戦いを見ている限りではその強大な力を振るうために自身を強化させている可能性に思い至った。


 それは皙氷の兵士のように何かを生成したり、放出したりする戦士が一人もいなかったからだ。


 馬威は巨大な武器を持たず、その霊術によって俊敏な動きを可能にしているように見えた。


 素手で戦うからこそ誰もがその動きを捉えられず、彼を怪物たらしめているのだろう。


 その恵まれた体躯とそれに見合った霊術を使いこなす馬威率いる琥獣の戦士たちは、敵陣に甚大な被害を生じさせたのだ。


 シュカは狂気に染まった戦場を呆然と見ていることしかできなかった。




 ――辺りが静まり返り、悲惨な戦いが終わりを告げた時、琥獣の戦士は一人も欠けることなく砦に集まっていた敵兵を壊滅させた。


 とはいえ、敵兵の半数以上には逃亡を許してしまった。


 初陣にて勝利を収め、砦を占拠した彼らは食糧を手に入れたが、その量は多くなかった。


 逃亡時に持ち去られたのか、明らかに砦の兵士たちに供給するには不足している。


 それでも獣の戦士たちは圧倒的な勝利に酔いしれた。


 多くの戦士が軽傷で済み、溜まっていた鬱憤(うっぷん)を晴らすこともできたのか、その雰囲気は明るい。


 一方で彼らの勝利を喜び切れないシュカだったが、彼らが無事戦いを乗り越えられたことには安堵を覚えたのだった。

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