第8話「覚悟」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
翌日、シュカは父との決闘前にジュナの様子を見に行った。
「シュカ、兄……。わたし、死にたくなぃよ」
今感じている苦しみから死ぬ可能性を感じ取ってしまったのか、明らかに怯えていた。
怖がる妹を救えなくて、何が兄だろうか。
この手で彼女を苦しみから救わなければいけないという気持ちがより強まった。
そのためにはまず、父に決闘で勝つ必要がある。
炎呪の辛さに比べれば、自分の悩みなんてちっぽけなものとさえ思えてきた。
「安心して。今は少しだけ辛いかもしれないけど、ちゃんとよくなるから。僕が帰って来るまで待っててほしいんだ」
「ぜっ、たい……?」
「うん、絶対」
シュカはジュナにも聞こえるように、はっきりと口に出した。
それは自身の覚悟を確かめるためでもあった。
「やくそく、して」
ジュナが親指と人差し指で輪っかを作り、差し出してきた。
シュカも同様に作った輪っかを重ねる。
彼女が特に気に入っている約束を交わす時のおまじないだ。
「約束だ」
約束を交わしたことで安心したのか、ジュナは再び眠りについた。
そしてシュカは家を出ると、いつもテムと特訓している草原地帯に向かった。
そこではすでに父が待っていた。
見届け人としてカーシェとカロムの二人がいた。
「いいんだな? 俺は手加減しないぞ」
「それより、負けた時の言い訳でも考えておいたほうがいいんじゃない?」
「あまり挑発するなよ。まるで自分の実力に自信がないって言ってるようなもんだからな」
「もう……。言い合いはお終いにしないと、二人とも決闘できなくなるよ」
カーシェが不気味な笑顔を浮かべて、二人の間に入った。
思わず、シュカとダンシュはその場からサッと引いた。
カーシェなら本気でやりかねないし、本当に決闘どころではなくなってしまう。
「二人とも怪我には気をつけてね」
そう言ってカロムが心配そうに見守っていた。
「保証はできない」
「僕は大丈夫だと思う」
ギロリと父が睨んできたが、それ以上何か言ってくることはなかった。
あとは決闘で決着をつけるということだろう。
「準備はできたかい?」
「ああ」
「うん」
二人は向かい合い、お互いの剣を構えた。
「始め!」
カーシェの合図をきっかけにして、二人は剣に風を纏わせた。
そして、お互いの剣がぶつかり合う。
「ぐっ……!」
さすがにダンシュの剣は重く、弾けそうな気がしない。
だが、気持ちだけでも負けるわけにはいかなかった。
「やっぱりなまってるんじゃない?」
「いや、まだまだ息子に負けるわけにはいかないだろ!」
とダンシュの手元にさらに力が込められ、シュカの剣が弾かれてしまう。
「なっ!?」
たまらずシュカはダンシュと距離を取った。
(歳を取っていても、父さんは強い! けど、これならテムのほうがもっと強い!)
シュカは再びダンシュに向かって斬りかかった。
剣で受けるダンシュも苦しそうな表情を見せている。
どうやら自分の力が通用していないわけではないらしい。
「なかなかやるが、まだ子どもだな……!」
と言って、ダンシュはシュカの剣を受け流した。
そして、シュカの体が完全に無防備になってしまった。
「まずい……!」
だが、シュカは諦めなかった。
咄嗟に風術を使って、体を捻る。
シュカの体があった場所にダンシュの剣が襲いかかった。
「ジュナを助けるために勝たなきゃ! 僕が、勝たなきゃ……!」
シュカは旋回しながら態勢を立て直して、自分を奮い立たせた。
一撃だけでは受け切られてしまって、きっと勝てないだろう。
今のシュカにできるのは、ダンシュに反撃の隙を与えないほど、攻め続けるしかない。
「今僕が持てる力のありったけを叩き込むんだ!」
「来い、シュカ! お前の全力を俺にぶつけろ!」
「『連なる嵐』」
風の連撃がダンシュに襲いかかる。
しかし、ダンシュは素早い動きですべてさばいてしまった。
そこにシュカが迫る。
あくまで連撃は囮で、直接決着をつけようとしたのだ。
ダンシュもそれに気づいたようで、残る力を剣に纏わせてシュカに向かってくる。
「おおおおおおお!」
「ぅぅううああああああっ‼」
二人が交差する寸前、シュカは一つの風術を放った。
「『騙しの風』」
そして、ダンシュの剣がシュカを貫いた。
ダンシュがシュカと思っていたものは、風となって消えてしまった。
「おいおい、マジかよ……」
振り返ったダンシュは、そこで決闘の勝敗を理解したようだ。
ダンシュの背後にいたのは、首元に剣を突きつけたシュカだった。
「俺の負けだ」
剣を落とし、ダンシュが負けを認める。
二人の想いがぶつかり合った決闘の決着がついた。
シュカは父に勝ったのだ。
これでついにジュナを救う旅に出ることができる。
「強くなったな、シュカ」
決闘前の見幕は見る影もなく、ダンシュは普段と変わらない朗らかな笑みを浮かべていた。
シュカが本気で決闘に臨むことができるように、ダンシュも無理していたのかもしれない。
ゲオルキアに行くということは、それだけの覚悟が必要なことでもあり、それを確かめようとしてくれていたのだろうか。
「やったよ。ついにやったんだ……」
しかし、勝利に安堵したシュカは張り詰めていた糸が切れてしまったかのように、そのまま意識を保っていることができなかった。
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