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第12話「無邪気さ」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「あいつなら話は通じるかもしれないが、親の仇である我らの話を素直に聞いてくれるかというと、話は変わるだろう。それにいつかはケジメは付けなければならない問題だったのだ。……それはともかく、三人はスぺラグに来てしまって良かったのか?」


「はい。戦って黙らせて来いと言われたわけではありませんし。琥獣の民の事情を全く知らない僕には何もできないと思ったのです」


「そうか」


 シュカの言葉を聞いた馬威はどことなく嬉しいような悲しいような、曖昧な表情をしている。


「あの、外の様子を見て来ても?」

「もちろんだ。良ければ、子供たちと遊んでやってくれ」


 馬威との話を済ませると、シュカは琥獣の民の暮らしぶりを見てみたくなり、外に出た。


 ホムタとヤヒコの二人も気分転換をすると言って、後をついて来た。


 馬威一人を残して三人が外へ出ると、遊んでいる子供たちの姿が目に留まる。


 馬威の子供たちは、兄が馬策(マーツァ)、弟が馬権(マーチェン)だと教えてくれた。


 子供にも関わらず、シュカよりも大柄で馬威の血を継いでいることがわかる。


 二人以外にも十人くらいの子供たちがそこにいた。栄養不足であることは明白で、皆痩せている。


 スぺラグに残っていた子らと、南天に脱出できずに戻って来た子らが久し振りの再会を果たして遊んでいるようだった。


 子供たちは今は数が減ってしまったという家畜と(たわむ)れたり、そこら中に吐いて捨てるほど積もっている雪で遊んだり、取っ組み合ったりして、楽しそうにはしゃぎ回っている。


 その光景が微笑ましく、シュカはその様子を遠くから静かに眺めていた。


 皙氷の民が彼らを虐げていなければ、この子供たちがここまで痩せてしまうこともなかったはずだ。


 琥獣の民が真っ先に別の土地へ移住することを選んでいても、食べるものには困っていなかったことだろう。


 心の中でそう思っていたが、今さらどうにかできるわけではない。


 馬威は自分たちの誇りを守るために皙氷の民と戦うことを選ぶと言っていた。


 しかし、客観的に見ると、戦うことで失うものもあるだろう。


 どうにかしてその戦いを止めたいとは思うが、シュカには彼らを説得する術が思い付かなかった。


「なんで、人は争うんだろう……」

「お前、それ本気で言ってんのか?」


 心の中で考えていたことを口走ってしまったようだ。


 ホムタの声が聞こえてから、その鋭い視線に気が付いた。


「ごめん。考えてたこと、そのまま呟いちゃって――」


「そんなこと知ってんだよ。この世界から争いは無くならねえ。人が人である限り、それぞれの思想が違う限り、絶対にな……」


 そう言って目線を逸らしたホムタは、虚空を悲しげに見つめている。


 そんなホムタを気遣ってか、ヤヒコが間に入って来た。


「ごほん、詳しくは私から。人は考えの異なる存在と争う生き物です。おそらく、別の考えを持つ存在が許せないのでしょう。言葉を交わせるのに、許せなくなってしまうというのは興味深いですね。仮にお互いを許容できたなら、争いは無くなるかもしれませんが、双方が歩み寄ろうとしなければ、争いが無くなることは到底あり得ません」


 サヴィノリアにいた頃では争いというのは考えられなかった。


 碧空の民が口論することがないわけではないが、命懸けで戦ってまでその思想をぶつけ合うことはない。


「つまり、どうにか歩み寄ることさえできれば……」


 明確な答えが見つけられたわけではないが、ヤヒコが与えてくれた情報によって、一つの道筋が見えてきたような気がした。


「俺さ、こっち来てから余計なことには首突っ込まねえよう知らん顔するつもりだったんだ。ヤヒコもうるせえし。でもよ、俺ら黎火の民だって争ってんだ。なんなら同じ民同士でだぞ。だから、争ってる奴らを見るとどうしても思い出しちまう。こんなとこで俺は何してんだってな」


 ホムタの表情は沈んだままだ。


「お優しいミコは、どうしても故郷に残してきた者たちのことを考えてしまうのです。私たちがこうしている今も、民同士で殺し合っているかもしれません。彼の地の戦乱は凄惨を極め、(おびただ)しい数の死体が作られていましたから……」


 その話を聞いただけのシュカでも、味方同士で殺し合いをする情景が簡単に想像できた。


 思わず吐き気が込み上げてきそうになる。



「……でも、子供は無邪気でいいよな」


「そうだね。今は苦しくても笑顔でいるあの子供たちみたいに、民の区別なくお互いの存在を認め合えるようになれたら……」


 それにはどちらかが非を認める一歩を踏み出す必要がある。


 しかし、そのきっかけを掴むことが最も難しいのだ。

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