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第11話「懐古」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「そんな、ことって……」


 馬威の父親が捕まったという急展開に、シュカも思考を追い付かせようと努力する。

 なんとか話にはついて行けるが、複雑な感情の整理に四苦八苦した。


「父は皙氷の民を憎むような人ではなかったから、俺も信じられなかった。だが、暗殺に使われた抜け道と凶器が父の所有物という事実が犯人を決定的にしてしまう。それ以外の証拠が一切見つからず、容疑者だった父は皙氷の民の憎悪を一手に引き受ける形で処刑された」


 馬威が抜け道を誰にも口外していないこと、さらには暗殺に使用された凶器でさえ、事件の数日前に盗まれた物であることを主張したが、聞く耳を持たれなかったという。


 他に怪しい人物が一人もいなく、国王夫妻が殺された事件が未解決となるのは国としても避けなければならなかったらしい。


「俺はそれから冷備と話すこともできず、事情聴取から解放された後は羊昭に急かされるまま、氷都を脱出した。処刑される父を氷都に置いてな……」


 そして、冷備が王に即位すると、氷都からすべての琥獣の民が追い出され、以来は現在のように入ることも禁じられたのだという。


「俺が冷備に裏切られたのか、別の誰かにまんまと利用されてしまったのか。どちらにせよ、俺の甘さが招いてしまった悲劇に変わりはない。シャンにおいて、大罪人の種族とされた琥獣の民は差別の対象となった。それがすべてだ」


 馬威の拳には、今もなお力が込められたままだ。


「……僕はここに来るまで、琥獣の民に(さげす)みの視線がぶつけられるのを嫌というほど見てきました。だから、その苦しみが少しだけ理解できます。ただ、氷王は全く話が通じない人物でもないと感じたことも事実で、そこには何か誤解があるような気がしています」


 確証があるわけではないが、今までの経験からシュカが感じたことを言った。

 もしかしたら、そうあって欲しいというシュカの希望なのかもしれない。


「シュカは綺麗な心を持っているのだな。俺も冷備が裏切ったと自信をもって言い切ることはできない。だが、あいつが王として琥獣の民を追い出す決断をしたことは紛れもない真実だ」


「それは、そうですけど……」


 過去も真実も知らないシュカには馬威を否定することができない。

 直感では二人が勘違いをしているに違いないと思っているのだが、それを証明することができないのがもどかしい。


「かつての親友であっても、信じられませんか?」

「もちろんだ」


 はっきりと言い放った馬威は衣嚢(いのう)から光る丸い物を取り出す。

 それは青く透き通り、氷のように綺麗な石だった。


 それが姿を現した瞬間、ヤヒコが何か反応を示したように見えたが、組んでいた足を直していただけでシュカの勘違いだったようだ。


「これは王宮に案内された時、冷備にもらった思い出の宝石(たからいし)だ」


 宝石を握る馬威の手には力が込められ、今にもそれを破壊してしまいそうだった。


「心のどこかで、あいつは絶対に裏切らないという想いが拭えず、ずっと捨てることができなかった。悪人は決して許さず、困っている人を見つければ、王子としての体面も気にしない。人一倍汗をかく冷備に俺は魅了されていたんだ。だから俺はあいつの傍に居続けた。あの時、離れ離れになるまでは……」


 馬威の顔には喜怒哀楽の様々な感情が見え隠れし、それは彼が抱える複雑な心境を表していた。

 しかし、その手に込められた力に反して、宝石がその場で砕けることはなかった。


「本当に毎日が楽しくて、楽しくて、仕方無かった。血は繋がってなくとも、まるで兄弟みたいに思っていた友を信じるべきか、目の前の現実を信じるべきか、俺は数年間悩み続けて結局答えを出せなかった。だが、もう遅いんだ。我らは現状を変えなければ、何もできずに(つい)えるだけ。体力的にも、精神的にも、もう我慢の限界が来てしまった」


 馬威は宝石から目を逸らし、そっと衣嚢の中にしまった。

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