第10話「誇り」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「それならもう一度羊昭さんたちと協力して、今度は全員でこの地を脱出することはできないのですか?」
彼らにこの地以外でも生きて欲しいというのがシュカの願いだった。
馬威たちも含めて脱出すれば、今ならまだ間に合うだろう。
たとえ拒絶されようとも、シュカはその質問をしないわけにはいかなかった。
「それはできない。我々には誇りがあるのだ。先祖代々引き継いできた伝統あるこの生活と土地、琥獣の民であることの誇りを捨てろと言うのか? 誇りを捨てるくらいなら、我らは皙氷の民と戦う道を選ぶ。この地を失わず、かつ皙氷の民と戦わずに済ませる。もしもそんな方法があるというなら、教えて欲しいくらいだ」
馬威は既に戦うことを決断しているように見える。
皙氷の民と戦うことへの意志は固く、簡単に折れることはなさそうだ。
とはいえ、シュカにはまだ見えていないことがある。
なぜ琥獣の民は皙氷の民を襲うのか。
それを知らずに彼らの戦いを肯定することも否定することもできなかった。
「ちょっと待ってください。それがなぜ皙氷の民と戦うことに繋がるのですか?」
「我らが皙氷の民を疑い始めたのは氷都に氷王宮なるものが築かれた時、もしかしてあれが原因なのではないかと噂になったことがあったのだ」
「確かにあのバカデカい王宮には何か秘密がありそうだぞ」
黙り続けていたホムタが久し振りに口を開いた。
「そうだ、あんな物が突然できるわけがない。そしてある日、突然この地を訪れた旅人から、この寒冷化は人為的に引き起こされたものだという噂を聞いた。それが真実かどうかはわからないが、激しい怒りを覚えたことを覚えている。我らを氷都から追い出しただけでなく、静かに暮らしたいという願いも踏みにじろうとするとな。見知らぬ旅人の言葉を鵜呑みにするわけではないが、長く辛い苦しみから抜け出すためにも我らは戦うことを選んだのだ」
その旅人というのは確かに気になる証言ではあった。
それよりも、その怒りが彼らを砦への戦いに向かわせていたということは理解できた。
「その状況では皙氷の民の仕業と考えるのが最も合理的でしょう」
馬威から聞いた情報からはそう考えるしかないと肯定するヤヒコだが、なんだか納得はしていないような曖昧な表情をしている。
まだ何か別の可能性を考えているのだろうか。
それはさておき、シュカが知りたかったもう一つの情報、後回しになったかつての話を聞くことにした。
「……そういえば、琥獣の民が氷都を追い出された理由をお聞きできますか?」
「ああ、すまない。その話もしておくべきだった。氷都を追い出される原因を作ったのは、俺たち――俺と冷備なんだ……」
「え……」
全く想像していなかった衝撃の回答にシュカは、一瞬思考が停止した。
馬威と冷備が原因とはどういうことだろうか。
しかし、そんなことはお構いなしに馬威が話を続ける。
「少なくとも俺は冷備のことを親友だったと思っている。王子と琥獣の民が一緒にいることを白い目で見る奴らもいたが、あいつはそんなこと気にしなかった。だから自然と打ち解けられたんだろう。二人で悪事を働く連中や盗賊どもを懲らしめて回ったことは今も覚えている」
懐かしい思い出を語る馬威の表情からは、優しい雰囲気が漂っている。
「お二人は、親友、だったんですね……」
親友という言葉を聞くと、シュカにとってはテムの顔が思い浮かんだ。
「まあ、今もあいつがどう思っているかは知らんがな。だが、俺たちが近付き過ぎてしまったことは間違いない。冷備は王宮内への抜け道を俺に教えてしまったんだ……」
優しかった馬威の表情が次第に引きつってきた。
「それがきっかけとなり、数日後に重大な事件が起きる。その抜け道が犯行に使われ、当時の国王夫妻が暗殺されてしまったんだ。以降、あいつは若くして国を背負うことになる……。元々二つの民には確執があったことから、暗殺犯はもちろん琥獣の民が疑われ、さらに犯人として捕らえられたのはーー俺の父親だった」
馬威の拳は力強く握られていた。
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