第9話「昔話」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「あいつらしいな。その氷魂草が自生している荒雪山はこの地を越えた最奥にある。なんとか連れて行ってやりたいところだが、今はやるべきことがある。それに荒雪山までの道のりは琥獣の民でさえ道に迷い兼ねない危険な場所。どれだけ腕に自信があろうと三人だけで行くことは考えないほうが良い。我らの願いが成就した時なら、連れて行ってやれるだろうが……」
「はい、僕も氷魂草のことは一旦忘れるしかないと思っています」
ジュナのために一刻も早く氷魂草が欲しいと焦る気持ちは確かにあったが、今はそれと同じくらい鬱屈とした感情を抱えていた。
少し後ろで控えているホムタとヤヒコはというと、黙ったままである。
二人はシュカの意志を尊重してくれるようだ。
それでも、いざという時には必ず力になってくれるだろう。
意を決したシュカは、先ほど馬威が言った言葉に踏み込むことにした。
「先ほど『あいつらしい』と言ってましたが、氷王とお知り合いなんでしょうか?」
「ああ……。冷備とは、古い付き合いがあっただけだ」
そう語る馬威は何かを憂いているような懐かしんでいるような不思議な表情だった。
「そのお話も詳しく教えていただけませんか? 氷王には問題を解決しろと言われていますが、あなた方の事情を知らずには何もできません。この状況を打破するためにも、何か手伝わせてください!」
シュカの鋭い眼差しが馬威を捉える。
とにかく目の前で起こっている問題を放っておくことができなかったのだ。
「やれやれ、恩人殿はどうやら損な性格をしているようだ……」
その熱意に負けたのか、過去を思い出すように天井を見上げた馬威がぽつりぽつりと話し始めた。
「二十年も昔……我々琥獣の民が氷都を追い出された話は知っているか?」
「はい。ですが、詳しい事情までは……」
二十年前の話は羊昭からも少しだけ聞いている。
「その理由については後にしよう。我々が氷都を追い出された当時、氷都に住むことができなくても大きな問題が無いと思っていた。氷都から出ることを躊躇いはしなかったが、我らを少しずつ蝕むように状況は変わっていった……」
話し続ける馬威の握り拳に、力が込められた瞬間をシュカは見逃さなかった。
「寒いだけなら我らも我慢できた。それが年を経る毎に厳しくなり、寒季も明らかに長くなったのだ。じきに暖かくなるだろうとお互いに励まし合って寒季を耐え忍ぶことが続いたが、寒さが増す一方で暖かくなることはなかった」
外で今も降り続き、山のように積もっている雪を馬威が指差す。
羊昭に聞いた話とも一致する。
「元々この土地の寒季は、膝下程度しか雪が積もらなかったが、いつしか年中雪が降り積もるようになっていた。環境の変化によって植物は育たなくなり、長い寒季と飢餓に耐え切れずに家畜が死に始めた。遊牧だけで生計を立てることができなくなった我々は、ひたすら凌ぐ生活をするしかなくなった……」
そして、三人は彼らの食糧庫に案内される。
「ここ数年は辛うじて生活できていたが、ついに食糧の底が見え始めたのだ。そこでもう我慢できないと、南天への脱出計画を実行したのが羊昭たちだ。苦肉の策で立て直しを図ろうとしたのだが、それすらも我らの神には見放されて失敗に終わってしまったが……。急激な寒冷化は、遊牧民の我らを拒絶するかのように牙を剥いてきたのだ」
馬威が言う通り、そこに彼らがあと一月耐えるだけの食糧は残っていない。
残された食糧が彼らの命の残り時間を示していると理解したシュカは、目の前の現実から目を逸らしたくなった。
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