第5話「蹂躙」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
移動した高台からは砦の向こう側がよく見える。
砦の前に陣取る兵士たちの前に琥獣の戦士たちが姿を現す。
ゆっくりと砦に向かって歩く彼らの数は十人にも満たなかった。
「たった数人で攻めて来て、彼らは何がしたいんだろう……」
兵士たちは琥獣の戦士が近付けないように矢を射て牽制を始める。
だが、雨のように飛んでくる矢の嵐であっても、琥獣の戦士はまるで目の前を飛ぶ迷惑な羽虫の如く叩き落としてしまう。
たとえ矢が当たっても突き刺さることはなく、兵士たちの行為は無意味と言っても過言ではなかった。
「あいつら頭悪すぎ。弓矢なんかじゃ無駄だってわかんねえのかよ。傷一つついてねえってのに」
ホムタの退屈そうな声が横から聞こえてくる。
大岩に積もっていた雪を払い、その上で胡座をかき頬杖をついて戦況を眺めている。
ヤヒコもいつも通りその傍に控えていた。
「まあまあ。そう見えて彼らにも何か作戦があるのかもしれませんよ?」
「ははーん、ヤヒコさんにはあれが作戦に見えるってんだな。それじゃあ、あれは何のためだって言うんだよ」
ホムタがヤヒコを試すような面持ちで見ている。
「ただの無駄射ちでしょう。作戦などありませんよ。まともな指揮官がいれば、既に何か展開しているはずです。恐怖のあまりこちらに来るなと言っているみたいで滑稽ですね」
「やっぱり無駄なんじゃねえかよ! 指揮官ってことはさっきのヤツか。兵士たちをあれだけ疲弊させてんじゃあ、有能とは言えねえよな」
砦の正面には剣や槍を持った兵士たちが待機している。
しかし、彼らの士気はどう見ても高くない。
一方で、その兵士たちを目指して進み続ける琥獣の戦士たちの姿は、逃げ場はもう無いと獲物を追い詰める狩人のようだった。
兵士たちのほうもただ立っているだけでなく、生成した氷剣や氷槍を振るい、じりじりと近付いて来る敵に抵抗を開始する。
だが、その手に持っていた武器のほとんどが、琥獣の戦士の強靭な力の前に砕かれてしまった。
絶え間なく降り積もる雪と共に周囲に氷片が舞う。
武器を失ってしまうと、戦局は一方的になった。
兵士たちの悲痛な叫び声が一帯に響き渡る。
味方ごと攻撃する訳にもいかず、弓兵たちはその様子を見守ることしかできないでいるようだ。
三人が立っている場所が戦場から離れているにも関わらず、聞こえてくる叫喚に思わず耳を覆いたくなる。
しかし、彼らが何のために戦っているのかを知るためにも、一部始終を目に焼き付けた。
殴り飛ばされて気絶する者。
攻撃できないように腕や足を折られる者。
逃げようとする者。
そして、それらを淡々と実行していく琥獣の民たち。
それが終わるまで、大した時間は掛からなかった。
静寂の時が訪れると、砦の前にいた兵士のほとんどが、怪我を負わされて倒れていた。
気絶した者を除いて、ほとんどの兵士がその痛みに藻掻き苦しんでいる。
無慈悲な暴力が振るわれた現場ではあったが、決して命を奪わないのは琥獣の戦士たちが意図的に行っていることだとわかった。
手加減しているのは彼らの事情が関係しているのだろうか。
琥獣の戦士たちはもう立ち上がる兵士がいないことを確認して砦を去って行く。
戦っている間に何かを訴えていたのかもしれないが、離れた場所から聞き取れるわけがない。
彼らが求めるものを知る機会を逃してしまった。
シュカが飛び立って彼らに近付こうとする度に、巻き添えになりたいのかと二人に止められてしまったのだ。
あまりに一方的な戦闘を見てしまうと、兵士たちが琥獣の戦士を化物や怪物と表現する気持ちも少しは理解できた。
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