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碧空アルバム ~氷雪の王国編~  作者: 白浪まだら
序章「碧空の民」
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第7話「病」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 シュカが薬師の家を大慌てで訪ねると、その尋常ではない様子を見て緊急の要件であることを悟った中年の薬師が食事中であったにも関わらず、最低限の荷物をまとめてすぐに来てくれた。


 家に着いた薬師はさっそく荷を広げて、寝床に寝かせられているジュナの診察を始めた。

 高熱にうなされている彼女はとても辛そうにしている。

 そして、その頬や腕には、見たこともない赤い斑点が現れていた。


「この赤い斑点は……。まさか!」

 薬師は倒れた時の患者の様子やいつ倒れたのかをダンシュに尋ねつつ、持って来た大きな鞄から古い文献を取り出し、目的の情報が載っているページを探し始めた。


「や、やはり……!」

 どうやら薬師は目的のものを見つけたようで、文献とジュナの様子を見比べて一人で納得している。


「……これは、重い病気なのでしょうか?」

 カーシェがそうではないことを祈るようにしながら、薬師に問いかけた。

 周りの皆も固唾を飲んで見守っていた。


「この病ですが……。遥か昔、碧空の民を苦しめた奇病だとこの文献には記されています。主な症状として、赤い斑点が集合し、それがまさに燃えるように見えること、高熱が出ることから炎呪(えんじゅ)というそうです」

 ジュナの症状を指差しながら、薬師は説明を続ける。


「かつては『英雄王シヴォンがこの病を治す薬草を見つけ出し、すべての民が救われた』とありますが、その薬を飲むことができなければ、患者の命は徐々に衰弱して半年も持たずに、死が訪れてしまうと……」


「ああ、そんな!?」

 カーシェは驚きのあまり声を失って倒れ込みそうになるが、すかさずダンシュが支える。

 傍で聞いていたドルナも、悲しみを(こら)えているのは明らかだった。

 シュカでさえ、今自分がどうすればいいのかわからない。


「当時から原因については不明、わかっているのは突如発生する奇病であることのみ……。そして、特効薬になるという薬草の在処です」

「それは、どこに!」

 声を荒げたダンシュが薬師に問いかける。


「ゲオルキアの白き土地の奥、寒冷な地に薬草となり得る氷魂草(ひこんそう)が自生しているようです」

 氷魂草という薬草を手に入れることができれば、ジュナを苦しみから救うことができるようだ。


「白くて寒冷な土地……と言うと、ゲオルキア大陸の北方、白雪の大地が広がるというシャンのことでしょうか。シャンは皙氷(せきひょう)琥獣(こじゅう)、寒さに強い二つの民が暮らす国だったはずです」

 カロムが大陸の知識を思い出しながら話す。

 皙氷の民と琥獣の民という種族は、シュカもカロムから教えてもらったことがある。


「確かに、寒い国と言えば、シャンだったな」

 ダンシュもかつてセヴァヤクに行った頃の記憶を思い出しているようだ。

 文献に載っていた国名は現存しないが、氷魂草があるのはシャンの奥地という可能性が高いだろう。


「ゲオルキアとの流通が限られている今、この国で氷魂草を手に入れるのは困難でしょう。それに今すぐ国の協力を得られる保証もありません……」

 薬師が申し訳なさそうに事実を告げる。

 英雄シヴォンの時代のように国の危機に発展していれば、王宮の力を借りることもできたのだろう。


「つまり、このまま待って時間を無駄にしてしまうよりも、自分たちで採りに行ったほうが早いと……」

 薬師がぼかした結論をカロムが代弁した。


「採りに行くなら、俺が行くしかないな」

 ダンシュがゆっくりと皆を見渡す。

 文句はないよなと問いかけるように。


 ゲオルキアに行ったことのある自分が行くのが望ましいと思っているらしい。

 とはいえ、ダンシュは先日五十歳の誕生日を迎え、ゲオルキアに行った頃と比べても、かなり老いているに違いない。


 そんな年齢の父を危険な土地に行かせてしまっていいのだろうか。

 ダンシュに支えられているカーシェの不安そうな感情は、シュカにもわかった。


 ダンシュが行かないなら、次の候補はカロムになるわけだが、知識豊富で頼りになっても危険な場所に行かせることはできない。

 男手が望ましいことを考えると、選択肢はもう一つしかなかった。


「いや、父さんには行かせられない。僕がゲオルキアに行くよ」

 とっくに決意はできている。

 シュカは真剣な眼差しで父を見つけた。


「バカ言うな。セヴァヤクを迎えたばかりのお前が行ってどうする? 俺にみすみす息子を見殺しにしろとでも言うのか?」

「そうじゃない! 僕だって死ぬつもりはないよ! この手でジュナを助けたいんだ!」


「いいや、お前はゲオルキアの過酷さを全然わかっちゃいない。俺はあの地で何度も死にかけたんだぞ。その俺が! お前には無理だと言ってるんだ!」

 ここまで白熱した父の姿をシュカは初めて見た。

 それだけこの場を譲るつもりはないという覚悟を感じた。


 だからといって、シュカも簡単に引き下がるような半端な覚悟で大陸に行くと言ったわけではない。

「それを言ったら、父さんだってもう歳じゃないか! この前ぎっくり腰したのを忘れたなんて言わせないよ! そんな人がゲオルキアに行っても死ぬだけでしょ!」

「シュカ!」

 母が(いさ)めてくるが、シュカはもう止まらない。


「もうぎっくり腰は治ってるからな! それに、たとえぎっくり腰をやってたとしても、お前よりは俺のほうが強いし! 悔しかったら、俺に勝ってみることだな! ゲオルキアに行くのは、ガキの喧嘩じゃねえんだぞ!」

 父の気迫は凄みを増している。

 正直言えば、いつも優しい父がここまで激怒するとは思ってもいなかった。


 ただし、シュカは父の言い方にカチンときた。

 壁に立てかけてあった剣を抜き、父に向ける。

「……だったら、僕と決闘してよ!」


 その場にいる誰もが唖然(あぜん)としていた。

「おい、シュカ。それは本気で言ってるのか?」


「もちろん。だから、僕が勝ったらゲオルキアに行くのを認めてもらうから」

「なら俺が勝ったら、もう文句を言ってくるなよ」

 ダンシュも自身の剣を抜き、シュカの剣に交差させた。

 それはつまり、決闘を承認するという合図である。


「言わないよ。というか、そもそも父さんに負けるつもりなんかないし」

「なんだと?」


「はいはい、そこまで。シュカってば、若い頃のあなたにそっくりなんだから」

 母がシュカを見る目は、昔を懐かしんでいるようにも見えた。

「何がそっくりだ。全然似てないだろ」

「そういう頑固なところよ」


 話に割り込めずにいた薬師が、ようやく口を開いた。

「他人に感染するとは書かれていませんが、流行(はや)り病であることに間違いありません。もうすでに他の誰かが炎呪に(かか)っている可能性もあります。私も王家にかけ合ってみますが、一介の薬師の意見が届くには時間がかかると思いますし、期待はしないでください」


 薬師は今できる限りの処置を施し、精一杯の誠意を示してくれた。

 もしも炎呪が流行ってしまうなら、これから薬師も忙しくなることだろう。


「全く力になれず申し訳ありませんが、これで失礼いたします」

 高熱に苦しんでいたジュナの様子が落ち着くのを見届けた後、薬師は帰って行った。

 そして二人は、翌日に決闘をするという約束を交わすのだった。

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