第1話「橇の旅」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
数日分の食糧など旅立つ準備を終えて氷都を発った三人は、複数のカニテス(中型犬・サモエドのような種)が引く橇に乗っていた。
これがヤヒコの準備していた手段だという。
小型の獣を巧みに操る老爺と取引して、砦まで送ってもらっているところだった。
普段は砦を行き来する兵士たちを相手にしているという。
最近ではその往来が激しいおかげで、それなりに稼げているのだとか。
「カニテスたちの橇って、意外に速いんだなぁ」
シュカは樹氷が視界を流れていく光景に感動していた。
「これが見れるのも、この国ならではですね」
教えてくれたのはヤヒコだ。
「あ、そうですよね」
この光景は雪深くなる極寒の地域でしか見ることができない。
サヴィノリアにいたままでは一生見ることも無かっただろう。
そう考えると、自分が稀有な経験をしていることに思い至る。
顔に吹き付けて来る風は非常に冷たいが、橇が走る爽快感もあり、意識するほどではない。
「だから寒いって! も、もっと、ゆっくり走ってくれないと、俺が死んじまう!」
一方で、シュカの背中にぴったりとくっついているホムタはまだ寒さに慣れないようで、どう足掻いても吹き込んでくる冷風に我慢できず、しきりに叫んでいた。
「そういえばさ、なんで同じ黎火の民だってのにヤヒコはいつも平気なんだ? あ、実はお前だけめちゃくちゃ厚着してるとかだろ!」
寒すぎて頭がおかしくなったのか、ホムタがヤヒコに八つ当たりする。
誰が見てもヤヒコが厚着をしているようには見えない。
それをすれば丸わかりの細身であり、かえってホムタのほうが厚着をしているだろう。
「いえ。これは火術の応用で寒さを和らげているんですよ」
全く悪びれることなく、ヤヒコが真実を明かす。
「……は?」
予想もしていなかった答えが返ってきたからか、ホムタは呆然としている。
よくよく振り返ってみれば、氷都までの旅路でもヤヒコは寒そうな素振りを一切見せず、強がっているわけでもなかった。
ヤヒコが寒いと言ったことは一度もなく、いつもホムタばかりが極端に寒がっていた。
火術を応用した技術の恩恵をヤヒコだけが受けていたということだ。
ホムタの気持ちもわからないでもない。
「その応用ってのはどうやってんだ。教えろよ」
怒りの感情が込み上げてきているのか、ホムタがその小さな身体で圧をかける。
「まだ未熟なミコには難しいと思いますよ?」
一方のヤヒコは、主人を小馬鹿にしているように見える。
従者のはずだが、時折り見下すような言い回しもするせいで、シュカは二人の関係性が掴みにくいと感じていた。
従者というよりも兄弟のようにも見える。
「もう寒くて死んじゃいそうなんだ。できなくても絶対にヤヒコのせいになんてしないからさ。だから早く教えてくれよお」
ヤヒコがなかなか教えてくれないために、ホムタは駄々をこねる子供のようになっている。
その様子を見たヤヒコはさっさと教えたほうが静かになると察したのだろうか。
寒さ対策になるという術を教え始める。
「先に言っておきますが、ミコにできるかどうかは私にもわかりませんからね」
「うん、わがってる」
「いいでしょう。とは言っても考え方自体はそこまで難しくありません。身体の外側に攻撃的な火を発生させるのではなく、身体の内側に優しく展開するだけです。身体を巡る血液のように、灯した火の温もりを全身に行き渡らせることを意識してみてください」
ヤヒコが言う技術を風術でも活かすことができたらと思うシュカではあったが、さすがに火と風では勝手が違うだろうか。
いつかその術が見つかると良いなと思うのであった。
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