第9話「宝石」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
冷備が馬威を連れて来たのは、王宮内の自室だった。
そこには普段から外へ抜け出す際に、こっそり使っている抜け道がある。
父王に教えてもらったこの道は、かつても父が同じように王宮を抜け出していたことを意味していた。
冷備がたまに街へ抜け出すことは、父も了承してくれているのだ。
だが、中に誰かを連れ込むために使っていたかはわからない。
そうは言っても、王宮の正面からは琥獣の民である馬威を通すことができないため、この抜け道を通って連れて来ることにしたのだった。
「この抜け道は絶対に内緒だからな」
「あ、ああ。こんな秘密、誰にも話せるわけがない」
冷備は自室の棚を漁り、王宮に来るまでに目星をつけた物を探し始める。
その間、馬威はソワソワと落ち着かない様子だった。
急に王宮に通され、気が気でないのだろう。
馬威には悪いが、期待通りの反応をしてくれて嬉しかった。
「んー、これでもない、あれでもない。あー、俺はどこにしまったんだあ!」
探し物はすぐに見つかると思っていたが、なかなか見つからない。
あっという間に部屋の中が泥棒に荒らされたように散らかっていく。
気付けば広い空間が服や装飾品で埋め尽くされてしまった。
「おお、これだ。やっと見つけたぞ! じゃーん」
目的の物を見つけた冷備がそれを馬威に見せつける。
冷備の手にあったのは、綺麗に光る宝石だった。
純度の高い氷のように透き通り、やや青みがかっている。
「これがさっきの礼だ」
目を丸くしたままの馬威は、なぜか差し出された宝石を受け取ろうとしない。
何か間違っていたのか、それとも気に入らなかったのだろうか。
「ん、どうした?」
「こんな明らかに高そうな物をはいそうですかと受け取れるわけがないだろ。実はシャン王家に代々伝わるものとか言わないよな?」
疑いの眼差しで見つめる馬威が頑なに拒絶している。
王家に関わる代物であることを警戒しているようだ。
冷備はひたすら拒絶するその困惑の様子が面白くて、つい笑ってしまった。
「そんなことを気にしていたのか。心配するな、これは俺が荒雪山で拾って来たただの宝石だ。ただ綺麗なだけで、たいしたものではないはずなんだが、妙な力を感じる。親友の馬威だからこそ、持っていて欲しいと思ってな」
不思議な力を感じるこの宝石をつい持って来てしまった冷備だが、王宮に置いておくのは危険かもしれないと思った。
そこで親友である馬威が持っていてくれるなら、冷備も安心できるというものだ。
「あそこは危険だから絶対に一人で行くなと言ってただろ! 俺が止めても無駄だとは思ってたが、ここまでバカだったなんて……。何かあったらどうするつもりだったんだよ!」
馬威が熱くなっているが、怒りだすことはなんとなくわかっていた。
それだけ冷備のことを心配してくれている証でもあるが。
「こうして無事帰って来てるんだから問題無いさ。むしろ本当に危険な場所だったのか、静かすぎて不気味だったくらいだ」
冷備がその時のことを思い出しながら言う。
なぜかこの宝石を見つけた時はビスティアとも遭遇することなく、最奥まで辿り着いたのだ。
「頼むからたまには俺の言うことも聞いてくれよ。何かが起こってからじゃ遅いんだ。……まあでも、これは大切にさせてもらう」
馬威も冷備の奔放さには諦めているようだ。
渋々ながらも、折れてくれる。
馬威のそういう性格も冷備は理解していた。
だからこそ、この男と一緒にいられるのだ。
二人はこの関係がいつまでも続くことを願って、また拳を掲げてぶつけ合うのだった。
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