第8話「御守り」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「ったく、悪あがきしやがって……。いい加減、決着を――」
ようやくすべての氷刃を蹴散らし終えた寒大猩が声の聞こえたほうを見上げて、開いた口が塞がらなくなったようだ。
氷刃の排除に意識を集中しすぎたため、目前に迫る馬威に気付くのが遅れてしまったのだろう。
「これで終わりだ! 『左脚に全気集結』からの『馬蹴破ぁぁああ!!』」
大木の幹のように逞しい馬威の脚が寒大猩の顔面に向かって直進する。
あっけに取られたままの寒大猩は反応することもできずに、飛翔する龍が如き蹴りをその身で受けることになった。
その巨体は神殿の石壁を破壊してもなお、勢いが止まらない。
吹き飛ばされた寒大猩が止まると、その頬に蹄の跡をくっきりと浮かばせたまま、起き上がって来ることはなかった。
「馬威、よくやってくれた……」
馬威の傍まで自力で歩いて来た冷備はそこで身体の力が抜けてしまい、前方に倒れてしまう。
しかし、馬威がしっかりと支えてくれた。
「おい、大丈夫か?」
「すまない。安心して気が抜けてしまったみたいだ……。もう少しこのままでいさせてくれるか?」
しばらく馬威の支えを受けた冷備は、力が入るようになると馬威から離れた。
「……もう、大丈夫だ」
その後は破壊してしまった神殿の簡単な片付けと気絶させていた盗賊たちを捕縛して、衛兵に突き出した。
冷備と馬威はたった二人だけで、この街の闇として蔓延っていた盗賊団を壊滅させたのだ。
すべてを片付け終えた時には外も暗くなり始めている頃合いだった。
大仕事を終えて一息ついてから二人は帰路についた。
「俺は貧しい人々が集まる地域をこの街から無くしたいんだ。盗賊団の壊滅はあくまで第一歩。まだまだ解決しなければいけない問題は山積みだし、馬威には今後も俺を手伝って欲しいと思ってる」
「最近そればっかりだな。……当たり前だろ。お前が納得できる国になるまで、俺が手を貸してやるよ」
もう聞き飽きたとばかりにうんざりしているような表情を見せつつも、馬威がその拳を突き出してくる。
「はっ。お前ならそう言ってくれると思ってた。これからも頼りにしてるぜ、相棒」
二人は掲げた拳をぶつけ合う。
今となってはお決まりの合図となり、二人にだけ通じる友情を確かめるための儀式でもあった。
「ああ、そうだ。冷備にこれやるよ」
何かを思い出したように呟いた馬威が、内ポケットから何かを取り出す。
それはケルブス(鹿に似た角を持つ獣)の角のように見える。
「ん、なんだこれは?」
「御守りみたいなものだ。お前も知ってるだろ。琥獣の民は友人や家族、大切な人に自分が大事にしている物を贈る。それを再会の印としてな。もしいつか、俺たちが別れてしまうことがあっても、それがあればまた会えるんだ」
どうやら馬威が初めて一人で狩ったというケルブスの角を加工して作ったものらしい。
「……馬威の手作りって、これ大丈夫か?」
冗談交じりに冷備が言う。
「いらないなら、返せ」
拗ねた様子の馬威が御守りを取り返そうとする。
だが、冷備はそれを上手く躱して、すぐにポケットにしまった。
「別にいらないとは言ってないだろ。……それなら、俺も何か渡さないといけないな。ちょっとついて来いよ」
「ついて来いって、どこに……!」
戸惑う馬威のことなど露知らず、冷備はお返しに何を渡したらこの男が驚くかを考えながら、目的地を目指すのだった。
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