第7話「時間稼ぎ」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「ふぅー、やっと動けるぜ。あの技はやっぱ反動がでかすぎるな……」
両肩を回しながら、寒大猩が近付いて来る。
「こっちだ、デカブツ」
冷備が指を立てて寒大猩を煽った。
そして、素早い動きで相手を翻弄するように動き回る。
「陽動作戦ってわけか。いいぜ、乗ってやるよ」
相手も二人の作戦に気付いているようだったが、あえて冷備の誘いに食いついてきた。
何か仕掛けられても、対抗できるという余裕の表れだろう。
しかし、これはチャンスでもあった。
相手が油断している間に、いかに時間を稼ぐことができるかで命運が分かれる。
冷備は氷で自分の分身を多数生み出した。
それぞれを自身の思い通りに動かせるため、攪乱には効果的な術だ。
だが、その分身体が寒大猩によって一体ずつ蹴散らされていく。
まるで次にこうなるのはお前だと、本物の冷備に狙いを定めているようだ。
すべての分身体が数秒と持たずに破壊されてしまい、ほんの少しの時間稼ぎにしかならなかった。
冷備としてはそれでも良いと思っている。
僅かに生まれたその数秒で、次の技を放つことができるのだから。
「『八方を塞ぐ大剣』」
呟いた冷備の背後に八つの氷剣が現れて、一斉に寒大猩へと襲い掛かる。
寒大猩は巨斧でそれらを受け止めた。
八つの氷剣と巨斧がぶつかり、不快な音がその場に響き渡る。
冷備は少しずつ焦りを感じ始めていた。
自分の体力がいつまで持つかわからないというのに、寒大猩のほうはまだまだ動けそうに見える。
「がー!! うぜえ、うぜえ、うぜえ、うぜえ! 『独楽、竜巻き』」
寒大猩はすべての氷剣をまとめて砕くためにその斧を振り回し、旋風を発生させる。
その衝撃が容易く周囲の氷を撃砕すると、ついに寒大猩を邪魔するものは何も無くなった。
「王子様はこれで終わりか?」
冷備の技を蹴散らした寒大猩ではあったが、さすがにその息が荒くなり始めているようにも見える。
たとえ悪あがきだったとしても、疲労を感じさせることには成功したらしい。
「無駄に粘るなよ……。そんじゃあ、先に王子の命をいただくとするか」
一歩、そしてまた一歩、寒大猩が近付いて来る。
その手にある巨斧を振り下ろしただけでも、冷備に止めを刺せることだろう。
地に手をつき俯いていた冷備の周囲には、もう冷気がなくなっている。
それだけ消耗したということでもあり、呼吸が整うまでの時間も明らかに長くなっていた。
だが、不意に上げた冷備の顔に浮かんでいたのは、絶望ではなかった。
「『千万の氷刃が舞う』」
紡がれた言葉の後、数え切れない氷刃が辺りに舞い上がった。
その氷の刃は一つ一つが鋭利な刃物と同様であり、寒大猩の強靭な肉体であっても切り刻んでいくことだろう。
冷備の最後の力を振り絞った一撃が寒大猩に迫る。
「なんだよ、まだ終わってなかったのか」
それでも、予想以上に寒大猩は強敵だった。
まだ巨斧を振り回す力を残しており、振り上げた斧で無数の氷刃を打ち上げていく。
しかし、いくら寒大猩であっても、すべての氷刃を打ち返せはしなかった。
疲労が溜まっていたことも助け船となり、打ち漏らした分がその身体に傷を負わせていく。
とはいえ、洗練されていない技では寒大猩に数多の傷を負わせるのが関の山だ。未だ致命傷には程遠い。
それを見て冷備は満足した。自分の役目を十分に果たすことができたと思ったのだ。
後は馬威がなんとかしてくれるだろう。
寒大猩を襲う氷刃も残り僅かになった時、背後から声が聞こえてきた。
「下がれ! 冷備っ!!」
「ああ。頼んだぞ、相棒」
冷備が振り返ると、ちょうど馬威が空中に飛び上がったところだ。
慌ててその場から飛び退いたために勢い余って壁に激突した冷備だが、その壁にもたれ掛かったまま行く末を見守ることにした。
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