第5話「寒大猩(ハンダシン)」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
椅子の傍に置いてあった巨斧を手に取り、寒大猩が臨戦態勢に入る。
その単純な動きの中でさえ隙は感じられず、冷備が先手を取ろうとしても、反応されそうな予感がして動けない。
同様に感じ取っているのか、馬威もその場を動かないでいる。
いや、寒大猩が放つ威圧感によって動けなかったのかもしれない。
ここまで順調に来ていただけに、冷や汗が冷備の頬を滴る。
「どうだ馬威、いけると思うか?」
「勝てるかどうか、正直言ってわからない。それだけ強い相手ってのがビシビシと伝わってくる。だが、ここまで来たからには、俺たちの力を見せつけてやるしかない、だろ?」
馬威は得意げに笑うが、握っている拳は震えているように見える。
相手の強さの底が見えないことへの恐れか、それとも武者震いだろうか。
「そうだ。俺たちはシャンをもっと良い国にする。そのために、民を苦しめる盗賊団なんて輩には出て行ってもらわなければいけない」
冷備はここに来る前から既に心を決めていたのだ。
寒大猩は一人では絶対に勝てない強者。
だが、今は一人ではない。
隣には親友であり、相棒の馬威がいる。
冷備は寒大猩を睨みつけた。
「どうやら、やる気みてえだなあ。王子様よお!」
先に動き出したのは寒大猩だ。冷備目掛けて、巨斧を軽々と振り抜く。
冷備は氷の盾を発生させて対抗する。
氷の盾は簡単に砕かれたが、すぐさま後方に退避した。
「くっ、馬鹿力が」
鋼鉄以上の強度を誇る盾が砕かれた。
つまり、鋼鉄の盾で防いでも巨斧の餌食になっていたということだ。
それでも馬威が相手の隙を突けば良い。
どちらかが敵を誘い出し、もう一方が死角に回り込む作戦が、二人で一緒に戦う際の共通認識になっていた。
そして、寒大猩の背後を取った馬威が、その後頭部に急接近する。
敵の意識を刈り取るべく、馬威の拳が突き出された。
しかし、下っ端の盗賊たちがあっけなく沈んだ一撃は、巨斧によって止められてしまう。
「背後を取るたあ、卑怯な戦い方をするんだな」
拳を防がれてしまった馬威はすかさず距離を取る。
「盗賊に卑怯だなんだと言われる筋合いはない」
馬威は寒大猩の隙を窺い続ける。
寒大猩の攻撃を一発でも食らえば、馬威であっても致命傷になりかねない。
二人が慎重になるのは必然だった。
だが二対一にも関わらず、この一帯への集中を欠かさない寒大猩に隙と呼べるものは見つからなかった。
「ははっ、間違いねえな。ならなんでもいいから真正面からぶつかって来いよ! 本気で来ねえと、怪我じゃあ済まねえぞ」
「まあ挨拶代わりの一発じゃ失礼だよな。冷備、本気で行くぞ!」
馬威が全身に力を込めると、その周囲に漂う空気が一変した。
見た目における変化は無いが、自身の力を操作して武器に込めたり、素手で戦ったり、琥獣の民はその爆発的な力を駆使して戦う種族だ。
本気になった馬威は瞬発力も攻撃力も格段に上がり、いくら冷備でも何の策も無しに戦いはしない。
「馬威が本気を出すなら、俺も怠けているわけにはいかないよな」
冷備の顔からは余裕が消え、周囲に冷気を帯び始める。
冷備もここまで制御していた力を解放することにしたのだ。
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