第3話「貧民街」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
冷備と馬威の二人が知り合ってから、気付けばもう半年が過ぎようとしていた。
氷都の目抜き通りを二人で歩く光景は今日も変わらない。
馬威も同じように思っているかはわからないが、冷備は彼を親友と呼べる仲だと思っている。
出会った時に馬威を気に入ったというのもあるが、自然と反りが合ったのだ。
馬威と過ごす時間は、窮屈な王宮生活の貴重な息抜きになった。
ある日、大人顔負けの力を持っていた二人は、その力を他人のために上手く役立てようと誓いを立てる。
二人の信念は同じで、悪事を働く者を決して許さなかった。
それ以来、街の衛兵よりも先に悪人を捕らえることが二人の目標になる。
衛兵でもない人間が悪人を捕まえようとするのが珍しいからか、王子と琥獣の民という珍しい組み合わせも相まって、氷都内での二人はちょっとした有名人になっていた。
「なあ、冷備。いったい今日はどこに行くんだ?」
それだけの時間が経ったことで、馬威の口調もスムーズになっている。
むしろ敬語のほうが無理をしていたのかもしれない。
「それは、着いてからのお楽しみってな」
冷備はニヤついた笑みを向けて目的地を頑なに秘した。
どんな悪人であろうと、二人で力を合わせれば懲らしめられるという自信がある。だからこそ、どこへ行くのか、誰を捕らえるのかは言わなくても問題は無く、今回はサプライズにしたいと思っていた。
馬威もそれを理解しているからか、しつこく聞いてくることはなかった。
「もしもつまらない奴だったら、また勝負してもらうからな」
とはいえ、さすがにきつく念押しされてしまう。
馬威が言う勝負とは二人がたまに行う手合わせのことであり、拮抗した実力を持つ二人でお互いを高め合っていたのだ。
よく手合わせをしたがるのは馬威のほうだが、冷備自身も全力で戦うことのできるその時間が嫌いではなかった。
今日二人がやって来たのは、中心街から南西に外れて氷都内でも最も治安が悪い区域だ。
ここでは多くの貧困層がその日暮らしの生活を営んでいる。
床に敷物だけを引いて横たわる者、食べ物がないかとゴミを漁る者、親もいない子供たち。
どんな街であろうと、このような暗い側面は存在する。
王子である冷備にとって、その存在は決して気分が良いものではないが、目を逸らしてはいけない。そんなことをしてしまえば、自分は次の王に相応しくないと思っている。
この区域の最奥には使われなくなって久しい神殿がある。以前は何かの祭祀が行われた神聖な場所だったようだが、それは遠い過去の話だ。
そういった取り壊されていない建築物には、持ち家の無い貧しい人々が身を寄せ合って暮らしている。
しかし最近になって、貧困層がこの神殿から追い出されているという奇妙な情報が入ってきた。
神殿で何か悪巧みが行われていると判断した冷備は、こうして馬威と共にやって来たのだ。
「今までどうやっても見つけられなかったあの盗賊どもが、ここに集まっていると俺は踏んでいる」
神殿に入ろうとした馬威が動きを止めた。
「おい、それが本当なら、二人だけで盗賊団を壊滅させるってことか?」
「俺たちにならできる。いや、俺たちにしかできないことだと思うんだ。氷都の衛兵なんかじゃあ、何年かかっても捕まえられないだろ?」
「確かに冷備の言う通りか。俺たちが、やるべきだな……」
馬威の表情は硬い。
それは今回相手にしようとしている盗賊団が、長年にわたって巷を騒がし続けている集団だからだろう。
二人は未知の相手に遭遇する可能性を考慮して気を引き締めながら、神殿内へと足を踏み入れた。
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