第2話「邂逅」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「……え?」
素っ頓狂な声をあげた少女を守るように立ち塞がった男は、高身長の冷備ですら見上げなければいけないほどの巨体の持ち主だ。
屈強な体躯の持ち主である彼もまた琥獣の民であり、それはあまり良い状況とは言えなかった。
皙氷と琥獣の民が一緒に暮らすようになったとはいえ、友好的な関係を築き始めたのはつい最近のこと。まだ両者の因縁は根深いのだ。
「くっ、何するんだ! その汚い手を離せ!」
「それなら、この子に二度と近付かないと誓えるか」
青年は掴まれている手を振りほどこうと抗っているが、琥獣の民の男の手はびくともしない。
むしろ抵抗するほどにさらに力が籠められている。
「いだだだだっ! わ、わかったって。もう二度と近寄らないって誓う。誓うから、早くその手を離せよ!」
男は青年の言葉の真偽を確かめるために顔色を窺っている。
痛みにもがく青年を見つめて、嘘をついてないと理解したのか、男が力を抜いた。
「はあ、はあ、はあ。今に見てろよ! 父上に頼んで絶対に貴様たちをこの都から追い出してやるからなっ!」
「ほう、それは聞き捨てならないな」
そこに冷備が歩み出る。
青年の愚かな振る舞いをこれ以上見ていることができなかったのだ。
「あ、あなたは、冷備王子!? なぜ、こんなところに!」
口を挟んだ人物が冷備だと気付いた青年の態度が急変する。
「俺に理由を聞いているのか? 多忙な王に代わって街の様子を見に来たに過ぎない。だがそんな折に、琥獣の民を虐げようとしている者がいたなんてなあ。それが許されざる行為だと知らないとでも言うのか? そんな愚か者は目障りだ。さっさと立ち去れ」
「ですが! 先に無礼を働いたのは――」
「それ以上言葉を発するな! 言い訳など言語道断。俺に二度も同じことを言わせたらわかるな? 一家の命は惜しいだろう?」
青年を威圧する冷備の周囲には冷気が漂っている。
いつでも氷術を放てるように準備していたのだ。
たとえ青年が賢くなくとも、王子である冷備には権力、実力共に勝つことができないと理解しているはずだろう。
冷備が本気だと悟った青年の顔はすっかり青ざめている。
そして、これ以上目をつけられたくないと思ったのか、一目散に逃げて行った。これでもう安易なことはしないだろう。
逃げていく青年を見届けた冷備は振り返り、座り込んだままあっけに取られている少女に手を伸ばす。
「立てるか?」
「あ、はい……。お、王子様、ありがとうございました!」
その手を取って立ち上がった少女は、丁寧にお辞儀をしてからその場を後にした。
周りを囲んでいた野次馬たちも、冷備が放つ威圧感に委縮して散り散りになっていく。
その場に残ったのは、冷備と少女を助けるために飛び出した男の二人だけだった。
「冷備王子、助かりました」
そう言って頭を下げる目の前の男を、冷備は不思議な感情で見つめていた。
もし冷備が助け舟を出していなければ、琥獣の民の二人は今後酷い目に会う可能性が高かった。その可能性に気付いていなかったわけではないだろう。
「其方の勇気ある行動に感心したまでだ。それに畏まる必要は無い。名は?」
「馬威、です」
馬威と名乗った男はこの国の王子を前にして委縮しているのだろう。
その体格に似合わず、こじんまりとしている。
「良い名だな。良いか、馬威。俺がお前に会う時だけは王子ではなく、友であるただの冷備だ。友といる時くらい、俺が王子であることを忘れさせてくれるか?」
「……わかり、った、冷備」
馬威はすぐに口調を切り替えることができず、なんともぎこちない喋り方になっていた。そのうち慣れるだろう。
「これから頼むぞ、馬威」
冷備が差し出した手を馬威が握り締め、二人は友情を誓った。
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