第1話「二十年前」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
石造りの建物が目立つ街並み。
それは一見すると南天に似ているが、二十年前の氷都の姿である。
かつての氷都は、まだ大氷河が街を覆っていないことが特に印象的だった。
雪深くなるのは寒季の間くらいで、それ以外の時期ではたとえ雪が降ったとしても、街が微かに白くなる程度だ。
そして、氷の王宮もまだ存在せず、巨大な石造りの王宮が氷都の象徴だった。
現代と異なり、暮らしているのも皙氷の民だけではない。
王子である冷備の父、つまり先代の王が琥獣の民にも住む権利を与えていたおかげで、その多くが氷都内に家を持って暮らしていたのだ。
中には遊牧を主な生業にしているために定住しない者もいたが、氷都で暮らす者のほうが多数派だった。
「王子だからって、政治だの礼儀作法だのかったるい勉強ばっかさせやがって、もっと剣術とか武術を教えろよ。なんでこの国には代々の王族に引き継がれてるような技術が無いんだ……。あ、もしかして自分で作れば良いのか? 俺は天才か」
氷都の街を我が物顔で歩く青年は、かつての若かりし頃、王子だった頃の冷備だ。
座学に飽きると度々王宮を抜け出して、街へと繰り出す落ち着きのない性分だった。
何事も退屈に感じてしまい、自分を楽しませるような面白い事件でも起きないかと期待しているのだ。
「貴様! なんてことをしてくれたんだっ!!」
「ひぃぃい! ご、ごめんなさいっ」
すると、ちょうど男の怒鳴り声が聞こえてきて、まさに求めていた事件の予感がした冷備は、声のしたほうへと急ぐことにした。
「大夫の父を持つこの僕に、無礼を働くなんて! 琥獣の民の分際でっ!」
駆けてきた冷備は繁華街に人だかりができているのをすぐに見つける。
人混みを掻い潜ると、そこには罵声を浴びせている貴族らしき皙氷の民の青年と、その場で膝をついている琥獣の民の少女がいた。
「ど、どうか、許してください……」
少女は泣きながら許しを乞う。
青年の服には冷菓の汚れがこびりつき、冷菓そのものは地面に落ちていた。
状況から察するに、少女が食べていた冷菓が何かの拍子で飛び、青年にぶつかってしまったのだろう。
「ああ、どうしてこの街には、目障りな獣がまるで人のように暮らしているんだろうねえ。ただで許しちゃったら僕の気が収まらないよ。そうだ! 獣なら一匹ぐらい消えても全然問題無いよね?」
口が裂けてしまいそうな気味の悪い笑みを浮かべた青年がその腕に氷術を纏い、大きく振りかぶった。
「おいおい、それくらいにして――」
最初は面白半分にそのやり取りを眺めていた冷備だったが、少女に手をあげることだけは止めなければと思い、人だかりを抜け出す。
しかし、それは無駄足となる。
貴族の青年が振り下ろした腕は一人の男によって受け止められ、目を瞑っている少女に暴力が振るわれることもなかった。
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