第9話「条件」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「まずは、非礼をお詫びさせてください。僕はシュカと申します。妹が罹ってしまった炎呪の治療に必要な氷魂草がここにあると聞いて参りました。一般に出回らないというその薬草を、どうか恵んでいただけないでしょうか?」
そう言ってから、シュカは頭を下げた。
「面を上げろ。氷魂草を求めて、わざわざこんな所まで来たというお前の事情はわかった」
冷備はシュカの話を疑うことなく、真剣に聞いてくれているようだ。
氷王をなんとか説得するためにも、シュカはさらに話を続ける。
「王宮の番兵には一ヶ月待てば謁見できると言われました。ですが、妹の命が関わっているのに、一ヶ月も待つことはできません。この国の者ではない僕には他に頼れる人もいなくて、ご無礼を承知で忍び込むしかありませんでした」
その話を聞いていた冷備の顔つきが急変する。
「ほう……? そんなに予定が詰まっているという話は聞いたことがないなあ。雪駿、貴族の奴らなんかよりも、民を優先しろと言っていただろ」
一度シュカから視線を外した冷備が、雪駿を睨みつける。
「恐れながら王よ。貴族との良好な関係を築くことも、国の運営には必要不可欠なこと。これは平和のためでもあるのです」
だが、雪駿も動じることなく、反論する。
「贅沢するしか能のない奴らなど、気にしなくていい。お前を信頼して今後の優先度調整は任せるが、もし下手な貴族が来たら容赦はしない」
「御意……」
シュカはすっかり放置されてしまったが、全く話の通じない頑固な王というわけではなさそうだ。
むしろ、願いを聞き届けてくれそうな予感さえした。
冷備が一度喉の調子を整えてから、シュカに向き直った。
「見苦しい所を見せたな」
「いえ。それより――」
「氷魂草ならこの王宮にある。ただ、今ではその数を減らし、一株しか無くなってしまった。そんな貴重な物を余所者にどうぞと渡すわけにはいくまい」
氷魂草が王宮に一株しかないことは、さすがに予想していなかった。
「一株……それなら、氷魂草の自生地を教えてください。自分で取りに行きます!」
「いや、今は訳があって荒雪山には近付けないのだ」
何かを悩んでいる様子の冷備だったが、妙案を思いついたように顔が明るくなる。
「そうだ。我が国では、北西の国境付近を騒がせる野蛮な者たちに頭を抱えている。もしもお前たちがその悩みの種を取り払ってくれたなら、残っている一株を渡しても良い。私からの書簡を預けるから、それで琥獣の民を堰き止めている砦に向かえるようにしておこう」
王が合図すると、雪駿がシュカのもとへやって来た。
シュカは唐突に差し出されたその書簡を慌てて受け取りつつ、冷備が言い放った言葉に引っ掛かりを覚える。
「え、琥獣の民って――」
「よろしく頼んだぞ」
氷王はそれ以上何も語らず、質問の隙を与えなかった。
突然笑顔になり、徐にその手を上げたと思いきや、二人が立っていたはずの地面がその姿を消した。
「「あ……」」
二人は咄嗟の出来事に反応できず、突然出現した穴の中へと吸い込まれていくのだった。
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