第7話「緊張」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
二人は物音を立てないよう細心の注意を払って部屋を出る。
そして、付近に誰もいないことを確認し、ホムタの灯火を頼りに歩みを進めた。
薄暗く端まで見ることのできないこの回廊は、どこまでも続いているかのように見える。
幅広い廊下には氷で作られた巨大な柱が立ち並び、所々にテストド(亀に似た獣)のような生き物の像が台座上に祀られていた。
王宮内に飾るということは、この生物が神聖視されているということだろうか。
背中の甲羅の上には山のように見える何かを背負っており、なんとも言えない不思議な雰囲気を帯びている。
「外から見てかなりデカいのは知ってたけどさ、中もこんなに広いんか……。やっぱシャンは一味違うなあ」
「ちょっとホムタ、もう少し静かに。見回りの兵士に見つかっちゃうでしょ」
緊張すべき状況で、あまりにも無神経なホムタをシュカが静かに咎める。
「そんなビクビクしないで堂々としてろよ。もし見つかっても、全員俺がやっつけてやるからさ」
ホムタが剣を抜き、兵士が襲って来ることを想定して素振りをする。いつでも戦う準備はできていると言わんばかりだ。
「そういう問題じゃないんだって。もし騒ぎになったら、王様が僕たちの願いを聞いてくれなくなるかもしれないんだよ。それはホムタも困るんじゃないの? 途中で見つからないようにちゃんと協力して」
「そう言われてもなあ、俺コソコソすんの苦手だし――」
ホムタが言い終える前に、近付いて来る足音が聞こえてきた。
おそらく見回りの兵士だろう。
思わず二人は立ち止まり、ホムタも灯火を消す。
素早く隅に避難しようとするシュカと違って、その場で突っ立っているままのホムタを慌てて促し、テストドの像に隠れる。
二人揃って壁にもたれかかり、息を殺して見回りの兵士たちが通り過ぎるのを待つ。
静かにしようとするほど、自分の鼓動がうるさく感じる。
「夜の見回りって、マジで退屈なんだよなあ」
「基本的に何も起きないからな。この前少し騒がしいなと思ったら、ムース(鼠に似た小獣)が出たんだってよ。まあ、何か出て来てもそんな程度だろ」
「俺たちは、害獣駆除のためにいるわけじゃないんだがなあ」
足音の正体は回廊の見回りをしている兵士たちだった。居眠り防止のためか、二人体制のようだ。
すぐ近くに像があったのは不幸中の幸いだっただろう。
(どうか、僕たちのことを見つけないでください……)
シュカはとにかく祈るしかできなかった。
「おい、この先で何か動いたぞ……!」
「そうやって、俺を脅かそうとしても無駄だって」
「う、嘘じゃないって。本当に、何か大きな塊が動いたんだ……」
何かを見たと言う兵士の声は震えている。
まるでムースよりも遥かに大きな獣を見てしまったかのような。
そして、兵士が指差しているのは、二人が隠れているテストドの像の辺りだった。
シュカは今にも飛び出しそうなホムタを必死に押さえつつ、兵士たちに見つからないようにと願い続ける。
「はいはい、そこまで言うなら見に行くか」
兵士たちはその手に持った槍を構えて、恐る恐るテストド像のもとへ向かう。
ホムタは見つかった時にすぐ斬りかかるつもりなのか、むしろ早く見つかれとばかりにウズウズしている。
段々と近付いて来る兵士たちの姿に、シュカの鼓動は激しさを増していく。
徐々に近付く足音に、もう見つかってしまいそうな所まで兵士たちがやって来た時、氷像の下から急に何かが飛び出した。
「……! 出て来たっ! や、やっぱり、いたじゃないか!」
「なんだ、ウルペス(狐に似た獣)かよ。どうせムースを狙って迷い込んだんだろ」
「あれ? でも、俺が見たのは、もっと大きかったような……」
「お前、それはウルペスに化かされんたんだ。さっさと見回りに戻るぞ!」
「お、おう……。あ、待てって。俺を置いて先に行くなって!」
兵士たちの前に現れたのは、白い体躯のウルペスだったのだ。
ただ迷い込んだであろう小動物に安堵した兵士たちは、警戒をほどいてまた見回りに戻るのだった。
「はぁぁぁぁ……。見つからなくて、良かったあ……」
すっかり気が抜けてしまったシュカは、力なく廊下に崩れ落ちる。
なかなか動悸が止まず、しばらくその場から動くこともできなかった。
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