第6話「決行」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
先に宿を取り、呑気に街を巡るフリをして潜入ルートを確認していると、辺りはすぐに暗くなり、人通りも少なくなってきた。
もう少しすれば、闇に紛れるのにちょうど良い時間になるだろう。
氷都の住人たちがそそくさと家に帰る中、宿へと一度戻ったシュカとホムタは、ヤヒコに見送られて出発することになった。
「お二人のご武運をお祈りしております」
「やっぱり、ヤヒコさんは行かないんですよね?」
「ええ、三人はさすがに目立ちますし、私はお二人の逃げ道を確保することに全力を尽くします。荒事は向いてませんので、陰から見守っていることに致しましょう」
「別に俺たち、戦うわけじゃねえよ」
ホムタが珍しくヤヒコの間違いを指摘する。
「失礼しました。ミコは氷王のような強いお方を見たら、戦いたがるかなと……」
「いやいやいや、そんなことねえって。なんたって今日は、お・し・の・び、なんだぜ」
ホムタは妙にソワソワしている。
本当は戦いたいと思っているのか、これからの潜入作戦を楽しみに思っているのかはわからなかったが、興奮して今は寒さを忘れているようで、それだけはシュカにもわかった。
「なんだか、ドキドキするね」
実はシュカも少しだけこの作戦を楽しみに思っていた。他国の王宮に忍び込む経験は普通あり得ない。
それはいつだったかカロムに聞いた大怪盗みたいだ。
ただし、妹を救うという目的を忘れているわけではない。
むしろそのために必要な行為であり、失敗できない緊張感を感じていたため、何かで気を紛らわしたかったのだ。
もう一度経路を確認している間に、外はすっかり暗くなっていた。
防寒具の隙間から翼を取り出したシュカはその動きを確かめる。
この寒さでも短距離の飛行なら問題無さそうだとわかると、ホムタを抱えて飛び上がった。
氷都の街中は灯りが特に印象的だ。
それは氷で作られた洋灯らしく、なぜ周りの氷が融けないのか不思議だった。
そんな疑問よりも、透明な氷とその中で燃える炎が生み出した神秘的な光景が、シュカの視線を釘付けにする。
ヤヒコに教わった道を慎重に進んで行き、まずは王宮の敷地内に入り込むことに成功する。
街灯からもそこそこ距離があり、兵士の目を掻い潜るのにも最適の場所のようだ。人の気配もあまり感じない。
翼の羽ばたきの音が響かないよう最大限注意を配りながら、目的の場所を目指して飛んでいく。
透き通る氷でできた王宮は、所々に木材や石材も用いられていることが確認できる。
さすがに氷だけというわけにはいかないようだ。
氷以外の素材は内部を見せないようにするために使われ、中が見えても構わない部屋とで素材を上手く使い分けているのだろう。
目的の場所が近付いて来たのでホムタを降ろし、内部からは外が見えにくい部屋が並ぶルートを歩いて進む。
もちろん内部から見えないからこそ、外に見張りの兵士もいるのだが、ヤヒコが言っていた兵士の配置に寸分の違いがなく、おかげで兵士たちの死角を通ることができた。
二人が目標地点までやって来るのにそう時間は掛からなかった。
謁見の間まではまだ距離があるらしいが、王宮内に入るにはこの部屋が最適のようだ。
この部屋が普段から立ち寄る人が少ないことまで調査済みということは、ヤヒコには協力者がいるのだろうか。
他の人と会っている現場を見たことがあるわけではないが、あり得ない話ではないだろう。
目的の部屋は二階だったため、もう一度シュカがホムタを抱えて飛ぶ。
ベランダに降り立つと、早速ホムタが窓を融かし始めた。
シュカは自身の翼をコートの中に閉まってから、作業中のホムタに近付く。
「さ、寒すぎて、全然力が出ねえ」
ホムタが悔しそうに呟く。
なかなか思うように氷が融けず、苦戦しているようだ。
二人が余裕を持って通れる大きな穴を開けるには時間が掛かり過ぎるため、辛うじて通れそうな大きさでやめることにした。
ここで見つかってしまってはすべてが無駄になる。
「ヤヒコの情報じゃあ、謁見の間に行くまでの回廊が一番見つかる可能性があるって話だったな」
部屋に入った後、囁くようにホムタが言った。
「そう、ここからは要注意だね。こんな時間でも王様はまだいるのかな?」
「ヤヒコが言うんだから、間違いねえって」
二人が信頼し合っているのはわかるが、ヤヒコの言うことをすべて鵜呑みにしているのは、ホムタの悪い癖だと思った。
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