第1話「勘違い」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
渋々ながらも事前の取り決め通り氷都の中に入れてくれた商隊とは早々に別れることにした。
お互いにこれ以上同行して、良いことはないだろう。
ビスティアに遭遇することのない安全な旅路だったわけだが、報酬は支払ってくれた。
ただし、シュカの分のみ若干減らされてしまったのは言うまでもない。
ホムタが徹底抗議の姿勢を示してくれたが、商隊長は一切聞く耳を持たなかった。
そして、シュカの不運は続いた。
氷都の散策へ移ろうとしていた所で、後方から声を掛けられた。
「お前は琥獣の民ではないのか!? 今ならまだ間に合う。さっさと氷都から出て行けっ!」
シュカを引き留めたのは、氷都の兵士だった。
「いえ、誤解です。琥獣の民ではなく、僕は碧空の民です」
「碧空の民だと? 俺を騙そうとしても、そうはいかない。その背中に生えている翼が琥獣の民の何よりの証だろ!」
堂々と言ってのけた兵士はシュカの翼を指差し、槍の穂先を向けてくる。
どのように琥獣の民ではないことを証明すれば良いのか咄嗟に思いつかず、シュカも強く否定することができない。
確固たる証拠を見せることができずに困り果てていたのは、ホムタとヤヒコも同様だ。
いや、ヤヒコに至っては少し面白がっているような気がした。
シュカは碧空の民独自の風術をその場で披露したが、それは確かな証拠にならないと首を振られてしまう。
ホムタも加わって騒がしくなると、氷都の住人たちが騒ぎを聞き付けて集まって来た。
琥獣の民が街に入ろうとしていると聞いたのだろうか、明確な嫌悪の視線がシュカにぶつけられる。
美貂たちはこの不快感を南天で感じていたのだ。
「それ以上は、おぬしのためにもやめておきなさい!」
その時、人混みをかき分けて一人の老兵が歩み出て来る。
「健老! それはなぜでしょう。彼が琥獣の民であるなら――」
「彼は琥獣の民ではない、と言っているのだ」
この健老と呼ばれた老兵はシュカの援護をしてくれているようだ。
「そんな、まさか……。では、あの翼は何だと言うのですか? まるで空を飛ぶビスティアのようではありませんか!」
老兵の言葉に少し動揺しつつも、若い兵士は食い下がる。
「琥獣の民は肉体的に優れ、獣と心を通わせることもできる。だが、代わりに彼らは氷や火、風といった術を扱うことができない。一部例外はいるが、先程見せていた風術が何よりの証拠。そもそもとして、翼を持つ琥獣の民はいないのだ」
そう言い切った健老は、若い兵士を睨みつけているように見える。
「そ、そうでしたか。軍一博識な健老がおっしゃるなら、正しいのでしょう……。旅のお方、大変失礼致しました! どうぞ氷都をお楽しみください」
若い兵士は慌てて謝罪すると、元の持ち場へと戻っていった。
「困っているところを助けていただき、ありがとうございました」
シュカは助け船を出してくれた健老に頭を下げる。
「年寄りのちょっとしたお節介だ。その翼を見た時、昔出会った碧空の民を思い出してな。若い兵はその時代を知らぬ故、こちらこそ迷惑をかけた」
「そんなことはありません。氷魂草を手に入れるために来たのですが、とにかく氷都に入れて良かったです」
騒動があったことを考えると、氷都にいる間は極力翼を隠しておいたほうが良さそうだ。
「なるほど、それで氷都に。王に話せば、きっと相談に乗ってくれるだろう」
と健老が朗らかな笑顔を見せてくれる。
「はい、ありがとうございます!」
「ま、なんとか氷都にも入れたし、王に会えばなんとかなりそうだし、良かったな、シュカ」
その声に気付き、ホムタを見た健老が驚きの表情を見せる。
「ほう、こちらは黎火の民だったか。碧空の民と一緒とはこれまた面白い。異国からの旅の方々、氷都へようこそ」
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