第10話「道中」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
南天を出発したシュカたちは商隊の馬車の中で揺られていた。
エクーズに乗っていた南天までの道のりとは異なり、その必要が無いのは非常に楽だった。
隣に座っているホムタは完全に気を抜いているようにしか見えないが、ふとした瞬間に見せる真剣な表情や俊敏な反応、辺りの気配を窺う姿勢から、決して油断しているわけではないことが十分に伝わってくる。
ダラダラしているのは見せかけで、いつビスティアが襲って来ても良いように準備ができているのだ。
ただ頭の後ろで手を組んで足を伸ばし、寝ているわけではない。
「なあなあ、シュカって今いくつなんだ?」
気だるげそうにホムタが聞いてきた。
「えっと、歳ってことだよね。ちょうどこの前十五になったばかりなんだ。ホムタは十三歳ぐらい?」
シュカが純粋に思っていたことを言った瞬間、ホムタが立ち上がった。
「おいおいおいおい、シュカさんよお。俺の身長が低いからって、チビだからって、子供にしか見えないからってさあ、馬鹿にしてんな? 俺だって十五なんだよ! なんなら一月前には、もう十五になってたしな」
そう言いながら圧をかけてくるホムタをヤヒコが制止する。
「ミコ、全く自慢になりませんよ」
冷静に諫めるヤヒコに対して、シュカはホムタの年齢に動揺する。
「え、同い年なの!?」
ホムタとシュカが並ぶと頭一つとは言わないが、それだけの身長差がある。
シュカは即座に察した。ホムタに対して身長の話題はやめたほうが良いと。
だからこそ、年齢について大袈裟な反応をして見せたのだ。
「ミコは若見えしますからね。大変羨ましいです」
ヤヒコも援護して話を逸らしてくれる。
それだけこの話題には注意すべきということなのかもしれない。
「そんなに褒めんなって。照れるだろ」
褒められていると思っているホムタは、幼いと言われているとは微塵も思っていないだろう。
ヤヒコの言い方も常に棒読みで気持ちが籠っていないように感じるため、考えていることがイマイチ読み取れない。
シュカは彼らのやり取りを聞きながら、苦笑いするしかなかった。
「そういえば、二人の燃えるような赤い髪に黒めの肌。明らかにシャンの人じゃないと思うんだけど、どこから来たの?」
彼らがどの国からやって来たのか、シュカはずっと疑問に思っていたことを聞いた。自分も余所者ではあるが、気になって仕方が無かったのだ。
「俺たちは黎火の民だ。聞いたことないか? ジストゥスって国」
「黎火の民……。ジストゥス……」
彼らはシャンに住む皙氷の民や琥獣の民とは異なる黎火の民であり、ジストゥスという国から来たようだ。
国の名前は初めて聞いた。
「あっち、こっち? あれ、どっちだっけ……。とにかく、山を越えて来たんだ」
方々を指差し、なぜか偉そうにしているホムタの説明はなんともわかりづらいが、ヤヒコが補足してくれる。
「私たちは、シャンの東部にある険しい山脈地帯を越えて来たんですよ」
現在の進行方向から確かな方角を導き出したヤヒコは、微かに見える山脈地帯を指差す。
「東から……。ということは、そこには黒煙を吐く山がありますか?」
シュカはサヴィノリアから見た光景を思い出す。
東方には黒煙を出し続ける巨山が見えていたはずだ。
「ご存知でしたか。私たちの故郷であるジストゥスは、その巨大な火山の麓で栄えた国です」
「やっぱり、そこにも国があるんですね! いつか、行ってみたいなあ……」
黎火の民が暮らすという国には、火山の他にどんな景色が広がっているのだろうか。
膨らみそうな妄想を抑え込む。
「シュカなら大歓迎だぜ」
「ありがとう。その時はホムタに案内してもらおうかな。ちゃんと聞いてなかったけど、二人が氷都に行く目的って何だったの?」
シュカがふと質問を投げると、奇妙な間があった。
「あ、ごめん……。聞かないほうが良かった、かな?」
「いや、野暮用だよ。ちょっとばかし借りたいものがあるんだ」
それ以上聞くなとでも言うような威圧感にシュカは黙ることしかできなかった。
この話題も極力避けたほうが良さそうだ。
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